第130話 衝撃の事実 パート2


【ところでルル様。我々は具体的には何をすればいいんですか?】


 僕の前を歩くルル様は僕のことなど振り返ることもせず、首を左右にキョロキョロと忙しそうに振っては各クラスの催している出し物や壁に貼られているポスターをチェックしている。


「ん~? そんなの決まってるじゃないか。いいんだよ」

【え? 服飾部の宣伝はしないんですか?】

「ん~? してるじゃないか。今まさにほら」


 そう言いながら人差し指をくるくると回す。

 ルル様が一体何を指示しているのかはすぐ理解できた。 


 廊下をすれ違う人すれ違う人ほぼすべての人がこちらを興味深そうに見ている。(まぁ『道化師ピエロ』『悪魔』『聖女』『着ぐるみ』『白ドレス』の団体が歩いてたら嫌でも目を引くよね…) 


「こうして服飾部の作った衣装を着て闊歩する。それだけでもう充分に宣伝になるのさ。あとは聞かれれば服飾部の部室を案内して素晴らしい衣装の数々を見てもらえばいいんだよ。だから私たちにできるのはできるだけ多くの催し物会場教室を回ってそこの催し物を楽しむ。それだけ」


 う~ん。たしかに的を得ているようにも思えるけどただ遊びほおけているだけのようにも思える。


「でもあまり羽目を外し過ぎないように注意しないとですわよルル。学院祭の間は多くの部外者も校内にいるんですから」


 それはつまり前みたいにルル様を狙う輩がいるかもって話か…。たしかあの賊らはあの場で全員捕まったって聞いてるけど、もしかしたらまだ仲間が残っていたって全然不思議じゃない。

 僕は自然と賊にやられた右太ももに手を添えた。


 するとルル様は突如僕の腕を取り、僕の腕にしがみついてきた。


「大丈夫っ! その時は私のナイト様がまた助けてくれるから。ね? チャコ?」


 どう答えるのが正解かわからない。

 【もちろんですとも】と肯定するべきか、【あの時はたまたまうまくいきましたけど】と謙遜するべきなのか…。そんな脳内葛藤で返事をするのに躊躇していると、



   「探しましたよ。お嬢様」


  

 そこに現れたのはエスティさん付きのメイドであるカレンさんと、王室近衛隊隊長のアルバさんだった。

 あぁそうか。今日は一般参加もOKな日だからあの二人も堂々と校内で護衛できるんだ。(ただ…なんだろう? お互い不自然な距離感を保っているような…)


「よぅ! 英雄ヒーロー! 今日は社交パーティーにでも行くのか? それとも仮装パーティーか?」


 おぅ。だからあなたに『英雄』呼ばわりされてもあなたの方が全然英雄なんだからその呼び方は可及的速やかにやめてもらいたいのにぃ。


 女学院にはあまりに不釣り合いなガタイの良いアルバさんは無精ひげを手でさすりながらニカっと笑っていた。 


【違います。学院祭の一環です】

「ファビーリャの学院祭はユニークで盛大だって王都でも有名な話だが、マジだったんだな」


 そう言うとアルバさんは僕らのことをサッと見回すと、


「なるほどな。その格好なら目立ちはするがまさか一国の姫が道化師の格好するとは誰も思ってねぇだろうから隠れみのになるってことか」

【………っ!】


 僕は慌ててルル様の方を見た。

 ルル様は肯定も否定もしなかった。


 まさかこのコスプレにそんな意味が込められていようとは…。ただ面白半分で衣装を着て服飾部の宣伝をするってわけではなかったのですね…。


「なら俺が近くをうろちょろしちゃぁ返って姫の場所を指し示すようなもんだな。なら俺は少し離れたところから見守っとくから後のことは頼んだぞ、カレン」


 そう言うとアルバさんは隣にいたカレンさんの背中を軽く叩いた。


「っーーー!!! 気安く触れるな! この痴れ者がーー!!」


 すると突然激昂げきこうしたカレンさんはあろうことか腰に携えていた剣を取りアルバさんに向けて斬りかかった。


 えええーー!! ちょ、こんなところで危ないってば!!


 が、アルバさんも透かさず携えていた剣を抜き、いとも簡単にカレンさんの斬撃を受け流す。


「ハッハッハ、また腕をあげたなよ! だがなそれではまだ偉大な父は超えられんぞ」


 ええええーーーーー!!! か、カレンさんがアルバさんの娘ーー!?!?!?


「それはどうかな! 受け流すので精一杯のように見えたが?」

「久々にあった娘にいきなり反撃をするなどそんなことするわけなどあるまいよ我が娘」

「娘、娘言うな! この痴れ者がーー!!」


 そしてこの狭い廊下で見るも素晴らしい大立ち回りが繰り広げられることとなった。


 最初こそ周囲の人たちもあまりに突然の出来事に顔を青ざめていたが二人の関係性が親子だとわかるとこの二人のあまりに凄い大立ち回りが学院祭のイベントの一環なのだと勘違いされ、今ではもうみんな歓声を上げて喜んでいた。


 が、そんなこと承認させるはずもなく…、


「二人ともおやめなさい!」「二人ともストーーーップ!」


 さすがに二人の主人からの制止の命令が下り、アルバ親子の動きがピタリと止まった。(ふぅ)

 

「このような公共の場で恥ずかしい。我々に恥をかかせるつもりですの?」

「そうだよ二人とも。服飾部のため目立たなきゃいけないんでけど、悪目立ちはごめんだからね!」


 二人の主人に注意され二人の従者はその場に片膝をついて深々と頭を下げた。


「はっ! 大変に申し訳ありませんでした」

「面目ない」


 こうして親子喧嘩はあっさりと閉幕した。(それにしても二人が親子だったなんて本当にびっくりだ)




 後で聞いた話になるが二人は会う度にいつもこんな感じだそうだ。

 というのもカレンさんは幼少のころからアルバさんから厳しい戦闘の訓練と過度なスキンシップをされ続けたせいで重度の男性嫌いになってしまったんだとか。


 そのせいで僕、カレンさんとの初対面の時に殺されかけたんですけど…(頼みますよアルバさん)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る