第150話 寄り道


【うわー!】


 まるで異世界の中の異世界に迷い込んでしまったかのようなそんな錯覚に陥ってしまうほどラマリカスは勝手が違っていた。


 街を囲む城壁や城門の高さが馴染みのあるアビシュリとは違って格段に高く、それに比例するように建物の高さも高い。もちろん行きかう人の数も多いし、お店の数も多い。それに道幅だってだいぶ広い。なぜなら…


【バス⁉】


 この世界の移動手段は徒歩か馬車がメインだと思っていたのに、ラマリカスの中では道路の中央を公共のバスのような機械仕掛けの乗り物があちらこちらで走っていた。


 まるで日本にいた時のような馴染みある光景が目の前に広がっているのに、この世界アテラで機械仕掛けの乗り物が走っている光景を見てしまうとそれなりの感動を覚える。(ルリィさんなんて開いた口が塞がってないし、普段ノーリアクションなアイちゃんですら目が開いて辺りをキョロキョロしている)


「あれは『バッポ』だよ」


 そんな僕らの様子を楽しそうに眺めながらルル様は僕らに教えてくれた。


【バッポ?】

「マナを動力にして走る機械仕掛けマキナの乗り物のこと。より多くの人や物を目的地まで運べるように開発されたの。ですよねシエナ様?」

【え?】


 話を振ったルル様に対してシエナさんは興味なさげに「まぁな」と答えてみせた。


【も、もしかしてあれ作ったのってシエナさんなんですか⁉】

「大まかな構造を提案しただけだ」

「シエナ様の尽力のおかげでラマリカスは物流は飛躍的に向上したんだよ」


 そんなルル様の言葉を受けてなお興味なさそうにすましてみせるシエナさんを、初めてカッコ良い思えた。(もし日本に『マナ』という概念があったならCO2の削減に大いに役立てるだろうな)


 そんなバッポに始まり、その後も僕らおのぼりさんはルル様の案内のもと、移り行く街並みとともに首の可動域をフルに活用しながら右へ左へと振り続けた。(正直、首が疲れました…)


――――――――――


 そしてやってきたのは商業地区らしき場所。


 広い通りの両サイドには様々なジャンルの店が立ち並んでいるが、それとは別に道の真中には朝市スタイルのように仮設のテントで営業しているお店もかなりの数並んでいた。(この通りだけはバッポが通らないようだ)


「ここは言うなればラマリカスの心臓とも呼べるエリアだね」

【心臓ですか? 心臓は王様たちのいるあのお城じゃないんですか?】

「あそこは言うなればラマリカスの頭脳かな。国の方針とかを一手に担ってるからね。で、ここは心臓」

【その心は…?】

「だってここは人も物も集まっては流れ、集まっては流れを繰り返して循環する場所だから。ここが機能しなくなっちゃったらきっとラマリカスは経済は死んじゃうと思う」


 たしかに、ある人は大声をあげて客引きをし、

 そしてある人は品物を吟味し、

 またある人は何かを頬張りながら楽しそうに連れの人と話している。


 人々の営みがここにはあり、それが絶えず行き交うことで常にものすごいエネルギーを放っている。だからルル様の言うことはきっと大げさなことじゃないんだ。


【なるほど。たしかによどみなく動き続けている感じがまるで心臓のようですね】

「でしょ? 私ここが好きなんだ。みんなからパワーを分けてもらえそうな気がして。だからチャコたちにもこの場所を好きになってもらえたら嬉しい」


 ニカっと微笑むルル様には申し訳ないけれど僕の性格上、普段なら人混みはむしろ避けたい思う人間だ。

 …けれど個人の感情とはまた大きく違う、自国の民たちが生き生きとする姿を満足そうに眺めているルルカーシェ王女の姿が隣で見ていてとても勇ましく、不思議と僕まで心が弾むような感覚にさせてもらえた。


【はい。私もこの場所が好きになれそうな気がします】

「よーし! ならチャコにはもっとここが好きになれるように私が全力で案内しちゃうよ~~!」

【ちょ、ルルs…ルルさん! 押さないでくださいよ!】



 そして妙に気合の入ってしまったルル様に背中を押されながら、僕は人々が賑わう市場の中へと連れ込まれてしまった。


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