番外 映画と路地裏

「久々だなここで見るの」


昔は常連だったはずの古ぼけた映画館に久しぶりに足を運んだ。

学生の頃は異空感に満ちた雰囲気の中でもひと際大きく見えたこの場所も、ありふれた路地裏で客入りがあまりよくはないただの古い映画館だって気が付いてしまった。まぁだからと言って幻滅なんてはしていないけれど。


「何見ようかな」


所謂今どき映画は特にやっていないのが見て分かる。でもたまにはレトロ映画もいいもんだ。


「そっか…これまだやってるのか」


学生時代に見たものもまだ残っている。久しぶりなこの空気感に浸るために見ようか、もしかしたらまた新しい発見があるかもしれない。


「すいません、大人一枚お願いします」

「はいは…もしかしてあんた前に来てた…?」

「え?」


わくわくしながらチケットを買おうとするとおばちゃんに呼び止められた。


「あーやっぱり!大学生の頃によくきてたろ?」

「もしかしてあの時の?」


思い出すのは大学生の頃の記憶。それこそ毎日のように通っていた日々。その頃から人は多くなかったからお客さんと店員の距離が近かった。でもそれは身内ノリとかでは決してなくて、つかず離れずちょうどいい距離感だったことは覚えている。だからこそいまだにいい思い出として残っているんだろうけれど。


「そうそう、立派になってねぇ」

「まだまだですよ(笑)」


話しているとなんだか若返った気分になる。まだそんな風に思う歳ではないはずなのだが…これが懐かしさの効力か。これは映画見始めたらさらに若返ってしまうんじゃないだろうか。

そんなファンタジーなことを頭の片隅で考えながら、俺は古ぼけた開演ブザーを待った。



(暗転)

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