第2話 続・相性に負けたんじゃない
僕と彼女の恋もそうだった。
結婚するとかしないとかではなく、取り敢えず永遠と錯覚させるのが恋なのに、いや錯覚させてくれるものと考えていたのに、僕たちは出逢った時から、別れの準備をしていたような気がする。
僕たちは、彼女の部屋で最後の晩餐をした。
陰気な別れは嫌だと言う彼女の提案で、すき焼きを食べながら明るく別れようと、いうのだ。
実に……彼女らしい。
世の中に明るい別れなんぞ、存在するのかと思っていた僕だったが、すき焼きがぐつぐつ煮える鍋を挟んでの二人は、すべてが滑稽だった。
焼酎をロックで飲みながら、 彼女が言う。
「ねぇ、今、思い出したんだけど、すき焼きって、お肉のそばにしらたきを入れると、お肉が堅くなっちゃうんだよね?」
「初めて聞くよ」
日本茶を自分で入れながら、僕は答える。
しらたきのカルシウムの成分が、
お肉の蛋白質を堅くするのよ
“相性”って奴だな
そうかな?
じゃあ何だい
タイミングの問題じゃない?
お肉が煮えてから、しらたきを入れるとか、
しらたきが煮えてからお肉を入れるとか
なあ……そういうのは、疲れないか?
ええ、疲れたのね、お互いに_
そして、ご馳走様と別れの言葉を、一度に言うのは初めてだった。
「明日の朝、これにうどんを入れて食べる」
彼女はそう言ったけど、別れた恋人と最後に食べたすき焼きの残りは、どんな味がするのだろう。
玄関口で交わした、僕たちのキスは、焼酎の匂いと、少し濃い、関東風のわりしたの味がした。
そして彼女は僕に、すき焼きの残りの牛肉を包んで持たせて、
何も返さなくていいから、サヨナラ。
と言った。彼女とは本当にそれきり。
それにしても、変わった女だったが、
僕たちは相性に負けたんじゃない!
相性に負けたんじゃない ももいろ珊瑚 @chanpai
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