美しい虹

モグラ研二

美しい虹

明らかにおっさんの凄まじい雄叫びが、ひたすら、その場所には、反響していた。


野蛮な、知性など皆無だとしか思えない、ケダモノのような叫び声である。


あまりにも凄絶なおっさんの叫び声により、部屋の壁が、びりびりと震えた。


毛深くごつい手が、細い、幼い女の子の首を絞める。


色が白く丸顔、黒髪おかっぱ頭の女の子も、全裸である。


ここでは、全裸でなければ許されないような雰囲気がある。


凄絶な叫びをあげるその男は、50代に見える。全裸で、頭が禿げていて、体毛が濃かった。


首から胸、両腕、脇の下、腿と脛、ケツ、陰毛、全てが毛深い。


だが、頭髪は欠如していた。


全身の筋肉が発達していて、幼い女の子の首を絞める腕も、太く、筋張っていた。


男は、幼い女の子に馬乗りになり、首を、強く締めていた。


顔を真っ赤にし、血走った目を見開き、口を大きく開けて絶叫しながら、首を、締め続ける。


男のチンポコは完全に勃起し、赤黒く腫れていた。


血走った目を見開き、鬱血している幼い女の子の顔を凝視している。


幼い女の子は白目を剥き、口から血が出ている。


朝雄は部屋から出て、洗面所に行き、顔を洗う。


「ねえ、スッキリした?」


問いかけるのは女性、朝雄の交際相手である緑川みどりだ。


朝雄は上半身裸だ。頭髪が欠如している。しかし胸や脇の下、両腕など、体毛は濃かった。


朝雄はチャーミングな笑顔を浮かべる。


「うん、とても、スッキリしているよ。」


知的なムードのある、低く柔らかい声である。


朝雄は現在53歳、予備校の人気講師である。卓越したユーモアと話術により、今では予備校だけでなく、各種メディアでも活躍、文才も発揮して、先日発表した純愛小説「永遠に君に愛を囁き続ける僕は天使という名の奴隷なんだ」は、すでにベストセラー、50万部を売り上げていた。


「今日は、どこに行くんだい?」


「凄く、素敵なところよ。私たちの思い出の場所。」


「いいね。まずはいつものキャッフェに行こうよ。エスプレッソを優雅に飲もうよ。」


「そうね。私たちには優雅な雰囲気が一番似合うわ。」


高級スーツに着替えた朝雄は、淡い紫のドレスを着た緑川みどりと共に自宅を後にした。


自宅である高級マンションの駐車場に停めてある真っ赤なポルシェに乗り込み、二人は行きつけのカフェに向かう。


緑川みどり50歳は今、最も注目されているインスタグラマーである。

今日も、彼女は何げない空を、最高にインスタ映えした感じに、撮影する。


その時、彼女は女性雑誌の企画「現代女性の倫理観、清く正しく美しい彼女たち」について打ち合わせをした、その帰りであった。


彼女はピッチリとした白いTシャツにジーンズというシンプルな服装。だが、スタイルがいいため、物凄くカッコ良く、様になって見えた。


スマートフォンをかざした彼女の腰に、走ってきた少年がぶつかる。


「ちょっと!邪魔しないでよ!」

ぶつかって来た坊主頭の少年を、緑川みどりは思い切り突き飛ばした。


「ギャー!」


少年の体は車道に飛び出して、すみやかにトラック、軽自動車、ワゴン車に撥ねられた。


十数メートル先に、少年の惨たらしく破損した体が落下した。


少年の千切れた部分は、路上のあちこちに散乱している。


四肢が千切れ、首も千切れそうになっている少年の死体は仰向けで、白目を剥き舌を出していた。


頭も上部分が吹き飛び、脳味噌が露出している。


「何?あんなグロいのはインスタにアップできないわよ。」

苦笑いする緑川みどり。

再びスマートフォンをかざして晴れ渡った空を撮影した。


「アプリで加工すれば、この何の変哲もない空をも、かけがえのない風景に変化させられるの」


インスタグラマーは実に素敵な職業。何の変哲もない日常にも、きらめく一瞬があるのだということを、たった一つの画像によって、人々に教えることができる。


カフェテラス「パーフェクトデイズ」は、朝雄と緑川みどりが、ほぼ毎朝訪れるお洒落なカフェ。


シンプルだが清潔感のある白と黒を基調とした店内、静かに流れる洒落たピアノ曲。


馨しいコーヒーの香り。


マスターの五十嵐勲さん60歳は、長身で、白髪を長く伸ばし、丁髷のように、後ろで束ねている。ダンディな雰囲気溢れる男。朝雄とは三十年来の友人である。


「このシナモントーストはいいね。」


「そうだろう?カナダから輸入したシナモンを使っていてね。」


「ねえ、私にはエッグベネディクトをお願い。」


「ああ、わかった。みどりちゃん。」


優雅な雰囲気のカフェテラス。三人の気品ある大人たちの、品性溢れる会話が展開された。主に、朝雄が次の著作について、話した。彼が長年研究してきた、男女関係の細やかで、詩的な情緒溢れる機微について、珠玉の恋愛長編にまとめたいという構想であった。ラストシーンでは大雨が上がり、大きな「美しい虹」が空にかかる……愛し合う二人が、その虹を背景に抱き合い、涙を流しながら、この出会いは奇跡、と延々繰り返し言い、口づけを交わす……。


その話には、ダンディなマスターも、緑川みどりも思わず心を動かされ、泣いてしまいそうになる。


「映画化したら、絶対にヒットするでしょうね。」


朝雄は本当に優しい男だ、恋愛の極意を、その人々の心情や機微、細かな詩的な情緒を完全に身に着けている……紳士の中の、紳士……。


明らかにおっさんとしか認識しようがない叫び声が、激しく、大音量で部屋に響き渡る。


野蛮なケダモノのような絶叫。


そこにはいかなる知性も存在しない。


猿、ゴリラ、チンパンジーの方が、よほど賢く、よほど慎ましいとさえ思える。


全裸の男、頭髪の欠如した、しかし首から胸、脇の下、両腕、股間、ケツ、腿、脛などの体毛は毛深い男が、血走った目を見開いて、口を大きく開けて絶叫している。


その男は、ごつごつとした毛深い手で、その指で、幼い女の子の首を思い切り絞めていた。


馬乗りになり、幼い女の子、黒髪、おかっぱ頭の女の子の鬱血した顔を凝視しながら、その手に、力を全力で込めていた。


その間、全裸の男は絶叫し続けている。声が部屋中に響き渡る。


色が白く丸顔、黒髪おかっぱ頭の女の子も、全裸である。


男のチンポコは完全に勃起し、赤黒く腫れていて、先っぽからは透明な粘液が溢れて来ていた。


毛深い全身に脂っぽい汗を浮かべる男は立ち上がり、幼い女の子をその場に置き去りにした。


幼い女の子は、全く動いていない。顔が、鬱血して、白目を剥いていた。


床は白く、テーブルや椅子は黒い。そのコントラストが何とも言えずクールだ。シンプルでありながら、深みを感じる。計算された美があるというか、そういう印象を与えるカフェテラスである。


そして、白いテーブルに置かれるカップは、これもまた黒なのである。

緑川みどりは、テーブルにカップを置くたびに、これは本当に映える光景、マスターは単なる喫茶店経営者ではなく、アーティストなのだ、と思う。


「人は誰しもアーティスト!みんな思い思いの絵を描いてみようよ!」


爽やかな雰囲気の若者が、デパートの屋上に設営されたステージ上で叫んでいた。


デパートの屋上には、ゆっくり歩行するパンダの乗り物や、モルモットやうさぎがいる触れ合い動物コーナーがある。


日曜日の昼過ぎで、親子連れがそれなりに多い。


だが、若者の呼びかけに反応する者はいなかった。


「みんな!アーティストであることは恥ずかしくないよ!さあ!このホワイトボードに、あなたのアートを描いてみてよ!」


「じゃあ」


そう言って、子供を連れていない、ボサボサ頭で、目は虚ろ、無精髭を生やした、汚いジャージ姿の、40歳くらいの男が、ステージに上がり、マジックペンで、ホワイトボードに絵を描く。


醜い肥え太った全裸の中年男性が、その男根を、ギロチンにより、切断されているイラストであった。


過度にデフォルメされていて、醜い肥え太った全裸の中年男性の顔は、恐怖でめちゃくちゃに歪んでいる。


切断された男性の陰部は、ホワイトボード上の端の方まで、ロケットのごとく飛んでいく、そのように描かれていた。


「ちょっとなんですか!気持ち悪い絵を勝手に描かないでください!」


若者が駆け寄り、汚いジャージ姿の男性から、マジックペンを取り上げた。


「しょうがないだろ!こんな糞みたいな生活してたら糞みたいなもんしか描けないに決まっている!胸糞悪い気持ちが前景化していて、常に迫ってくる!ハピネス楽しいとか、無理なんだよ!それだからって、俺みたいな底辺から表現する自由を奪うって言うのか!所詮、表現は余裕ある人々のための楽しくて心地良いオナニー同然のもんだと言うのか!」


「あの、落ち着いてくださいよ。」


「ふざけんな!俺だってこんな気持ち悪いもの描きたくねえよ!どうせなら描いてみんなにチヤホヤされて金儲けにも繋がる快楽をもたらすもんを描きてえよ!ワクワクします!とか続きが楽しみです!とか、ヒロインの何何ちゃんが可愛い!とか賞賛の嵐で!ボーカロイドがその作家を個人崇拝するような歌を歌い、それがめちゃくちゃ流行って!そういう世界が最高だろう!わかってんだよ!こんな、こんな存在が不快なものなんか、こうだ!」


汚いジャージ姿の男性は、ホワイトボードを蹴り倒し、執拗に踏みつけた。


「死ね!死ね!こんな奴!死んだ方が世の中良くなるんだ!」


ステージの周辺には、すでに、人はいない。


若者と、汚いジャージ姿の男性だけが、いた。


子供連れたちは、主に、触れ合い動物コーナーで、特有のハートフルな空気感を出していた。


薄青い清掃作業用の衣服を身につけた背の低い老人が、地面を、箒で掃いていた。


コンクリートで固められている何の変哲もない地面である。


それを観察しながら、薄青い清掃作業用の衣服を身につけた痩せ細った老婆が、ノートに、何か書いていた。


ぶつぶつと、何かを言っていた。


やがてその場に上半身は裸、下半身には黒い、ピッチリしたタイツを穿いた筋肉質な中年男性が現れた。


「バイト、まだ大丈夫ですか?」


彼は言ったが、無視された。


老人、老婆、中年男性のいる地点の右側の鉄筋コンクリート製のアパートから、絶えず、ケダモノか、変質者の叫び声のような、凄まじい音が聞こえていた。


老人は箒を投げ捨て、歩いて行った。


何かを記録していた老婆も、ノートを放り投げ、老人とは逆の方向に歩いて行った。


二人とも、真顔で、虚な目をして、無言のまま、静かに去った。


一人、上半身は裸、下半身に黒いピッチリしたタイツを穿いた筋肉質な中年男性だけが、残された。


「なんだよ、バイトはどうなったんだよ。今月の家賃がやばいっていうのに。」


その場所には二週間ほど雨が降り続いた。

誰も訪れないし、掃除はしなくても良かったのかも知れぬ。


投げ捨てられたノートも、雨でぐちゃぐちゃになり、得体の知れない生物の腐った死体みたいになった。


その、腐った死体のようになったノートは、近所ではマヌモンチェリと呼ばれた。


おぞましい唾棄すべき穢らわしい存在で、生まれて来たことがエラーだったという意味合いを込めて、複数の熟年男性たちが、発音した言葉である。


彼ら熟年男性たちは仕事で抑圧された獣欲を発散するため、土曜日の昼から雑木林に集合、全裸となり身体にローションを塗りたくり、やるぞ!と雄叫びをあげては、ウナギたちのようにぬるぬると動き回り、絡み合い、獣欲を満たすのだ。


横たわり、全裸で絡まり合う、熟年男性たち、みんな、メタボリックシンドローム気味の体型、ヌチュ、ヌチュ、粘液の擦れる音、ゆっくりと動く。


あーそこ、そこ、ぎもぢい!


先っぽ、らめ、らめえ!


あーイグッ、アイグ!アイグ!


おっさんたちが快楽の中で出す声は、非常に大きく、雑木林の外まで延々と響いた。


雑木林には、多くのキノコが生えている。


茶色く、先の方が膨らんでいる、根本に、毛が生えているキノコだった。


そうして、キノコの先端は、一様に、じっとりと濡れており、周囲には、白い、恐らくはキノコが放出したと思しい粘液が、撒き散らされている。


あまりにも、生臭いキノコ群だ。


イカの腐った臭いに近い。


雑木林では、何度も、何度も、キノコの除去が税金を使って行われた。


時には火炎放射器で焼き尽くすなどしたが、キノコは、いつの間にか現れていた。


キノコが、白い粘液を吹き出す様子を見た者はいないが、雑木林から、イグッ!という、むさ苦しい男の声が、突然聞こえることは、たびたびあった。


一般的には可愛らしい女の子の声によるイグッという声に比べて、むさ苦しい男の声によるイグッという声の需要は、多くはない。


そのような声に興奮し、性的な欲望を掻き立てられるという人は存在はするであろうが、ごく少数であるのは事実であろう。


現代において少数派の意見を尊重することも、統治機構においては求められる要素の一つである。


よって、各自治体が、公共スペースに縦横30センチほどの鉄の箱を路上などに設置したのだ。


その鉄の箱からは、野太いむさ苦しい男の声、イグッ、イグイグッという声が、人が通るたびに発生する。


こういった声に激しい魅力を感じる、こういった声をもっと求める、そのことを統治機構には強く要請する。


存在を認知する、というだけでは不十分で、認知した上で、何かしらの対応を、マイノリティ側に明確にわかる形で行うことが、求められる。


そうした少数派の声を、思いやりの精神を持って、統治機構が聞き入れて実現したシステムである。


今年の夏の初め頃から、すでに動いているとのことだ。


自治体で働く高橋健一さん50歳は毎晩寝る前にヘッドホンを着用し、むさ苦しい男の声がイグッ、と繰り返すだけの音声データを必ず1時間は聞いているのだという。


「繰り返し聞いていると、全てのイグッが、生録音されたものであり、それぞれのイグッに、微妙な違い、味わいがあるんです。イグッにも個性がある。その違いが、単調さを回避している。つまり、言葉のリズムが、イグッという短いフレーズにも関わらず多種多様であり、また、込められている感情も、切ないイグッ、勇猛なイグッ、悲痛なイグッ、喜悦あふれるイグッ、恥じらいのイグッ、噛み締めるイグッ、解放されたイグッ、うちに秘めたイグッ、無表情なイグッ、など、本当に違う。聞けば聞くほど味わい深く、イグッというのは人生の縮図というか、哲学的な素材なのかも知れないと思っていますよ。」

(高橋健一さんへのインタビュー『現代の若者心理の探求vol.14』より引用。)


彼のこのような行動が、現代社会における多数派の暴走を食い止め、少数派の意見や要望も、バランスのいい形で社会に反映されることに繋がると良い。


「疲れたよ。」


汚いジャージ姿の男性はしゃがみ込んだ。


向こうの方で、触れ合い動物コーナーでほのぼのとする人々の声がしていた。


若者は優しい口調で、飲む?と言い、お茶の入ったペットボトルを渡した。


「うん。」


「あそこの動物たちでも見て、ほんわかした気持ちになれば、表現できる内容も、もっと健全になると思うよ。」


「うん。今の俺は病んでいるよな?」


「そう思う。病んでいる人の表現は、人を不愉快にさせてしまう。本人の意図に関係なく。だから、病んでいる状態を、あなたはまず打破すべきだよ。」


「そうだな。病んでいる人間の表現なんて、誰も見たくない。みんな健全で、道徳的で、意味があって、為になるものが好きだよな。」


「さ、触れ合い動物コーナーに行って来なよ!」


「ああ。そうする。」


「あそこには癒ししかない!この世の癒ししか!」


「ああ。癒されたいからな」


「よしおちゃん!やだ!よしおちゃんが!」


中年女性の甲高い悲鳴。


よしおちゃん、と呼ばれた男の子は、触れ合い動物コーナーの真ん中に倒れていた。


よしおちゃんには、多くのモルモットやうさぎが群がる。


モルモットやうさぎは、キイキイと喧しく喚きながら、よしおちゃんの肉体をぐちゃぐちゃに損壊した。


すでに、頭と胴体以外、よしおちゃんの体はミンチ状にされていた。


よしおちゃんは、青ざめて動かない。


モルモットやうさぎは激しく動き、喚いていた。よしおちゃんの肉を、咀嚼していた。


「いやだ!よしおちゃんが死ぬのいやだ!」


「弱肉強食なんだ!死ぬのは仕方ないだろ!」


そう怒鳴りつけて、泣き叫ぶ中年女性の横っ面をぶん殴る中年男性。


よしおちゃんの父親である。


さっきから喧しく叫んでいたのが、よしおちゃんの母親であるのは、言うまでもない。


よしおちゃんはすでに見えない。

無数のモルモットやうさぎに覆い尽くされている。


やがて、モルモットやうさぎが、その場を離れる。


そこには、ペースト状のものだけが、残っていた。


赤黒いペーストである。


周囲の人々は、興味深そうに見ている。


中には、スマートフォンで、よしおちゃんが変化していく様子を撮影している人もいた。


「諦めろ。よしおは弱かったから死んだ。子供はまたセックスして作ればいいんだ。」


「わかった。まあ、よしおちゃんって、ちょっと何考えてるかわかんない感じの子だったから、そんなに、実は好きでもなかったというのが事実。」


「ラブホ行こうぜ。」


「うん。」


中年女性は、肩を抱かれながら、頬を赤らめた。


目の前には真っ青な空と海が広がる。圧倒的なオーシャンビュー。


白いウミドリが、ゆらゆらと、風景の中を漂う。


そこは日本有数の高級ホテル「ノリオの恍惚」の特別スイートルームであり、朝雄と緑川みどりが、10年前、初めて結ばれた特別な場所だった。


「見て!虹よ!雨なんて降っていないのに!」


確かに、はっきりと、大きな虹が、かかっていた。

大空に大きなアーチを描く、七色の虹。


指差してはしゃぐ緑川みどり。

その様子を、朝雄は横目で見て微笑む。知的なムードを漂わせた、余裕ある大人の男の笑顔である。


「きっと、君と僕が出会えたこと、その奇跡を祝っているんだよ。」


そんな糞みたいに甘ったるく臭い台詞でも、朝雄の知的で優しい低音ボイスで言われると極めて自然な感じがした。


「ディナーが楽しみだわ。ミートペースト、それも特別な素材のミートペーストだと言うわ。それに特別なキノコも使用されていて」


「なんでもいいさ。君となら、どこにいようと、何を食べようと、全てが特別になるからね。」


野蛮なケダモノのような絶叫。


明らかにおっさんの凄まじい雄叫びが、ひたすら、その場所には、反響していた。


そこにはいかなる知性も存在しない。


猿、ゴリラ、チンパンジーの方が、よほど賢く、よほど慎ましいとさえ思える。


全裸の男、頭髪の欠如した、しかし首から胸、脇の下、両腕、股間、ケツ、腿、脛などの体毛は毛深い男が、血走った目を見開いて、口を大きく開けて絶叫している。


その男は、ごつごつとした毛深い手で、その指で、幼い女の子の首を思い切り絞めていた。


色が白く丸顔、黒髪おかっぱ頭の女の子も、全裸である。


馬乗りになり、幼い女の子、黒髪、おかっぱ頭の女の子の鬱血した顔を凝視しながら、その手に、力を全力で込めていた。


その間、全裸の男は絶叫し続けている。声が部屋中に響き渡る。


男のチンポコは完全に勃起し、赤黒く腫れていて、男が「ングッ」と呻くような声を発すると、その先端から勢いよく、白い精液が、放物線を描いて発射された。


精液は、女の子の鬱血した顔にも、いくらか掛った。


男は、幼い女の子の、まだ色の薄いマンコに指を入れて掻き混ぜた。


その指には、男自身の、今発射したばかりの精液が付着していた。


毛深い全身に脂っぽい汗を浮かべる男は立ち上がり、幼い女の子をその場に置き去りにし、外に飛び出して行った。


全裸の男を、たまに朝方散歩していると見かけるが、正直言って関わりたくない。


その男は頭髪が欠如しているのだが、首から下、全身が毛深く、のっそりとした速度で、近所を徘徊している。


何をしているのかと、しばらく様子を見ていると、その人物は何をするでもない、ただ歩いては立ち止まり、空を見上げ、また歩いては立ち止まり、それを繰り返しているだけである


電信柱を蹴ったり、ブロック塀をむやみに殴ったりする様子はない。


だが、見つかったらどうなるか、わからない。


「ああいう野蛮そうな人とは友達になれない。なりたくない。それに、公共の場で、あれほど堂々と全裸で歩くのは、どうかと思う。」


目撃した多くの人々の意見。

それはしごく真っ当な意見である。

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