第132話 あざとくて、ごめん?


  歓声が上がる。それも舞台裏からでも一体どの程度の観覧者がいるのか容易に想像できるくらいの。

 しかも女学院のイベントとは思えないほどの野太い歓声も多く耳に入ってくる。


 僕は舞台袖から恐る恐る観客の方を覗き見た。

 するとそこには女学院の学院祭だというのに約半数が観覧者が男性という異常な光景が広がっていた。中には熱烈というべきなんだろうか、推し活用というべきか名前入りタオルを広げて応援する連中までいる。


【すごい景色だな。まるでアイドルのライブイベントみたいだ…】


 僕の番は⑧番目。

 最近は舞台に立って役を演じるなんてことをしているのに、何故だろうか。今回のこれはまるで畑が違うというか、身の毛もよだつというか、変な緊張に苛まれた。


【これからあの中に飛び込んでいくと思うとなんだか嫌だな…って、ん⁉】


 そして僕は驚いた。そんな半カオス状態の観客らの前を臆せず、制服のスカートをなびかせながら凛とした歩みでステージの真ん中まで行くある女生徒の度胸に。


「エントリーナンバー①番、3年生のアンジェリカと申します。本日はよろしくお願いいたします」


 会長さん⁉ あぁ、そうか。生徒会主催のイベントなのに参加人数が足りてないから自らも参加するして盛り上げようという『責任感』型の参加か。


 それにしてもさすがは生徒会長というだけあってただ佇んているだけなのに品性と貫禄がレベチ過ぎる…。本当に僕と学年が一つしか違わないんですかね、あの人…。


「では会ちょ…アンジェリカさん、改めまして自己紹介を兼ねましてチャームポイントなどあれば是非教えてほしいッス!」

「自己紹介ですか? そうですね、この学院の生徒会長を務めさせていただいております。日々皆さんが快適に過ごせるよう誠心誠意努力しているつもりですが至らぬ点がありましたら是非生徒会の方までお問合せくださいね。あと、チャームポイントですが…強いて言うならこの左首筋から肩にかけてのラインですかね、なーんちゃって」


 そんな普段の気高さとは打って変わって茶目っ気溢れる会長の舌だしスマイルに会場は大盛り上がり。これが世にいう『ギャップ萌え』というやつか。


「かなりの策士ですね会長」


 会長の自己紹介に感心していると僕の隣でソニアちゃんがつぶやいた。


【策士?】

「えぇ。自薦他薦であそこに立っているからはわかりませんが出場するからには本気で戦うと気概を感じます。これはかなりの強敵ですね、先輩」

【いや、私全然戦う気ないんだけど…。そもそも私の場合出場するだけでももう十分に貢献してると思うからそれ以上は求めちゃいけないというか求めたくないというか…】


「何言ってますのチャコ!」


 すると今度はエスティさんまで僕のもとにやってきた。


「そんな後ろ向きな考えは許しませんわ! 出場するからには全力で戦って勝利を掴む、そしてあのアンジェリカをぎゃふんと言わせてやりますわよ!」


 たしかエスティさんたちは幼馴染でしたっけ。やっぱり負けられない戦いがそこにはあるんですかね…。

 ただですね、それはそれとしてこのイベントの名目が『美少女コンテスト』である以上、僕なんかが出場しちゃいけないんですよ。ましてや勝ちに行くなんて…。


「え~、では会ち…じゃなくて、アンジェリカさん。最後に美少女コンテストに対する意気込みなど皆さんに伝えたいことがあれば…」

「あら、もうおしまいですか? なんだかあっという間ですね。なんだか焦っていらしゃるようですねノルケッタさん司会者さん。」

「いえ、そのようなことは…」

「まぁいいです。控えていらっしゃる出場者の皆さんたちも気が気じゃなさそうですし。私はこれで失礼いたします。では皆さま、最後までこの美少女コンテストを楽しんでください」


 そう言うと会長さんはまるでパリコレのモデルさんばりに凛々しい歩みで僕らの控えている舞台袖まで戻ってきた。

 その際にたむろしていた僕らと目が合った会長さんは「あら、あなたたちも美少女コンテストに参加してくださっていたのですか? ありがとうございます」と、声をかけてくれたのに何故だかエスティさんはそれを挑戦状と捉えてしまったらしく、


「そうですの! 出場するからには全力で優勝を取りに来ましたの」

「えぇ是非持って行ってください。これはコンテストなのですから注目を集めなくてはいけません。そういった意味では今のあなたたちの格好はまさにその趣旨に合致していますし、充分に優勝もあり得るでしょうね。それではまたのちほど」


 そう言うとまるで春の桜道でも歩いていくようなさわやかな表情で去っていくアンジェリカ会長さん。


「く~~~! なんですのあの、人を小馬鹿にしたような態度は!」


 ごめんなさいエスティさん。僕には全然そういう風には見えませんでした。もしかしたら幼馴染にしかわからない表情の変化を感知できたのかもしれないけど、だとしたらあの会長さん、本当にただ者じゃないですね…。


 言い知れぬ恐怖にも似た感情が僕の心をかすめた。

 ただそれもほんの一瞬で、すぐに「は〜い、ではお次のエントリーナンバー②番の方、前へどうぞー!」と、なんとも緊張感のないノルちゃんの声が聞こえてきたおかげですぐに意識が美少女コンテストに戻ってくることができた。


 

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