(02)海を冷やしたい①


 海上都市を欲しがる理由の1つに「海を冷やしたい」がある。

 理由は――夏が熱いんだよ!(←単細胞な理由)

 まぁ真面目ぶった理由をつけるなら、2個。


 1つ目は、皆様おなじみの地球温暖化。

 気象庁HPにある日別海面温度を見れば分かる通り、日本周辺の海域が熱すぎる。

 夏はもちろん、冬も温度が下がらない。

 日本の地理に限って言えば、南シナ海周辺で温められた海水と、大量に発生した水蒸気が海流や季節風によって運ばれ、日本につく頃に猛暑や大雨の要因となる。

 海水温下げて水蒸気を減らす方法が何かないかな、と思って探したら、かのビル・ゲイツ(マイクロソフト社)が同じようなこと考えてハリケーンを弱体化させる技術を2009年に申請したらしいが、続報がない。

 ノルウェーでも国家規模で取り組んでいて、OceanTherm社がノルウェー産業科学技術研究所(SINTEF)と共同で行った実験で、バブルカーテンによって水深50メートルの海水を海面まで運び、海面温度を0.5℃下げることができたそう。

「バブルカーテン」ってのは、海にパイプを設置し、圧縮した空気を海中に送る方法。

 海中に無数の泡が生じ、これが海面まで上昇。やがて下から上に向かって海水の流れができ、深層の冷たい海水が海面付近の温かい海水と混ざり、海面温度を下げる。

 海面温度が下がれば、そこに見えない島があるように水蒸気が反応して雨が降る。日本へ熱波が押し寄せて猛暑や豪雨に化ける前に、海上である程度水蒸気を減らせる。


 2つ目も、地球温暖化ではあるのだが、ちょい方向性が違う。

 たとえば日本海の話。2010年9月、お国の研究機関が恐ろしげな発表をした。

 要約すると、海面温度が上がりすぎるせいで表層と深海部の海水循環が失われ、100年後には日本海が「死の海」になる、というもの。

 ホラ話じゃない。国立環境研究所と海洋研究開発機構が真面目に発表してる。

 本来の循環では、表層の海水は酸素を潤沢に取り込み、冬に冷やされた表層海水が海底へ沈んで深海へ酸素を提供し、代わりに海底へ蓄積された栄養分をふんだんに含んだ深海水が表層へあがり、日本海は豊かな生態系を維持している。

 しかし、昨今の熱くなりすぎた海面水温では、たとえ真冬の日本海でも充分に冷えきれず、深海部へ落ちていかない。酸素を含む表層の海水が落ちてこなければ海底では無酸素状態になり、栄養分を含んだ深海水も上昇しない。栄養や酸素が不足すれば、生態系は弱体化する。

 循環の失われた日本海は、やがて「死の海」となる。


 恐ろしいのは、これ、日本海限定の話ではない。

 日本海は「世界の海の縮図」と呼ばれている。箱庭のように狭く半孤立した海なのに、暖流寒流が流れ込み海溝が深く、世界の海の循環が2千年規模で行われるのに対し、日本海では100年で行われる。

 つまり、地球規模で海の循環が失われ「死の海」となる日が来る。

 脱線するが、映画「デイ・アフター・トゥモロー」って知ってます?

 2004年公開の映画で、続編が2020年にあったらしいが、見てないしナンカ評判悪そうなんで、1作目2004年の「デイ・アフター・トゥモロー」の話をすると、物語は地球温暖化によって極地の氷が解けて海へ大量の真水が流れ込み、塩分濃度の激変によって海流による循環が失われ、急激な氷河期が引き起こされる、というもの。

 この映画のポイントは、科学的なシミュレーションによって現実化しうると検証結果が出ていること。

 真水と、温度差によるものと、原因は異なるかもしれないが、海の循環が失われれば待っているのは急激な気象変化、というのは間違いないだろう。

 映画序盤では1千年後の気象変化を予想し、しかし300年後? いや1週間? いや、もう氷河期への激変は起きていて、国土の半分は見捨てなければ、という事態に陥っていた話。

 日本海が「死の海」になるカモという発表は2010年、11年前に行われている。そして2010年においてすら日本海底の無酸素状態がもう深刻ではないか、との懸念があった。

「100年」のスタートは11年前。猶予は89年?

 それとも?


 だから海を冷やしたい。


 しかし。

 そう、しかし、ながら。

 海を冷やせば温暖化が緩和するとか、残念にもそぉーではない。

 海の役割の1つに、地上の森林地帯と同じく二酸化炭素を大量に取り込む「温暖化抑止システム」がある。雨に溶け込んで海へ注いだり、激しい波が二酸化炭素を大量に取り込んでくれる。

 そして二酸化炭素の特性であるが、水温が低い方が吸収率がいい。

 んじゃヤッパ海冷やせば温暖化の元凶・二酸化炭素を吸収して万々歳!――とは、ならない。

 森林の緑は葉緑素によって二酸化炭素を栄養や酸素へ変換するが、海は二酸化炭素を溜め込んでいく。

 海中の植物藻などが多少は分解するが、吸収量に比べれば微々で、キャパオーバー。

 産業革命からこっち延々と過剰な二酸化炭素を吸収し続けて、さらに取り込みを続ければ、待っているのは「海の酸化」である。

 実際に海のphが上がり(酸化して)養殖の稚貝が育たない、とか実害が出始めている。

「海を冷やす」とは「海の酸化」とセットの問題となってしまう。


 こーゆー環境の連鎖反応を、最近は地球工学(気候工学?)と呼ぶそうで、ついでに面倒にも世界経済とかも絡んでくる。

 これらの話は本気で面倒なので、また後で(←逃げた)




[備考]


国土交通省・気象庁HP

https://www.jma.go.jp/jma/index.html


(気象庁HP内)日別海面温度

https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/db/kaikyo/daily/sst_HQ.html


OceanTherm社(ノルウェー)

https://www.oceantherm.no/


国立環境研究所

https://www.nies.go.jp/


JAMSTEC 国立研究法人・海洋研究開発機構

http://www.jamstec.go.jp/j/




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