第127話 そして始まるみんなの宴 (1)


【おぉ〜!】


 僕らの目指す先。いつもは少し憂鬱気味に通り抜ける正門に大きな文字で『ファビーリャ女学院祭ファビフェス』と書かれた看板が掲げられたウェルカムアーチが設置されていた。


「チャコさんはじゃぎ過ぎですよ」

【いや、はしゃぐって言うよりはビックリしちゃった。昨日帰る時はあんなの設置されていなかったでしょ?】

「きっと今日のために運営委員会の方や先生方が頑張ってくれたんですよ」


 そう。僕らはついに今日、学院祭ファビフェスを迎えることとなった。


 開催時刻までまだ2時間くらいはあるというのに校庭にはもうすでに多くの人たちが自分たちのクラスの出し物(出店)の準備に大忙しといった感じだった。


【ん? あれ? 何だかファビーリャの生徒じゃない人たちもけっこういない? まだ開催時刻じゃないのに学院内に入っちゃっていいの?】


 見ればあきらかに年齢も性別も違う人たちがいて、せっせと何かの準備をしているようだった。


「あぁ、あの人たちですか? 毎年私たちだけでは校庭のスペースが埋めることができないので場所の有効活用のために空いてしまったスペースを地元のお店に誘致しているんです」


 つまり地域一体となってこの学院祭ファビフェスを盛り上げようということか。


 聞いた話では学院祭ファビフェスはアビシュリの『勝利祭』に次ぐ盛大なイベントらしい。なのでこの街の人たち以外にもこの学院祭ファビフェス目当てでやってくる人が多いとか。(ただ純粋に学院祭ファビフェスを楽しむために来るんじゃなくてナンパ目的とかで来る人もいるんだろうなぁ。嫌だなぁ) 


【みんなやる気満々なんだね。なんかああいうの見てたらなんだか更に緊張してきちゃったよ】

「大丈夫ですよ、チャコさん。あれだけ練習してきたんです。きっとうまくいきます。ねぇアイさん?」


 そう言うと僕を挟んで反対側にいたアイちゃんに話を振るルリィさん。

 それに対してアイちゃんはコクコクと頷いた後でドヤ顔で「ファイト。お姉さま」とサムズアップされた。


【う、うん。頑張るよ】



 この一ヵ月間、僕のライフサイクルには必ずと言っていいほど『サントロス』がついて回っていた。

 練習練習勉強練習家事練習…の日々。あなたは役者を目指しているんですかってくらいにお芝居に打ち込んできたと自負している。


 でも、それだけやってきてもやっぱりキスシーン例のシーンだけは一度も実演できないまま今日まで来てしまった……。


【……はぁ】


 そんなヘタレな僕の気持ちを察したのかルリィさんは「本番になればちゃんとできますよ」と励ましてくれたが、それでも僕は一抹の不安を払拭できないままでいた。


 とはいえここで不安げな顔をしてはルリィさんにいらぬ心配をかけてしまうので極力悟られないように笑顔で【そうだね。頑張ってきたもんね】と返事をして、僕らは教室へと向かった。



 

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