第152話 口の悪い精霊
赤髪赤眼の女の子、ではあった。
でもその子は明らかに『人間』とは違う。
身長は20センチ程度。背中には透明の羽が生えており、その羽をはばたかせながら浮遊する彼女の姿はよく漫画やアニメだどで見る『妖精』そのものだった。
【…妖精さん?】
「だーれが『妖精』だ! 羽が全然違うだろ! あーしは精霊だっての! ていうかお前か、あーしの眠りを妨害したのは? 覚悟は出来てんだろうなこのボケ!」
口悪いな。
……ん? 精霊? ってことはつまり、
「ん? あっ! ネヴィ姉さま!!」
するとその謎の精霊さんはアイちゃんのことを見つけるや一目散にアイちゃんの頬にダイブした。
「久しぶり…えっと…」
「もうネヴィ姉さまったら、カトレアですぅ。カトレアはネヴィ姉さまにお会いできるこの日をずっと待ち望んでおりました!」
今度は感情が高ぶったのか、カトレアちゃん(きっと年齢は僕よりも遥かに上なんだろうけどアイちゃん同様、その容姿の幼さから何だか自然と『ちゃん』付けになっちゃうな)はアイちゃんの周りをこれでもかというほど飛び回る。
やっぱり二人は知り合いのようだ。
ただ彼女はアイちゃんのことをとても慕っているようだけど、アイちゃんの方はそうでもないみたい。(名前も覚えていなかったし…。そういえばアイちゃん、僕と出会った時も自分の名前すら憶えていなかったっけ)
【アイちゃん。このカトレアちゃんって子とはお知り合いなの?】
「…むかし一緒に敵と戦った」
未だこの状況を飲み込みきれていないみんなに代わり僕がアイちゃんに尋ねると、なぜか突然僕の目の前に氷の壁が現れた。
【わぁ!】
おそらくアイちゃんの魔法で作り出されたものだがなぜこのタイミングでしかもこんな大勢の民衆が集まる市場にこんなものを? と疑問が浮かんだが、すぐにその理由は理解できた。
「チャコさん!」
ルリィさんのただならぬ声に何事かと改めて周囲に気を配ると、今アイちゃんが作った氷の壁の大半が炎によって溶かされている。
【え…?】
状況が理解できないままみんなが送る視線の先を僕も見てみるとそこには今しがたまで楽しそうにはしゃいでいたカトレアちゃんが憤怒の形相で僕のことを睨みつけている。
「おい人間、気安くネヴィ姉さまに話しかけるな。私の名を口にするな。灰にするぞコラぁ」
その可愛らしい容姿のお陰で少しまぎれるかもしれないが、僕に向けるあのカトレアなる精霊の視線は明らかに殺気を帯びている。
が。そんな彼女の視線を遮るようにアイちゃんが僕とカトレアちゃんの間にゆっくりと割って入ってくれた。
「カトレア。お姉さまに危害を加えるようなら私があなたを排除する」
「!!! …ど、どうしてですかネヴィ姉さま? まさかその人間に『契り』を結ばされたのですか?」
「違う。ただ私がお姉さまと一緒にいたいだけ」
「…お、お姉さまって…え?」
カトレアちゃんは明らかに混乱しているようだ。
無理もない。僕だって状況が目まぐるしく変わって頭を抱えたいくらいだ。
「あー、ちょっといいか? 募る話もあるんだろうか、そろそろ人目が集まってきた。できることなら人気のないところで話し合わないか?」
そう言ってくれたのはシエナさんだった。
そこで初めて僕らの周りが黒山の人だかり状態になっていることに気が付いた。中には数名、ローブ姿のルル様を指さし「あれはもしかしてルルカーシェ王女様か?」とざわつきだしている始末。
いけない…。こんなところで騒ぎを起こして、その混乱に乗じてまたルル様の身に危険が及んでしまっては一大事だ。
どうやらカトレアちゃんの方もこの状況をよく思わなかったらしく、全面的にシエナさんの提案を受け入れてくれたようた。
その後ルル様の提案で「お城なら落ち着いて離れるんじゃない?」ということで僕らはラマリカス城に向かうことになったのだが、その際やっぱり民衆の皆さんにルル様の正体がバレてしまい、ちょっとした凱旋モードになってしまった。
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