第128話 そして始まるみんなの宴 (2)


「では連絡事項は以上となりますが、何か質問のある方はいらっしゃいませんか?」


 教壇に立つエスティさんは教室内をグルっと見渡したが誰も何も反応がなかったことを受けて小さくコクコクと頷いた。


「おりませんわね。では我々の演目は午後の部の一番最後ですので集合時間になりましたら講堂まできてください」


 本来今の連絡事項だってエスティさんではなく担任のパルナ先生が僕らに伝える役目のような気がするんだけど、なぜだか当のパルナ先生は教室の一番後ろで腕組みしながらただただ満足そうにしている。

 おそらくそれがパルナ先生の『放任』という名の教育スタイルなのかもしれないけど、なんでだろうか…どことなく楽をしているだけのようにも見えてしまう。(それこそこの世界では一応名の知られたあの魔女のように…)


「それまではゆっくりと学院祭ファビフェスを堪能してくださいな」


 そしてエスティさんのあいさつが終わるとまるで見計らったかのように学院祭ファビフェスの開催を知らせる花火が鳴り響いた。




 よぉし! 先の不安なんて抱き続けてたら目の前の楽しみを取りこぼしちゃう。せめて本番までは目一杯楽しむぞーーー!!


 そう意気込んでいると…、


「先輩っ!」

【ん? どうしたのソニアちゃん?】

「一緒にファビフェス回りませんか?」


 僕の席にソニアちゃんがやってきた。


 先日のほっぺちゅーの件以来、別のベクトルで気まずさを抱くようになってしまった僕らだったけど、こうしてソニアちゃんの方から話しかけてくれるようになったことから見ても、前のような関係性に戻りつつあることは実感できた。


【もちろん】

「ほんとですか⁉」

【自分から誘っておいて何をそんなに驚いてるのさ】

「いや、だって―――」

【ルリィさんとアイちゃんも一緒だけどいい?】

「あ…はい。(…ま。想定内か)」

【ん? 何か言った?】

「いいえ! 何も!」

【???】


 驚いたり、怒ったり、今の一瞬だけでも目まぐるしく変わるソニアちゃんの表情を見て、思春期の女の子の心は絶対に理解できないとそう確信してしまった。

 

 すると今度は…、


「おうおう! 何だか面白そうなことしようとしてるじゃねーか? このプリンセスを差し置いて自分らだけで楽しもうなんて良い御身分ですな、お世話係さんよぉ?」


 まるでチンピラのような口ぶりのラマリカス王国王位継承権第三位の姫がやってきた。


【あの、これ見よがしに身分をひけらかさないでくださいよ】(たしかルル様、身分や地位なんて関係ない、対等な関係を僕と望んでましたよね⁉)


 そしてそのプリンセスの隣には例のごとくエスティさんもいる。


「チャコの言う通りですわよルル。今日だけはひとつの目的を目指すチームなのですから圧制された関係では決して良い結果は生まれませんわ」

「いやだってさエスティ、チャコったら私たちのことをおいて自分たちだけで遊びに行こうとしたんよ?」

【い、いえ! 決してそのようなことは…】

「ほんとぉ? ちゃんと誘ってくれる予定だったぁ?」


 疑いの目を向けてくるルル様。でもごめんなさい。誘われたら是非にとご一緒したいと思っていましたが、自分からお誘いしようなんて恐れ多くて全然思っていませんでした。


【…はい。もちろんです】

「なーによ今の間は!」

【す、すみません!】


 そんな僕らのやり取りを見ていたエスティさんがルル様の肩に手を置く。


「そのくらいにしなさいルル。長いこと押し問答してたらすぐに集合時間になってしまいますわよ?」

「おぉそうだった。時間大切。というわけで行こうぜファビフェス!」


 いつになく浮かれ気味のルル様に腕を掴まれ無理やり席から立ち上がらせられ、ざわつき出していた廊下へと連れ出された。


「ん? どうしたお世話係さん?」

【いえ、なんというか…】


 生徒はもちろんのこと、一般の観覧希望者を含めた大勢の人たちが楽し気な表情を浮かべながら校内を闊歩する姿は、普段見慣れた景色をこうも簡単に別物…さしずめ異世界にでも誘われたかのような感覚を与えてくれた。


 そして後ろを振り向けば苦楽を共にした大切な友人たち。


 日常のちょっと延長にある『学院祭』というイベントのはずなのにこうも気持ちが高ぶり、すべてが輝かしく見える。

 

 そしてその中に今、紛れもなく僕はいる。その事実が何だかとてもうれしくて…、


【私、今…とても幸せです】


 そんなことを言ってみたらみんなに笑われてしまった。


 でもいくら笑われようと僕は今日、目一杯学院祭ファビフェスを楽しもうと強く決心した。



 





 


 

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