俺のお迎えは黒髪赤目の美少女死神でした
佐座 浪
最期
「——ちわー! お迎えでぇす!」
学校終わり、
「誰だお前」
「誰って、決まってるじゃん! お迎えって言ったら寿命! 寿命って言ったら死神! つまりはそういう事でぇす!」
わざとらしいピースサインとウィンク。駄目だコイツ、極まってやがる。聞き返したのが間違いだった。
「はあ、そうですか。俺、この後忙しいんで失礼します」
「いや待てよ! 人を不審者扱いするな! そこはインドア系男子高校生らしく、ライトノベル的展開に胸を踊らせるとこやろがい!!」
気にせず通り過ぎようとした俺の肩をひっつかみ、慌てる不審者。
高校生を馬鹿にすんな。現実とフィクションの境目くらいは分かってる。ここは、強引に振り解かせてもらおう。
「すみません。急いでるので」
「えぇ……これでも駄目なのぉ……? じゃあ、仕方ないね」
「——んなっ……!?」
身体が、動かない。コイツの言葉を耳に入れた途端、前に進めなくなった。
「死神、それは人の終わりを導く者。常識でしょ? 終わりからは誰も逃げられないって」
ファンタジー脳全開の仮面を剥ぎ捨て、自称死神が実に真剣な面持ちで、俺の目を見てくる。
気持ちの悪い目だ。比喩でなく、意識そのものが吸い込まれていくのが分かる。
「最期にあんまり手荒な真似はしたくないし、大人しくあたしの話、聞いてくれるよね?」
選択肢の無い問いに、無言で頷く。未だに半信半疑だが、コイツの話を聞かない限りどうにもならないのは間違いない。
「よぉし! 聞き分けの良い子は好きだぜッ!」
上機嫌そうに死神がバンバンと背中を叩いてくる。傷が痛むからやめて欲しいんだが。
「さぁてと、時間も無いし本題に入ろう。君は今日、寿命を迎える。だから死神であるあたしが、お迎えに来た。はい、説明終わり! 理解できたかな?」
「……雑だな」
「仕方ないじゃん、他に言える事無いんだもん。職務規定かなんかで、言えない事がいっぱいあってさ……」
成る程、決まり事のようなものがあるのか。
「死神にも、そういうのがあるんだな」
「あるある。そっかーって思えるようなものもあれば、首を傾げたくなるようなものまでいっぱい。昔、その事で上司を問い詰めたら、俺も知らんって言われてすっごいげんなりした事ある」
溜息を吐く死神。何気なく、やけに人間らしい単語を出してきたもんだ。
「……こんなのが死神だってのかよ。もっと厳かな感じだと思ってたんだが」
「あれは、そう言う人が書いてるからね。ま、そういうのも居る、って事だよ。タイプによって担当が違うのさ」
「ならお前は、どういう人間の担当なんだ?」
「そりゃあ美少女のあたしは、出会いに飢えてるインドア系男子高校生の担当だよ。ちょっと手違いっぽい君以外は、比較的楽に仕事が終わってる。当世の読み物様々だね」
陽の光に照らされて、あっけらかんと自称美少女が笑う。
「おっ、時間だ。んじゃ、あたしの手を取って。後は別の連中が、決まってる死因に沿って辻褄を合わせてくれるから」
呆気なく差し出された死神のか細い手を握ると、周りの景色が遠のいていくのが分かった。
その手の感触も、むせかえるような草の匂いも、口中の血の味も、あれだけやかましかったセミの声でさえ、ゆっくりと薄れていく。
「……そうだ」
そういえば一つ、コイツに言っておきたい事があった。
「何、どしたの? 遺言?」
「——お前は、同情しないんだな」
すると死神は、一瞬だけ驚いたようにその目を見開いた。
「そりゃあ、そうだよ。終わりは誰にでも来るものだし、人生に価値とか見出すのは人間だけ。死神から見たら、どんな人生でも魂は全部一緒だから……」
そこで一度、言葉が止まる。迷っているのかは分からない。俺にはもう、コイツの顔も見えない。
「それにさ、書類に文字で書かれた人生を読んだだけのあたしに、ペラッペラで月並みな言葉を投げかけられても不愉快じゃない?」
「はっ……成る程な——」
ついに、口も開けなくなる。ああ、俺が消える。終わっていく。心残りは無い。そんな贅沢は知らない。
「あーあ、言っちゃった。始末書だぁ……」
——まだ、聞こえてるっての。笑えるぜ、人生最期に聞く音がこれかよ。
まあ、強いて挙げるなら……そうだな。もっと早くに、コイツみたいな奴と出逢いたかったな——
俺のお迎えは黒髪赤目の美少女死神でした 佐座 浪 @saza-nami-0406
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