第133話 高貴なグループ
「はい。ありがとうございましたー! サランカにもう一度大きな拍手をお願いしますッス!」
さすがに3人目ともなるとノルちゃんの司会っぷりもずいぶん板についてきた。
だというのに僕はというと気持ちが落ち着かず同じところを行ったり来たり。
「さて、次は私の番だ」
そんな見事なまでの小市民な僕の横を
【ん?】
その一瞬で僕はルル様のある違和感に気づき、今まさにステージに向かおうとするルル様を呼び止めた。
だって…、
【あの、ルル様】
「ん? どうしたんだいチャコ?」
【その顔でステージに行かれるのですか?】
「こらこら。今まさにこれから美少女コンテストのステージに向かおうとしている子に対してなんて言い草をするんだ君は」
【いや、だってですね。これ美少女コンテストですよ? それなのにいいんですか?】
「良いに決まっているじゃないか。美少女コンテストの『美』とは外見だけの美しさにあらず。そういうことなんだよチャコ君」
「それではエントリーナンバー④番の方、ステージにいらしてください」そんなノルちゃんの声がかかり、「じゃぁ行ってくるよ」とだけ言い残してルル様は大勢が待つ会場へと行ってしまった。
【あれで本当に大丈夫なのかな?】
そして僕が心配した通り、案の定会場はどよめいた。
「え、え…と、それでは自己紹介をお願いしますッス」
「笑顔ホロホロ王国から来ました
…………
………
……
盛大にスベってらっしゃる~~!
そりゃそうだよね。美少女コンテストだっていうのに突然道化師の格好で来られて、おまけに顔まで
「あれ~? みんな元気がないぞ~? こうなったら僕の得意技を披露してみんなに元気になってもらお~!」
そんな困惑しきった会場の雰囲気にもまったく動じる気配も見せないルル様はおもむろにポケットから小さなパンを4つ取り出すとそれらをジャグリングしだした。
お、おぉ~。それが結構な腕前でそれこそ「あなた本当に姫なんですか?」って疑いたくなるレベルだ。
そんなルル様のジャグリングさばきを目の当たりにした観客たちも最初こそ困惑していたが徐々に引き寄せられていっているのがよくわかった。
まさか一国のお姫様がこんな見事なジャグリングを……って、まさかそれが狙いなんですかルル様⁉
今日は学院祭で部外者の来校も許可されている。だからまた変な輩がルル様のことを狙うことだって充分にあり得る。
その対策としてあんな過剰なまでのメイクをして身バレしないようにしてたんだ。出場しなくてもいい美少女コンテストに参加するために…。(ほんと凄まじい行動力だ…)
「ほっ! ほっ! ほっ! からの~~~…はむっ!」
僕の感心などよそにルル様のジャグリングをする手は緩めることなく絶え間なく続いている。そしてあるタイミングでルル様はなんと回していたパンの一つを口に入れた。
「おぉーーー!」
会場の歓声を背にルル様は更にパンをひとつ、もうひとつを口に入れる度に会場のボルテージが上がる。(これが一国のお姫様の姿とはきっと会場にいる誰もが想像もできないだろうなぁ)
そして最後のパンも口に押し込むと『ピエロ』が『シマリス』となっていた。
その頃にはもう『美少女』なんてもの、どうでもよくなるくらいに会場は盛り上がってた。(そりゃ、観客からしたら名門女学院の生徒がこんなトリッキーなことするもんだからウケはいいだろうけども…)
会場の温まり具合を確かめるように観客を見回した後、一礼するとルル様は司会のノルちゃんの言葉を待たないままそのまま舞台袖へと戻ってきてしまった。
グッジョブですルル様。
――――――――
「…つ、続きましてはエントリーナンバー⑤番の方、前へどうぞッスーー!」
そして、次に出て行ったのが…、
「2年のエスティアーナ・アルバートですわ」
そう自己紹介しただけで会場からはどよめきが生まれた。
やっぱりアルバート家の知名度は学内外問わずかなりのものらしい。
「おぉ~、これはまた個性的な衣装っスね~。エスティアーナさんの趣味ですか?」
「そんなわけないでしょ! これは服飾部の宣伝の一環として着ているだけですわ!」
内部事情をちゃんと説明するなんて真面目だなエスティさん。(ただ何の宣伝もなしにステージに上がり、去ってしまったルル様よりかは本来の目的をちゃんと果たしているような気がする…)
「なるほど。とてもお似合いッスね! ちなみにエスティアーナさんが着ているこの衣装は一体何をモチーフにしているんスか?」
「『悪魔』ですわ」
「悪魔…ちなみに何の悪魔ッスか?」
「そ…それは……ュ……スですわ」
「えぇ? なんスか?」
「だ、だからサ、サキュバスですわ!」
サキュバス…聞いたことがある。たしか男性の性を奪う淫魔だとか…。
「あぁ! サキュバスッスか! どうりでそんなタイトで、かつセクシーな感じの衣装なんスね! とっても魅力的ッスよ!」
「そ、それはどうも」
「ならせっかくッスからこの会場にいらっしゃる男性方を悩殺するポーズとかセリフとか披露してはいただけないッスかね?」
「そんなことできるわけないでしょ!」
「でもッスね…今はコンテストの真っ最中っスから多少なりともアピールしないと…」
「うっ…!」
ノルちゃんの言うことももっともだ。エスティさんは自ら「優勝を取りに来た」と会長さんに高々と宣言していた。だからやっぱり会場のみんなの気を引く必要はあるとは思う。ただそこには問題もある。
エスティさんの場合、家柄のことを考えるとやっぱりここで道化になるというのはお家の沽券に関わる……と思っていたのに、
「わ、『私にあなたを食べさせなさい!!』」
そんな僕の浅はかな考えなどあっさり裏切るようにエスティさんは道化を演じてみせた。(しかも悩殺風ポーズ付きで)
ただ、
…………
………
……
ルル様のとき同様盛大にスベってらっしゃる!
しかも質の悪いことに先ほどのルル様が時と違ってここから何かを見せて盛り上げるという類のものではないので当然の結果かと思われたが、静まり返る会場の一部の方々から「はいーーー!!」という熱烈なリスポンスがあったため、どうにかオチという形で幕引きすることができた。
ナイスガッツですエスティさん。
――――――――――
「続きましてはエントリーナンバー⑥番の方、前へどうぞッスーー!」
ここまでずっとそつなく進行をしていたノルちゃんだったがステージにやってきた次なる人物を見て彼女の表情が一瞬だけ強張ったものになった。
「エントリーナンバー⑥番のソニア・ランフォードで~す!」
そう言って現れたのは
「こ、これはまた可愛らしい衣装ッスね」
「そうなんです。これも服飾部が製作した衣装で~す。興味がある方は是非服飾部の部室にいらしてください。他にもまだまだたくさんの衣装が展示してありま~す!」
明らかにノルちゃんの表情が硬い。それにソニアちゃんも。
無理もないか。先日の下校時に受けたソニアちゃんからのあからさまに『あなたとは距離を取りたい』という態度は二人に小さくない影響を及ぼしてしまったみたいだ。
「そ、それは興味深いッスね」
そんな二人の友人の姿を舞台袖から見ていて気が気じゃなかったんだけど…、
「それなら是非部室に来てみてください。ノルちゃんに似合いそうな衣装もありましたから是非試着してもらいたいです」
ノルちゃん?
ソニアちゃんのそんな発言に僕は驚いてしまったけれど、当たり前だがそれ以上に言われた側のノルちゃんも相当驚いているようだった。
「わ、私ッスか?」
「とっても似合うと思いますよ」
「…せ、宣伝上手っスね」
一瞬困惑した表情を見せたノルちゃんだったが、しばらくじっとソニアちゃんの顔色を窺うとノルちゃんは嬉しそうに「…時間を見て伺いたいッス!」と答えてみせた。(ふぅ)
どうやら二人の(主にソニアちゃんの)わだかまりは少しは解消されたようだ。
その後はソニアちゃんにしては珍しく奇をてらうことのない、ごくごく普通な自己紹介をしたのちにステージから下りた。(ただやっぱり着ぐるみと特性上子供ウケはかなり良さそうだ)
そんな二人の頑張りに陰ながら僕は惜しみない賞賛を送った。
…ただどうしてあんなにつっけんどんな態度をとっていたソニアちゃんがこうも態度を一変させたんだろう? 謎だ。
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