番外 亡者の日

10月31日の夜、ケルト人にとっては1年の終わりを表しており、その時に死者が家を訪れるというな事があるらしい。だから日本でいうお盆だとかその死者の中に紛れるための仮装だとか言われるようになったんだろうか。

つい最近の仕事中に仕入れた雑談の知識から考えながら煙草の代わりとストックされた棒付き菓子に手を伸ばした。


最近は専らチョコレートが多い。というのもハロウィンにかこつけて行われるセールで安売りされているからだ。俺は別にキャンディーでもいいんだが、林がいつも同じものだと飽きてしまうだろうと謎の気遣いを見せて買ってくるのでそれを甘んじて受けている。本当は口にいつまでも残る甘ったるいチョコはあまり定期的に食べたくないのだが…もしかして林はそれも見越して糖質を取り過ぎないようにこれを?


「…なわけないか」


そこまで回る頭じゃないと考えて手に持つお化けのホワイトチョコを口に含む。うん、甘い。

今読んでいる記事は自分が書いた丁度今日公開された映画の宣伝記事。関係者のみの特別試写会を見に行ったがなかなか面白かった。ハロウィンで盛り上がる街中から死者が集まる世界に迷い込んでしまった子供と人間が苦手な化け物の1日だけの冒険劇。最初こそは在り来りなものかと思っていたが、展開がただのお涙頂戴ものじゃなく考えさせられたりする内容だったのも評価が上がるひとつの要因だった。どうせなら林を誘って見に行こうかと考えつつ口の中の甘味を溶かす。我ながら上手い記事だ。ネタバレを避けつつ作品の魅力をしっかり伝えることが出来ている。初速もいい感じだったし今も順調に伸びている、問題は特にないだろう。俺はパソコンをシャットダウンさせて存在意義をなくして残された棒をゴミ箱に捨てた。


「あ、終わりました?」


作業部屋から戻るとのんびりとテレビを見る林に鉢合わせる。四角く薄い電子箱からはこれまたハロウィン特集が垂れ流し状態であり、いかに日本人が浮かれているかを考えさせられる。


「トリックオアトリート」


しかし俺もそんなものに浮かれる人間の一部だったようで、そんなことを口走っていた。


「はぇ?」


流石の林も驚いたらしい。互いに驚いていて部屋には街頭インタビューの音声だけが響いている。いい加減撤回しなければ…そう思って口を開いた瞬間だった。


「もうちょっとだけ…待ってもらえれば」

「え?」

「今作ってるんで」

「…え?」


用意していてそしてまさかの手作りにまた驚いて思考が止まる。ボケーッと口を開いたままでいると林が続ける。


「えっと…この前たまたま美味しそうなレシピ見かけて食べてみたいなぁって……宮さん?」


しどろもどろになる林を見ながらだんだん頭が動いてきた俺はいつの間にか笑ってしまっていた。


「いや…ありがとう」


自分が食べたいから作ってそれがたまたまハロウィンと重なるなんて、やっぱりこいつはどこか持っているなぁと考える。だからこそ面白いし自分が好きになったんだと改めて実感した。


「あ、そうだ宮さん」

「ん?」


そんな風に思い返していると林に呼ばれる。


「トリックオアトリート!」

「…は?」


年齢に合わない両手を広げポーズをするのが可愛いんだか気持ち悪いんだか…ってそういうことじゃないな。


「なんでだよ」

「だって言われましたから…ねぇ」


ニタリと笑う林に若干の苛立ちを覚えつつも、俺はストックのチョコがあと何個あったかなと僅かに作業場へ後ずさった。



(暗転)

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