第135話 グランプリは誰の手に?


 ステージ上には総勢11名の粒ぞろいの美女たちが審査結果が出るのを今か今かと待っていた。

 その中に僕がいることが未だに信じられないし、『栄冠は誰の手に?』と真剣に僕らのことを見てくれている観客の皆さんを見ているとどうしようもなく頭を抱えたくなる。


 そんな静かなる葛藤の最中、ついに審査委員長らしき人がノルちゃんのもとにやってきて持っていた封筒をノルちゃんへ手渡した。


「皆様、長らくお待たせいたしましたッス! ただいま結果が出たようなので発表いたしますッス!」


 そんなノルちゃんの言葉を受け、ステージ上の僕らだけでなく、会場全体にも妙な緊張感が漂った。


「ではまず準グランプリの発表ッス!」


 なるほど。準グランプリも発表するのか………はっ! いけないいけない! 危なく「準グランプリくらいなら…」なんてバカな考えが頭の片隅を過ってしまった! 美少女コンテストで賞をもらって喜ぶ男がどこにいる! 変な気を起こすな茶太郎!


 一人で悶絶しそうになっている僕の心の内などもちろん誰も気づくわけもなく、進行は進められていく。


「第一回ファビーリャ女学院美少女コンテスト、準優勝者は……」


 そしてどこからともなくドラムロールの音が聞こえてくる。(おぉ〜。それっぽい)


 ドコドコドコドコ……ジャン!


「エントリーナンバー①番のアンジェリカさんッス! アンジェリカさん、どうぞ前へお進みくださいッス!」


 ……準グランプリ。アンジェリカ会長なら優勝したってまったくおかしくはないと思っていたのに…。


 ノルちゃんに言われた通りステージ中央に立ったアンジェリカ会長は観客に向かって深々と一礼した。

 そして予め用意してあったであろうトロフィーが舞台袖から運ばれてきて、それをノルちゃんに手渡され笑顔になるアンジェリカ会長。


「おめでとうございますッス、会……アンジェリカさん。よろしければ是非一言頂きたいッス!」

「ありがとうございます。では僭越ながら…。まさか私などにこのような栄誉ある賞がいただけるなんて思ってもおりませんでしたので大変に驚いています」


 と、言いつつもまったく驚いた感じを見せないのはそれだけアンジェリカ会長に貫禄があるということなんだろう。まさに規格外の生徒だ。


「これからもこのいただいた賞に恥じぬよう全力で自分自身を磨いてまいりますので皆様、何卒ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」


 そう言うとアンジェリカ会長は再び会場に向かって深々と頭を下げた。


 正直こりゃ勝てないわと思った。人間として出来過ぎている。(まぁ勝ちたいとも思ってはいないけど…)

 ただ、こんな会長さんが準グランプリなら一体誰がグランプリだというのだろうか?


「アンジェリカさんありがとうございましたッス! 皆さまももう一度アンジェリカさんに大きな拍手をお願いしますッス!」


 そして会場が一丸となってアンジェリカ会長に盛大な拍手を贈った。



「では続きまして、いよいよグランプリの発表ッス! 第一回ファビーリャ女学院美少女コンテスト、栄えある優勝者は………」


 そして再び鳴り響くドラムロールの音。

 さすがにこの音を聞いてしまうと今の今までざわついていた会場も一切の雑音が消え、みんなが次なるノルちゃんの言葉を固唾を飲んで待ちわびている。


 そして、



 ドコドコドコドコドコドコ……………ジャン!!



「エントリーナンバー④番!! 笑顔ホロホロ王国から来てくれましたポロリンさんッスーーー!!」 


 ポロリン? ……ルル様!?

 

「え! 私⁉」


 僕は驚いていた。だってまさか素顔を隠して出場したのに本当にグランプリを取ってしまうなんて…。

 それは当の本人であるルル様も同様だったようで、まるでミーアキャットが巣穴の前で外敵を警戒している時のように首をちょこちょこと左右に振って状況の確認をしている。


 そんな小動物的なルル様のため、会場が一丸となって勝者に対する拍手を贈っていた。


「おめでとうございますッス! ポロリンさん今の率直なお気持ちを聞かせてほしいッス」

「えっと…本当に私なの?」


 ただ、たしか出番前僕に「『美』とは外見だけの美しさにあらず」とか悠然と語っていたあのルル様の勇ましさは見る影も形もなかった。


「そうッスよ! 厳正なる審査の結果ポロリンさんが選ばれたッスよ! 是非今の気持ちを聞かせほしいッス!」


 そこまで改めて言われてようやく状況を飲み込めたのか、ペイントメイクをしててもわかるくらいにニンマリと笑いながらルル様は…、


「さ…」


 さ?


「最高だぜーーー!!」


 右腕を高々と突き上げて歓喜した。

 その姿はもう姫でも道化師ピエロでもない、ただ一人の普通の女の子のそれだった。 


 こうして見事僕らのグループから優勝者が選抜され、『服飾部への宣伝の手ごたえ』と『美少女コンテストの栄誉』の二つを事を手に入れることができた。


 めでたしめでたし…………で、終わるはずだったんだけど、



――――――――――



 その後、美少女コンテストを終えて、コンテストが無事に終えられたことへの感謝を伝えに来てくれたノルちゃんから重大なことを聞かされた。


「今日は本当にありがとうございました師匠! おかげで美少女コンテストは大盛況のまま幕を閉じることができたッスよ!」

ね。…まぁ、お役に立ててよかった】

「そりゃぁもう! おかげでもうすでに『来年も美少女コンテストを行ってくれ』という要望が多数生徒会の方に寄せられているッスよ!」


 まぁ来年にはもう僕はここにはいないだろうからどんなイベントをしようが関係ないんだけどね。(…ちゃんと、いないよね?)


「それでッスね。今回のコンテストについて是非チャコ先輩のお耳に入れてほしいことがあってここに来たんスよ」


 ちょっと神妙な面持ちのノルちゃんを見て、ただ事ではないと察した僕は腰をかがめてノルちゃんの身長に合わせた上で話を聞く準備を整えた。


【う、うん。何かな?】

「実はッスね。発表こそされてないッスけど、チャコ先輩の投票数、第3位だったんスよ」


 …マジっすか。(どうしよう。その事実を知ってしまっても全然うれしくない)


「あの上位二人に次いでの3位はすごいッスよ! さすが私の師匠ッス!」


 もうコンテストでの心労も相まってツッコむ気力すら湧かない…。


「そのことをお伝えしたくて。では私はまだやることありますので、これにて失礼するッス!」


 そう言い残し、風のように去って行ってしまったノルちゃん。


 さーて、どうしよう。この言いようのない胸のモヤモヤは。


【うん。忘れよう】


 僕は白ドレスなんて着なかったし、美少女コンテストなんかにも参加していない。ハクナマタタだ。


 そして僕は気持ちを切り換え、講堂に向かって歩いているルリィさんたちの背中を追いかけた。

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