(05)耕すは水か土か


 まだ植物工場の話です。


 植物工場と言えば流行りは水耕栽培。

 土を媒介せず、栄養水を直接植物に吸わせ育成する。農薬を大幅に減らせて、栄養水や照明をコントロールすることで目的通りの作物ができる。

 例えば有名なのは、玉川大学が開発・実験している「赤」「青」「緑」の照明をコントロールして、作物に様々な栄養素を特化させる方法。これは話し出すと長くなりすぎるので、興味のある方はググって下さい。

 ……手抜きじゃないよ、きっと?

 まぁ、置いといて。

 水耕栽培の成功例としてレタスなどの葉物野菜、トマト、キュウリ、スプラウト(穀類・豆類・野菜の新芽)など。中には栄養水の水流をコントロールし、全体にまんべんなく栄養をいきわたらせることで、メロンの1株が大きく育ち50個もの実を実らせる「町田式新農法」という商品もある。

 水耕栽培には、従来にない利点が数多くある。


 が、メリットがあれば、デメリットも当然ある。

 水耕栽培は、非常に「金」がかかる。

 メインとなる栄養水も高価で、かつ雑菌が繁殖しないように管理するのがメンドイ。他にも照明や温度管理など光熱費がかさむ。特に空調は、農薬をあまり使わない故に、モノによっては工業の精密加工並みのクリーンルームが必要な場合がある。まぁクリーンルームは大げさにしても、雑菌・病気・害虫を持ち込まないに越したことはない。

 そして水耕栽培の主体「水」だからこそ、設備全体がどうしても重くなってしまう。

 千早丸が目指す多層構造の植物工場に、重さは不利だ。

 光熱費と言っても自家発電するつもりであるし、水管理にしても方法はいくつもある。重さに関してもメビオール株式会社のフィルム農法(←ググって)のように限りなく少量の水耕栽培も可能だ。

 しかしフィルム農法では穀類・豆類の栽培はできても、根野菜や果樹の栽培は無理。

 まぁ将来的に無理とは言わんが、かなりの創意工夫など必要になるだろう。


 植物工場で問題に(課題に?)なるのが、主に栽培方法、受粉(花粉)、光量。

 最初にも言ったが、植物工場と言えば水耕栽培、と答えるのが定番。

 しかし「水」だけにコダワル意味はあるのかな?

 植物工場で大成功しているのでトマトやイチゴがあるが、これらは必ずしも「水」耕栽培ではなく、適量の土やヤシガラ繊維などを使い、半・水耕栽培、的な。

 どうして野菜工場で従来の土耕栽培が避けられるのか、理由の1つは連作被害。同じ作物を同じ畑で連作することでおこる弊害で、土壌中の成分バランスの崩壊や病害虫の発生などがある。

 連作被害について長々戯言るのは省くので結論に飛びついてしまうと、「土」に関して連作被害を抑える方法は幾つもある。代表的なところで花卉農業。花を育てるのにも当然連作被害がありまして、ソレに対処する方法も多彩だ。

 土壌に800℃以上の蒸気を当てるとか、相互の障害を打ち消すような品目を植えていくコンパニオンプランツとか、代表的な例だと潅水(土を一定期間水没させる)で、水稲を見れば分かり易いが、水田で毎年米作っているのに連作被害が出ないのは文字通りに水田を潅水させるから。

 同じ方法を畑で行うのは面倒だが、植物工場のように限定して管理を行える、畑という動かせない面ではなく、土そのものを入れ替え可能ならば、多品目の作付け前提で連作の管理はある程度できる。


 土の深さは20cm程度、水を含んだ土も同じく重いが、土の軽量化方法も幾つかある。管理・運用は創意工夫。なにしろ「土」耕栽培の植物工場はまだ少ない。

 植物工場の研究者たちが水耕栽培に拘るのは将来的な宇宙進出を見据えてではあるが、千早丸が欲しいのは海上都市での植物工場、もしくは場所を(ある程度)選ばない屋内密閉型の多品目を栽培可能な万能タイプ。

 そんな植物工場の(実際の)実績は、まだない。

 ただ技術はもうあるわけで、あとはヤリヨウだと思うのだが。


 さて栽培方法は以後こぅ御期待として、受粉方法(米稲だけだけど)は前章で戯言り、次の問題は光量だが。

 一昔前の話をすると、屋内の人工灯だけで稲作ができないか、と周囲に聞いた折、皆さま口を揃えて「無理だ」断言された。

 理由はイロイロ言われたが、共通して多かったのは「日照量が違う」だった。

 照明では太陽の陽光に劣る、と、大勢に言われた。

 それで、ものすごく関係なく不思議に思ったのが、ソーラー発電パネルの保証期間だ。

 ちょうどソーラー発電が一般住宅にも普及してきた頃で、新規商品なのに十年保証とかついて売り出されていた。

 実際に十年稼働させた実績とかないのに。

 で、調べていくと「太陽光標準スペクトル AM1.5」という単位が出てきた。

 太陽光標準スペクトルとは太陽光が地上に届くまでに通過する大気の量(Air Mass)を表し、緯度0度の赤道をAM1.0とした場合、北緯36度くらいの日本(北海道から沖縄までなら北緯20度から46度)は射角が付くので通過大気層が赤道直下より1.5倍厚くなる。のでAM1.5と表記され、日照量も数値化されている。

 んで、日照量が数値化されているので、人工的に再現可能。

 ソーラーパネルの性能測定方法は、標準試験条件(STC)で、放射照度1000W/m2、AM=1.5のソーラーシミュレーターを光源とし、モジュール温度25℃で行われる試験。

 日本の平均的な環境(日照)において、1kWp分のパネルを用いた設備は1年間に約1000kWh前後を発電し、この環境下で発電量を何年維持できるのか、って試験。

 AM1.5の光量を水銀灯などで再現し、数ヶ月連続照射して、劣化を調べ計算して、実際は十年の稼働実績がなくとも十年分は大丈夫だろうと予測の元に保証していた、と。


 まぁつまり、ムズイのは省いて、日本の日照量であるAM1.5は、再現可能だ。


 が、日照量を確保するにしても、水銀灯は現実的じゃない。

 電力かかりすぎだし、何しろ熱くなるので空調管理が大変だ。

 で、水銀灯の次世代機器として無電極ランプってのがある。光量は水銀灯と同等で、水銀灯のように熱くならず、水銀灯より消費電力は半分以下。

 苗のようなまだ幼く背も低い植物には蛍光灯とか。

 日本だとLED万歳状態だが、植物工場ではLEDの直線的な光、つまり広がらない光では育成にムラが出来てしまう。

 ので個人的には蛍光灯のCCFL管(冷陰極管)を推したい。

 従来の蛍光灯より明るく自然光に近いし、LEDの光より広がるし、LEDより長寿命だし、LEDより省電力で安いし。


 各大学で研究されている植物工場は、基本、将来の宇宙生活における食糧確保としての植物工場を想定して研究されている。

 その研究を現代(次世代?)農業にも反映してくれないかなぁ

 いつも通りの妄想です。




玉川大学

https://www.tamagawa.jp/university/


メビオール株式会社(フィルム農法)

https://www.mebiol.co.jp/


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