そして始まる異世界生活
第5話 そして始まる異世界生活
ここに来て1週間。いろいろと分かったことがある。
1つ目。この世界は『アテラ』と呼ばれるところで、みんな誰しもが何らかの魔法が使える世界らしい。
2つ目。『シエナ』という人間はかなりのぐーたら人間だったということ。
「シエナさん! 起きてください! もうすぐお昼ですよ。部屋が片付かないんだから早く起きて、ごはん食べちゃってください!」
「うるさいなぁ、頭が痛いんだ。もう少し寝かせてくれ」
「昨日深酒するからそんなことになるんです」
「おまえは
「そういうのは晴れて僕が元の世界に帰れた時にやってください」
「そんなのいつになるかわからんだろ?」
「それはあなたの努力次第でしょ! あんまりがっかりするようなこと言わないでください」
3つ目。僕が日本に帰るのはなかなかに難しいらしいということ。
「で、進捗状況はどうなんですか?」
「全然だ。前にも言ったろ? いろいろとアイテムが必要なんだ。中にはかなりのレアアイテムもあるから金あるいは労力が必要になりそうだな。場合によってはどっちも。あと言わずもがな『闇のマナ』もな」
シエナさんのぐーたらなのもその一因なのだが一番のネックはどうやら『闇のマナ』というものがないことらしい。
シエナさんいわく、どうやらこの世界には『四大マナ』というものが存在しているらしく、『火のマナ』『水のマナ』『風のマナ』『地のマナ』の主に4つのマナに分けられるらしい。
そうなると『闇のマナ』って? と思うかもしれないがシエナさんのようにかなり少数派ではあるがあと『光のマナ』『闇のマナ』という特殊なマナもこの世界には存在しているとのこと(知らんがな)。
総じて僕が日本に帰るためには調達しなければならないものが結構あるそうだ。それを今後この二日酔い魔女に任せるなければならないと思うと先行きがものすごく不安なのだが…。
そして4つ目は、結構僕って逞しいのかもしれないということ。
僕が居候しているシエナさん家(といっても山小屋みたいなものだけど…)はなんでも『ネネツの森』と呼ばれる森の中にあるそうで、ここに来た日に散々迷い歩いても出られなかったのはこのネネツの森が通称『迷いの森』と呼ばれているからだそうだ。
けれどここでの生活を一週間も続けていれば近場の地図情報ならもうだいたい把握できた。
川の場所。食べられる植物の生息地。薪など火おこしに必要そうな物が集めやすい場所。
ここで生きてくために必要なものは何とか手に入るのでどうにか生きていけそうだ。
「それ食べたらちゃんと僕が帰れるための作業してくださいよ。僕ちょっと川で洗濯して来ますから」
「あー、はいはい。わかったからさっさと行ってこい行ってこい」
そう言いながら僕が用意した果物をひと口かじりし、空いている方の手をパタパタと振って厄介払いするシエナさん。
まぁ、もう恒例の事なので僕も差ほど気にせず洗濯をしに川へ行こうと家の扉に手をかけようとしたら、『ガチャ』っと、扉が勝手に開いた。
「こんにちはシエナさん…ひぃ!」
まさかこんな辺ぴなところに来客者が訪れるとは思わず僕もびっくりしてしまったが、彼女もまた僕のことを見て驚いていた。
「おぉ、ルリィか」
「あのシエナさんこの方、髪が黒…」
ルリィと呼ばれる女性は僕の髪を見るなりかなり青ざめた表情で怯えているようだった。
「あー、チャタロウはそういうんじゃない。私が別の世界から連れてきてしまったんだ」
「べ、別の世界から?」
「あぁ。だからそいつにはマナもないも。危険もない。至って人畜無害なつまらん奴だよ」
「つまらん奴は余計ですよ」
シエナさんの説明を反芻するようにルリィさんは僕のことをおっかなびっくりと観察していたが結局不安そうな表情を崩さなかった。
まぁ無理もないか。訪れた知人の家にいきなり得体のしれない男がいたら誰だって驚くだろうし。
だから僕は極力笑顔を自分の安全性を訴えるように手を差し伸べた。
「初めまして。僕の名前は茶太郎です。ここにはシエナさんに無理やり連れて来られたんですけど仲良くしていただけたら幸いです」
「あ、の…」
自分では完璧な笑顔であいさつができたと思っていたのだがルリィさんには身構えられてしまった。そして何故だか彼女はしきりに自分の耳を気にしているようだった。
するとそんな姿を見ていたシエナさんがルリィさんに、
「大丈夫だ。言ったろ、チャタロウは別の世界から来たって。この世界でのハーフエルフの概念なんてこれぽっちも気にしてない」
ハーフエルフ…?
『エルフ』という言葉には聞き覚えがる。たしか映画や漫画でよく出てくる空想上の生き物のことだ。でも『ハーフ』って…?
「ハーフエルフっていうのは主に人間とエルフの間に生まれた混血種のことだ」
「シエナさん!」
「何だルリィ? 何か間違ってたか?」
「そうじゃありませんけど…そんな改まって人前で言わなくても…」
「だからチャタロウは平気だって言ってるだろ」
そしてルリィさんは改めて僕の方を恐る恐る窺う。
なので僕はもう一度自分のありったけの清廉潔白さ訴えるべく最上位の笑顔を向けた。
(それにしても改めて見ても…)
金色に輝く長い髪。つぶらな瞳。すらりとしたスタイル。外見はほとんど人間と変わらない。ただ唯一彼女が気にしていた耳だけは確かに僕らとは違って少し尖ってはいるが、その程度の違いしか見受けられなかったので差ほど違和感なんて感じなかった。
「ルリィです。はじめまして」
どうやらルリィに誠意は伝わったようで、多少ぎこちないながらもルリィさんもあいさつを返してくれた。
「あの、チャタロウさんは男性の方なんですか?」
「はい。よく見間違われるんですけど、正真正銘の大和『男子!』です」
「やまと?」
あぁそうか。こっちの世界にはない言葉や物事は『
「やまとは僕の住んでいた所の名前です」
「そうなんですね。はじめて聞きました」
そしてようやくルリィは僕に微笑みかけてくれた。
どうにか僕らの初対面のやりとりはうまくいったようで、見届けていたシエナさんも心なしか安心した様子だ。
「ところでルリィ。今日は何しに来たんだ?」
「せいぞん…様子を窺いにです。シエナさん、放っておいたらすぐに不摂生になるから」
「この通りピンピンしてるぞ。お節介な召し使いのおかげでな」
「僕は召し使いになった覚えはありません! 早く帰してください。」
はい。断固として召し使いなんかじゃありません。正しくは締め切りまじかの原稿を催促する編集者と作家さんのような関係性です。
「殊勝なことだ。それよりルリィの方はどうなんだ? 学院の方はうまくやれているのか?」
「…はい。…なんとか…」
「煮え切らない返事だな。お前をファビーリャ学院に紹介したのは私だ。何かあれば遠慮なく私もしくはトリエステに相談しろよ」
「…はい。大丈夫です」
門外漢の僕ですらルリィさんの「大丈夫」という言葉はまったく大丈夫そうには見えなかった。
「おまえにも同年代の友人でもいれば………ん? 待てよ」
そんなシエナさんのツイートに僕はものすごい悪寒を覚えた。
「そうだ! チャタロウ! お前、ルリィと一緒に学院に通え」
そして僕の嫌や予感は的中した。
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