過去話 煙草と飴

煙草は軽減税率の対象外らしい。結局は嗜好品だし当たり前か。


「嗜好品…ね」


ふと呟いて手元にあった辞書を開く。曰く「栄養物ではないが好きで飲食を嗜む」らしい。

さっと辞書を閉じて手元にあった灰皿を引き寄せる。

他の人は知らないが別に俺は好きで吸っているわけじゃない。吸わなきゃやってけないだけだ。

そう言い聞かせながらピアニッシモに火をつけた。肺の中に害が蔓延していってるのを感じながら息を吐くと月白の煙が空気を汚す。

隅っこの方で空気清浄機が起動し始めて流石の機能だなと感心していたら鍵が開く音。


「ただいま戻りましたよぉ…」


同居人の声に急いで煙草を消す。


「あれ、宮さん煙草ですか?消さなくても良かったのに」


元々林も喫煙者であった。確かセブンスターだったかと考えて某歌手の歌がふわりと脳を掠めていく。

煙草から細く薄く煙が伸びているのを見て「まぁいいですけどね」と洗面所へ消えていった。


「やっぱり禁煙は辛いか?」


戻ってきて隣に座った林に何となく声をかける。

直前まで吸ってたやつの当てつけみたいに聞こえただろうかと考えたが恋人はそんなこと気にしていないようだ。


「うーん…まぁ口が寂しい…ですかね」


しばらく考えてから林はゆっくりと答える。

本人的には何となく答えたんだろう。

ただ。


「…そうか」


最近溜まっているからか、林がエロいだけなのか、言葉がただただエロいのか。多分全部か。

唇に人差し指を当てる林にムクリと欲が掻き立てられる。


「…宮さ…ん…」


気がついたら腕を取ってキスをしていた。

ただ触れるだけのそれだけでも僅かに頬を赤らめるのが可愛くて。かさついた薄い唇に舌を這わせて口内に侵入させる。

柔い扉に閉ざされたそこは熱く、甘かった。

非喫煙者の口内は甘いというのはTwitterで見たことがあったが本当だったとはと少し驚く。


「っ…ん…ぅ」


逃げようとする舌を器用に捕まえて絡ませると林が少しだけ眉を顰めた。確か非喫煙者側は少し苦く感じるんだったか?もう歳かな、そんなに詳しくなんて覚えていない。


しばらく堪能してからゆっくりと唇を離した。

端に零れた唾液を拭いながら林が「長い」と抗議の声を上げる。


「でも、口が寂しいんだろ?」

「飴とかあるからそれで大丈夫ですよ」

「ふーん」


息を整えて目じりに溜まった涙を服の袖で拭く林。


「そんなに嫌?」


ちょっと疑問に思って聞いてみた。キス自体は嫌じゃないだろうが、流石に煙草の直後は嫌だっただろうか。相手は禁煙しているんだし。悪いことしたかもな。

謝罪の言葉を述べようとしたその時だった。


「いや…じゃないけど……」

「けど?」


林が呟いた。

答えを促すようにオウム返しすると、ふいっと顔を背けさせられる。


「ほしくなるから…だめ…」


時間が止まったような気がした。

え、欲しくなるからって何?我慢できないってことか?耳真っ赤にして可愛すぎる。


「っふぁ!?」


勢いのまま抱き締めて耳をゆっくりと食む。

めちゃくちゃに焦り始めた林だったが時すでに遅し。腕力でがっつりホールドを決めてここから逃がさない。


「ちょっ…お風呂とか入ってない!」

「挿れはしないから」

「そういう問題じゃなくて!」


だって煽ってきた方が悪いだろ?

耳に吹きかけるように責任を押し付けると、腕の中の体温が一度上昇した気がした。



(暗転)

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