週末総攻撃4 ~ ネオ-デストロイ団 vs 悪徳財団

 ──思い返せば、それは数年前のこと。

『親父、どういうことだ!』

 アクーラJr.は血相を変えて、ネオ-デストロイ団の作戦会議室に飛びこんだ。

 そこにはネオ-デストロイ団の名だたる大幹部がそろって出席しており、最高位の議席にはアクーラJr.の父たる大将軍も座している。

『どうして俺が蚊帳の外なんだ! 今度のロイロール星侵略作戦から俺を外すってのはどういうわけだ! なんで俺抜きで作戦会議なんて開いてやがる! 答えろよ、親父!』

 とアクーラJr.はまくしたてる。その突然の到来に、お目付け役であるデスノイアが立ち上がりかけるが、それを実父でもある大将軍が制した。

『息子よ。おまえにはまだ早い』

 厳かな足取りで大将軍は息子のもとに歩み寄る。

『ロイロール星侵略は一大作戦だ。おまえは、首を突っこむには未熟すぎる』

『んなことはねえ! 俺ならできる! いったい俺に何が足りねえってんだ!』

『指揮官としての能力、戦略や戦術を練る力、そして何より──』

 瞬間、大将軍の鉄拳がJr.の右頬を殴り飛ばした。例え実子であろうと足を引っ張るなら容赦はしない。大将軍の冷徹な考えが光る拳だった。

『自らの身すら守れぬようなひよっこがイキるな。これが本当の闘いなら、おまえは今、死んでいた』

『くっ……』

 鋭い眼光に射抜かれ、流石のJr.も閉口してしまう。

『去れ。組織の輪を乱す者は息子であろうと許さん』

 そう告げると大将軍はJr.に背を向ける。もう話は終わったと言わんばかりの態度で、

『すまんな。息子が水を差してしまった。どうやら私は、将軍としてはともかく、父としてはまだまだらしい』

と会議に出席している幹部に彼なりの冗談を飛ばす。

 この屈辱がアクーラJr.にひとつの野望を与えた。『必ずや親父を超えてみせる』と……。



 § § §



「博士。いよいよです」

 HAL社が保有するトレーラーの中で、助手のハルロイドが春羽に告げた。

 外見こそ資材運搬用の平凡な大型トレーラーだが、中には様々な機器が完備されている「動く基地」だ。もっとも、その半分以上の体積は春羽自慢の【対物テレポーテータ】装置が占めている。春羽の開発した対物テレポーテータは、受信先か送信先のどちらかにこのような巨大装置が必要となるが、もう片方は携帯電話サイズの端末があればそれで充分。そこが革新的な点だった。

「ええ……」

 ドローンカメラや悪徳四天王コスチュームに内蔵されたカメラから送られてくる映像を見つめながら、春羽は相槌を打つ。

 本当にこれで良かったのだろうか、という迷いがそこにはあった。彼女たちを戦場に送りだしてしまったこともそうだが、装備開発者としての迷いもある。

 悪徳四天王コスチュームは、ヒーロースーツと異なり、純粋な戦闘用スーツではない。そもそも悪徳四天王が最も恐れなければいけないのは、敵からの攻撃ではなく、身バレである。そんな秋紗からのアドバイスを参考に、春羽はコスチュームを作り上げた。

 最大の特徴はスキャナーマシンに対する耐性だ。コスチュームの中の人を見透かすスキャナーマシンは、悪徳四天王にとって最大の天敵。真っ先に対処すべきことだった。春羽はこの問題を解決する専用繊維を用いることで解決した。

 さらに春羽は『尾行対策』として、歪光子から装着者を守る機能も搭載した。歪光子というのは、対物テレポーテータが開く歪次元空間を満たす粒子であり、これが生物細胞へ悪影響を与えるからこそ【対物】テレポーテータなのである。この問題に対し春羽は装着者を歪光子から守るシステムを秘密裏に開発。百メートル強くらいの距離ではあるがテレポート移動することができるようになったのだ。これは今のところ悪徳財団の占有技術である。

 しかし身バレ対策をしすぎた結果、ヒーロースーツの必需品である「ダメージカット繊維」を使用できないという問題が発生した。アドバイザーである秋紗はこれを全く問題視していなかったので、春羽も今までこれをスルーし続けてきたが、こんなことになるならもっと真剣にコスチューム改良を進めておけば良かったと、今になってほぞを噛む。

(アキちゃん……、ナツちゃん、フユちゃん……)

 無意識のうちに、春羽はモニタの前で両手の指を組んでいた。まるで、何かに祈るように。



 § § §



「オーッホッホッホッホッ! さあ、ライブ開演の時間ですわ!」

 自分を包囲するトロイ兵の陣形が完成したところで、ウィンターが高らかに宣言する。相手の準備が整うまで待ってやるのが悪の美学というものだ。

 準備が整ったところで、先陣を切ったのはゼンザス隊トロイ兵長。デストロアックスを掲げて

「うおぉぉぉらぁぁぁッ! ここで貴様は終わりじゃあぁぁッ!」

 雄叫びをあげながら距離を詰めた兵長はアックスを振りかざす!

 しかしここで、ヨガで鍛えた冬峰の柔軟力が光る。ウィンターはグッと上体を大きく反らして攻撃を避けると、体位をバネのように戻し、その勢いで兵長に頭突きを噛ます。

直撃を受けて怯んだ兵長。その隙にウィンターは、兵長の肩を抱いて耳元でそっと囁いた。

「知ってるのよ、坊や。さっき、間に合わなくて少し漏らしちゃったんでしょ?」

「な、なぜそれをっ!?」

 驚愕する兵長は、このウィンターの中の人が先ほどショッピングモールで出くわした田中屋冬峰だとは知らないし、感覚傍受能力があることも知らない。

その心的な隙を突いてウィンターは兵長に足払いをかけてその場に転ばせる。

 そして、そのハイヒール状の踵で兵長の金的へ踏みつけ! やっているのが常人的な身体能力しかない冬峰なので威力は大したことないが、その幻術により体感威力だけはクレーンハンマーの一撃並みにある!

「おぉん!」

 鋭い一撃を急所に受けた(気がする)兵長は、下手なエビフライのように背中を丸めて沈黙した。

 だがまだ部下が残っている。ウィンターは【きらきら☆オーロラロッド】を空に向けた。これは「私もヒーローみたいな武器が欲しいです」とゴネる冬峰を宥めるために春羽が片手間で作ってあげた、見た目がそれっぽいだけのオモチャである。だが元から十分な力を持ち、何より見栄えにこだわる冬峰すなわちウィンターにとって、これ以上の相棒はいない!

「あなたたちの弱点はお見通しでしてよ! 『ナイトメアリアライズ・サバの味噌煮缶』!」

 技名を叫んだ瞬間、再びテレポートポータルが開き、数多くの「何か」がトロイ兵たちに降り注ぐ。

「な、何だ!?」

「これは、サバの味噌煮缶!」

「うっひょー! 動物たんぱく質だ! 久々の乾パン以外の食いもんだーっ!」

 我先にとサバの味噌煮缶に群がるトロイ兵。今が戦闘中だということも忘れ、缶を開け、旨い旨いとむさぼった挙句、声をそろえて

「小骨が喉に刺さりましたぁーっ!」

 という風変わりな断末魔を挙げて、卒倒した。

 言うまでもないが、すべてウィンターこと冬峰の幻術に操られてのことである。彼女の術中に落ちた時点で、このようにひたすら無様な醜態を晒しながら敗北することは決まっていたも同然。

「まあ、もう終わり? 最弱の四天王と言われるこのワタクシに手も足もでないとは、トロロイモ団も大したことはありませんのねえ! オーッホッホッホッホ!」

 と高笑いする冬峰は、ショッピングモールでブス呼ばわりされたことをまだ許していない。



 同じ頃、サマーはというと。

「一応、最後に警告しておきましょう」

 サマーは愛銃【Le Thermidor】を構えながら、自分を包囲するトロイ兵らに告げた。

「貴方がたの行為は、我ら悪徳財団に対する一級反逆行為に該当します。それを承知でなおも歯向かうと言うのなら──」

 その銃口をチャバンス隊トロイ兵長に向けながら、低い声で宣告する。

「──その蛮行は万死に値する」

 しかしトロイ兵がその程度で怯むことはない。何せ彼らは戦闘員とは言え、ネオ-デストロイ団というブランドがある。田舎のFランクチームを相手に臆さねばならない道理はない。

「なるほど。良いでしょう。見せしめは治世の基本。貴方がたにはこの蛮行の代償の重さを、身をもって分からせてあげましょう。下賤な愚民でありながらこの私の手で直に裁かれるという不相応な栄誉に授かれることを、冥府の手先にでも誇るが良い!」

 この辺の芝居がかった言い回しは、夏瀬が趣味とする観劇から受けた影響である。特に中近世の西洋を舞台とする話が彼女の好みであり、それが高じて【極悪宰相・Lord.サマー】というキャラクターが生まれたとも言える。

 それはともかく。今の言葉を開戦の辞とするが如く、トロイ兵らはいっせいにサマーへ襲いかかった。

 360度を包囲されながらの戦闘は不利。それに生憎、夏瀬には冬峰のようにインチキ能力を持ち合わせてはいない。だからこそサマーは、まず愛銃【Le Thermidor】を地面に向けて発砲。その着弾により生じた爆風に身を任せて跳躍し、トロイ兵の頭上を飛び越えて包囲網の外に出た。Zombウィルスがもたらす怪力を用いれば力ずくの突破も可能だっただろうが、そういう「お行儀の悪い」戦闘は好きではない。

 飛び越えられたことを感知したトロイ兵がすぐさま踵を返すが、その顔面に光弾が直撃。スーツでは到底相殺できないような衝撃に、その兵は大きく吹き飛ばされた。だがそれを見ても仲間のトロイ兵は止まらない。落ちぶれても一流組織の戦闘員。命を賭すことに何の抵抗もないのだ。

 こうなればサマーも容赦はしていられない。両手に持った愛銃で苛烈な弾幕を展開する。愛銃【Le Thermidor】は、威力を過剰に高められたプラズマキャノン。「これ以上威力を上げると安全性が保証できない」と主張する春羽に秋紗が何度も無理を言って作らせた狂気の破壊兵器である。なので威力は申し分ないが、問題はその反動。「走行中の乗用車と正面衝突したときの威力」が射撃一回ごとに射手を襲う奇天烈仕様なのである。すなわち、常軌を逸した筋力や回復力を誇るZomb適合体・夏瀬にしか扱えない超兵器だ!

 その常軌を逸した威力をもってすれば、トロイ兵のアーマーなどあってないような物である。愛銃が火を噴くたびにトロイ兵がひとりずつ減っていく。

 だが愛銃【Le Thermidor】にはもうひとつの欠点がある。プラズマ銃と言えば1度の銃で百発撃てるのが当たり前という燃費の良さが売りだが、この銃は威力を追い求めすぎたあまり、満タンからでも6発撃つとバッテリーが枯渇する。だが、そんなことはサマーも当然把握済み。撃ち切ったその瞬間に銃をホルスター型充電器に戻す。

「うおりゃあああッ!」

 リロードもといリチャージの隙を縫って襲いかかってきたトロイ兵。だが、この程度のシチュエーションは戦闘訓練で経験済み。その脚力を活かした後方宙返りで相手を翻弄させつつ距離を取ると、その一瞬の間にサマーは法衣の内から別の銃を抜いた。元より【Le Themidor】は四挺でひとつの装備。二挺を充電している間にもう二挺で撃つのだ。

 近づかれれば距離をとり、囲まれれば跳んで逃げ、隙あらば銃で撃つ。死を恐れぬ悪魔の軍勢を銃弾の雨で退けるその姿は、B級映画に出てくるゾンビハンターのようで。これこそ、冬峰のような力も秋紗のような技もない夏瀬が、それでも戦場という苛烈な世界を【生き抜く】ために編み出したバトルスタイルだ。

  ……激しい銃撃戦を経てついに敵の軍勢を殲滅したサマー。だが、ラストバタリオン、最後のひとりとなってしまった兵長が果敢にも背後から襲いかかる!

「甘い!」

 だが、わずかな気配を察知したサマーの回し蹴りが炸裂する。最後の反撃のチャンスを潰され、蹴り飛ばされた兵長は、刹那のうちに理解させられた。こいつに挑んではならなかった、と。

「み、見逃してくれぇ」

 尻もちをつきながら後ずさりをする兵長に、サマーは銃口を向けながらツカツカと歩み寄る。

「情状酌量の嘆願ですか」

 これが一度目の過ちだというのなら、見逃してやっただろう。夏瀬とて降伏した相手を嬲るような趣味はない。だが、その「一度目の過ち」は先ほどのシティホール襲撃で既に消化済み。あのとき「撤収しなければ撃つ」と警告した以上、慈悲をかける必要はない。

「ですが、私には拒否権がある」

 ──閉廷の辞として、無慈悲な銃声が響いた。



「さーて大将、俺らもそろそろ始めようぜ」

 大群相手に大暴れを展開するサマーやウィンターを傍目に、オータムが肩を鳴らしながらアクーラJr.を見据える。対するアクーラJr.は、鮮やかな赤に染まる眼を怒りに燃やし、鋭い爪と硬い鱗に覆われた両手に力をこめる。

「そんなデカい口をきけんのも今のうちだぞ」

「おいおい、次回予告はもうたくさんなんだよ。そういうのはデカい口をきけなくしてから言えって」

「なら見せてやる。ホントなら使うまでもないんだろうが、てめえは特別だ。出し惜しみなしでぶっ殺してやるよ」

 そう言って、アクーラJr.はある装置を掲げた。その装置を見た途端、その様子をモニタ越しに見ていたトレーラーの中の春羽が驚愕する。あれは、旧式ではあるがヒーロー用の変身装置だ。ヒーロー用に作られたものとは言え、認証システムさえ改悪できれば悪の怪人でも使用できてしまう。かつてのネオ-デストロイ団ほど力のある組織なら、倒したヒーローから略奪することだって容易だったはずだ。

「行くぜっ! 武装開始!」

 そのかけ声により返信装置が光りだす。次元の揺らぎから現れたアーマーがアクーラJr.の体を包み──

「ぐぁッ!?」

 ──かけたそのとき、再び瞬間的に距離を詰めたオータムの鉄拳がアクーラJr.をとらえた。原因不明の圧力を探知した返信装置は緊急停止し、完全に装着できていなかったアーマーも消え去る。

「てめぇッ、卑怯だぞ!」

「卑怯だぁ?」

 オータムはこれ以上ないくらいに皮肉いっぱいの口調で嘲笑する。

「じゃあいいよ、変身させてやるよ。で、次はなんだ? 『必殺技くらい撃たせろ』か? 『おとなしくくたばれか?』 笑わせんな! こちとら接待しに来てるんじゃねえんだよ! ワガママ言うのはてめえのパパにだけにしろ!」

「……うるせえッ!」

「っつっても、分かんねえよなぁ。部下に安全確保させた所でしか戦えねえような、温室育ちのボンボンにマジバナしたって無駄か!」

「うるせえっつってんだろうが!」

 いよいよ激高したアクーラJr.は、変身することもなくオータムに立ち向かう。直情的な彼は、自分の心理が秋紗の掌の上で転がされていることをまだ知らない。

 その鋭い爪でオータムの顔面めがけて恐ろしく高速な突きを繰り出す! だが、オータムも難なくその手首をキャッチ!

「なんだ、そのヘッポコパンチは?」

「ザケんな、クソがっ!」

 とアクーラJr.はもう片方の手で貫手を繰り出すが、こちらもオータムは易々と受け止める。

「喧嘩の仕方も知らねえのかよ、大将。俺は母ちゃんの腹の中にいた頃マスターしたぜ?」

 そうオータムが笑うと同時に、彼の尾がイカの触手のようにうなり、アクーラJr.の首筋に巻きついた。そのまま宙づりにされるJr.。ほどこうともがくも、恐ろしく強い力の前にはまるで歯が立たない。

(どうなってやがる。この俺が、Fランチームなんかに?)

 驚愕する。こんなこと、まるで想定していなかった。

 下調べでは、悪徳財団というのは道楽で悪事をやっているようなお気楽集団だったはず。自分がそんな奴らに負けるなどあり得ない。その思い込みが、彼の心から冷静さを奪っていく。

「おうらよっ!」

 尾により投げ飛ばされたアクーラJr.は、大きく吹っ飛んだ後、地面に叩きつけられた。だがダメージを負っていたのは、肉体より精神のほうだった。

(ありえねえ……。ありえねえ、ありえねえ! ありえるわけがねえッ! 俺が負けるわけがねえっ!)

 そう焦燥に駆られる彼の心に、かつての父親の言葉が蘇る。

『自らの身すら守れぬようなひよっこがイキるな』

 違う。もうあの頃の俺じゃない。そう思いたいのに現実のすべてが否定する。気づけばトロイ兵も全滅。部下も全滅。腹心だったデスノイアもここにはいない。

(違う! 俺は守られてたわけじゃねえ! 誰に守られなきゃ生きられねえわけじゃねえ!)

「さーて、そろそろ冷めてきたし、ここらで終わらせてやるか。そう言や『ホントなら使うまでもないんだろうが、てめえは特別だ。出し惜しみなしでぶっ殺してやる』だっけか? じゃあ、俺もそれをさせてもらうぜ」

 焦るアクーラJr.をよそに、オータムはその尾を天に向けて向けて一直線に伸ばす。途端、オータムの体を激しい稲光が包み始めた!

「大人げなくて上等! マジで行かせてもらうぜッ、オラァァァァっ!」

 その明らかな大技の予備動作を見て、焦りだしたのはアクーラJr.だけではない。遠方でその様子を観戦していたサマーとウィンターまでもが

「まあ! オータムってば、ワタクシたちがいながらあれをやる気ですの!?」

「迷惑な話ですが、今更止められますまい」

 と余裕に満ちた態度を崩す。

 こうなれば、何かが来るまえに奴を倒すしかない。アクーラJr.が最後の攻勢に出る。

「俺は、俺はまだ負けてねえぇッ!」

 だが、あと一歩というところで

「こいつで終わりだ! 『ファイナルサンダーストライク!』」

 オータムがその尾を大地に突き刺した! 途端、貯めこんだ超高電圧が大地を伝い、周辺にいた全存在に大ダメージを与える。受けなかったのは、直前に跳躍で空に逃げていたサマーと、そのサマーに肩車してもらっていたウィンターくらいのもの。

 この防ぎようもない攻撃に全身を焼かれたアクーラJr.は、ついにその場に倒れた。

「ぜーっ、ぜーっ……。久々に良い汗かいちまったぜ……」

 肩で息をしながら、オータムは尾を大地から抜く。その大げさな動作がすべて「芝居」だと知っているのは、スーツ着用者のバイタルサインを見られる春羽だけだ。

「…………負けて……ねえ…………っ」

 強烈な電撃を受けたアクーラJr.は、立ち上がることすらできない。そこに近づいたオータムは、彼の首をつかんで持ち上げる。

「負けたんだよ。おまえは」

「俺は……まだ、負けてねえ……っ!」

「おまえはずっと勝たせてもらってただけだよ。一度も勝ったことなんてねえ。そんな奴がこの土壇場で勝てるわけねえだろ」

「負けて……負けて、たまるか、よ……」

「良い機会だ。あの世でパパに、喧嘩の仕方でも教えてもらうんだな」

 空いている方の手で貫手の形を作るオータム。その手に稲光がまとわりつく。

(親父……っ! そうだって言ってくれよ……! 俺は、強くなったんだ……! もうあの頃とは違う……っ! 誰にも負けねえ一人前の男になったんだよ……っ!そうだって言ってくれよ……、親父……っ!)

 父はいない。部下もいない。生まれて初めて「ひとり」になったJr.は、初めて知った。自分が今まで疎ましく思っていた境遇の価値を。そこにいる人々がくれた温もりを。そして、それを失った今、もう自分には何も残っていないということを……。



 ──一発の銃声が響く。

 アクーラJr.の体が地に落ちる。

 死んだのか? いや、まだだ。まだ命はこの世に或る。

「……ってえなぁ」

 見れば、オータムが手を抑えながらうめき声をあげている。

 そして銃声がした方を見れば、そこに立っていたのは──

「そこまでだッ、悪徳財団!」

 ──正義に燃えるジャスティンガー1号、佐藤沢四季人!

「相手が例え悪であろうと、君に人を傷つける権利はないッ!」

 

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