過去話 ご飯
「は?」
「だーかーら、少し太ったかって聞いてるんですよ」
後輩と同居を始めて半年。一足先に風呂に入って居間でくつろいでいるとホカホカと湯気を立たせる後輩にそう言われた。
「そうか?」
自分の腹をさすってみると確かに少し肉の感触がある。そうか目に見えて分かるほど太ったのかと思っていると焦ったように後輩は続ける。
「まぁ元々不健康そうなやせ方してたんで逆に安心感はありますけど!」
「そうか…最近は朝と夜しっかり食べれてるからか?」
同居を始めてから朝と昼は後輩が作ることが多い。というのも後輩が料理が好きらしくよく振る舞ってくれるのだ。集中しすぎると何も食べなくなってしまい、最悪一日全てご飯を抜いてしまうこともあるので凄い助かるなぁとは感じていたがまさかここまでとは。そして同時に今までの自分の食生活どれだけ酷かったんだと実感。
「ま、同居するときに言われましたからねぇ」
「え?」
「あ」
口を滑らせたというような顔をして後輩が口を手で塞ぐ。流石にスルーするわけにもいかないので無言でただじっと眺めていると彼は堪忍したようにため息をついて白状した。
「それが…その宮田さんのお母さんに頼まれまして…「うちの子集中すると食事忘れるから絶対三食は食べるようにしてやって」って」
「はぁ…後輩にそんなこと言ってたのか」
「でも料理自体は元々好きなので全然大丈夫ですよ!」
「うーん」
慌てて弁明する後輩に免じて母親の脅しはまぁ許してやるしかないかと諦める。それにしても俺はどれだけ子供だと思われて…って実際母親の子供だし事実でもあるから何も言えないか。
「材料とか今のところお前持ちになってるから折版に出来るように食費とか決めるか…今更だけど」
「え!」
後輩はぴょこっと飛び跳ねる。好きとはいえやはり材料費は結構な負担だったんだろう。
「じゃあこれからはもっといいの作れますよ!」
「そっか…まぁ大量に作りすぎるなよ?」
「冷凍できるんで大丈夫です!」
「そういうことじゃないんだよな…」
料理人魂に火をつけてしまったことを少し後悔しつつも、後輩と母親の優しさに俺は少しだけ心をほっこりとさせるのだった。
(暗転)
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