週末総攻撃3 ~ 大幹部デスノイア vs 高野橋秋紗

 時は戻って、夏瀬が灯夏と会い、冬峰がヨガ教室を終えたのと同時刻。

 蓮舎庵エネルギープラント。ここには、秘匿のラストリアクターも含む、大型の発電機が多数設置されている。

 その一角にある応接室に、春羽は通されていた。それにこのプラントの所長が応対しているという構図。

「本日は無理を言って大変申し訳ありません」

「とんでもない。我々は市の心臓部として、常に脅威に備えねばなりませんからな」

 と所長は言うが、脅威に備えているようにはあまり見えない。

 無理もない話だ。ネオ-デストロイ団に関する公的なアナウンスは今のところ発表されていない。そのうえ、この蓮舎庵市は大銀河ヒーロー理事会のお膝元。いざとなればヒーローがすぐさま駆けつけてくれるという意識がどうしてもあるのである。

 だが、今回の措置はその「ヒーロー様」からのお達しだった。スペースタンカーの除幕式がある上に、ネオ-デストロイ団が潜伏しているという情報もある。当日ヒーローは除幕式の警備にあたるため、TOEグループの援助に頼ってどうにかしてくれ、とのこと。そこにTOEグループが「今回の全費用は我が社が負担いたします」と断言したのだから、大っぴらには邪険にできない。

ただ、いざとなったら駆けつけてくれるヒーローと異なり、防衛マシンの搬入には諸般の手続きが必要になるため、少し面倒だった。

「しかし、本当にこのような所を狙いますかな。規模だけで言えば最新鋭の第四エネルギープラントの方が格段に上でしょうに」

 所長はそう言ってみせる。恐らく彼は、このプラントが秘匿するラストリアクターの存在を春羽が知らないと思っているのだろう。妥当な判断だが、そこに「でもラストリアクターがあるんでしょう?」などと言って悪戯に騒ぎを大きくする春羽ではない。

「ですが、もちろん油断しているわけではありません。お貸ししていただいた『最新型』も含めて、すべての警備システムは万全の構えです。ご覧ください」

 所長がそう言うと、立体映像技術の賜物とも呼べるホロスクリーンが応接室に浮かぶ。そこには敷地内の監視カメラ映像が映しだされており、所長の言う警備システムが稼働しているのも見てとれる。

 今回TOEグループの総帥である佐藤沢円寿郎は、自律装甲セキュリティマシン『ガーディアンシリーズ』の最新ナンバー「RZ10455X」を4台、このプラントの警備部に無償で貸与している。またどんなに高性能のマシンでも利用者であるプラント職員側が扱いきれないと意味がないので、整備スタッフを数名派遣している。

 春羽としては、ここまで話を大きくするつもりはなかったので、そうと分かったときはその旨を祖父に電話で伝えたのだが

『なーに、わが社のコマーシャルじゃ!』

 というのが答えだった。たくましい限りである。

 ──そのとき、屋内全域にけたたましいサイレンが鳴った。

『正門前に武装した不審者の集団! 全職員は落ち着いて、部署ごとの緊急時マニュアルに沿った行動をとってください!』

 鳴り響くアナウンスに、所長は青い顔をする。

「何っ! まさか、本当に来たのか! た、大変だ!」

 もう目の前に春羽がいることすら忘れたのか、泡を食って部屋を出ていく。残された春羽はソファから立ち上がって、窓の外を見た。ちょうどそこから正門を見下ろすことができ、侵入者の集団も確認できる。

(アキちゃん、お願い! この事態を止めて……!)

 春羽は思わず、これから死地へ向かうであろう親友に祈りの念を向けていた。



 § § §



 正門を破って敷地に侵入した幹部級怪人デスノイアと彼が率いるトロイ兵がまず目にしたのは、詰所から逃げ出す警備員の姿であった。

 それを見たトロイ兵はすぐさま警備員を追いかけようとしたが、

「目移りするな! 我らが目的はラストリアクターの奪取ただひとつ! 脅威にもなり得ぬ軟弱者など放っておけ」

 ネオ-デストロイ団の黒鬼の異名で知られる豪傑デスノイアが一喝したことで、トロイ兵は足を止める。

 だがそのとき、警備員の行動が臆病さからきたものではないことを証明する事態が起きた。コンクリートの床がせり上がり、地下格納庫から防衛マシンが登場したのだ。人間の手に負えないような侵入者が現れたとき、警備員は防衛マシンの稼働スイッチを押してから迅速に避難するようマニュアルに定められているのである。

 まず現れたのは、四脚にエネルギーライフルを取り付けたような小型防衛マシンの一群。閉所での運用も想定されているだけに大きさは50センチメートルほどと小さく、パワーも控えめだが、その分価格は安く、数の多さで個々の能力の低さをごまかすことができる。しかし数の話をするならばトロイ兵も負けていない。

「者ども、かかれ!」

デスノイアの号令を受け、いっせいに応戦するトロイ兵たち。エネルギー兵器に耐性があるアーマーを着用した彼らには防衛マシンからの攻撃が通らず、防衛マシンはあっという間に駆逐されていく。

だがこれで終わるわけがない。次いでせりあがった格納庫からは、全長3mほどの起動人型装甲防衛マシン「アーマーダン12号」が2機、出動する。これは老舗の軍需企業「スチールラビット社」が15年も昔に手がけた傑作機で、パワーと運用コストのバランスの良さから、一時期は防衛マシンのベストセラーにまで上り詰めたものだ。また近年の防衛マシンは悪の組織の技術向上に対抗すべく「高パワー高コスト」化している傾向があり、運用コストの面から敢えてこの「骨董品」をチョイスする顧客もまだまだいるという。

だがそれは、言い換えれば「今となっては安さ以外に長所がない」ということ。そんな安上がりの老体に遅れをとるようなネオ-デストロイ団ではない!

「舐められたものだ。だが油断は大敵! 兵ども、一斉攻撃!」

 デスノイアが命令を下すと、トロイ兵たちは果敢に立ち向かった。そこにアーマーダン12号の苛烈な弾幕が襲いかかるが、トロイ兵のアーマーにはこれも通用しない。一斉攻撃を受けて、黒煙を吹き出しながらアーマーダン12号がダウンする。

(やはりこの星の危機管理意識などこの程度か)

 とデスノイアが敵ながら呆れてしまった、そのとき。さらに地下格納庫がせり上がり、新手の防衛装置が1台、姿を現す。いよいよ真骨頂、TOEグループが誇る最新防衛マシンRZ10455X! いずれも2メートルを超える2脚2腕の大型防衛マシンで、デスノイアにとっては未知の戦力である。

(なんだ、こいつは。事前の下調べでは、このような物は存在しなかったはず。……いや、それを考えるのは今ではないか)

 そこは歴戦の武人たるデスノイア。即座に考えを切り替え、目の前にある問題への対処に尽力する。

 トロイ兵はこの未知の戦力にも怯まず立ち向かうが、そこにRZ10455Xからのビームキャノンが炸裂! これには流石のトロイ兵たちもダメージを受け、吹っ飛ばされる。

「除け! おまえたちの敵う相手ではない」

 これを重く見たデスノイアは即座にトロイ兵を下がらせた。これからリアクター奪取を強行するにあたり、労働力をいたずらに失うわけにはいかない。漆黒の魔剣「ダークグリード」を抜き、黒いマントをなびかせながらRZ10455Xの真正面に立つ。

「少しはやるようだな。だが、こちらもネオ-デストロイ団の復興という偉大な使命を背負う身。それを妨げるなら容赦はせん。このデスノイアが一太刀で斬り捨ててくれようぞ!」

 悪ながら勇ましく名乗りをあげるデスノイアに、RZ10455Xのビームライフルが火を噴く! だがデスノイアはその光弾を一刀両断し、そのまま一瞬のうちに間合いを詰める。

「滅びよ! 『暗黒滅光斬』ッ!」

 漆黒の刃を振りかざし、RZ10455Xを袈裟斬りにする! 火花を噴き上げながら崩れ落ちるRZ10455X。

だが敵を倒したのとちょうど同時に、デスノイアの背後から肉体を抉るような激痛が襲った。痛みも束の間、体中から感覚が消え、熱が引いていく。立っていることすら困難で、デスノイアはその場に崩れ落ちた。

何が起きたというのか。体に残るわずかな力を振り絞り、デスノイアはうつぶせに倒れたままとは言え、首の動きだけでどうにか背方を見る。そこには、返り血まみれの黒いスポーツウェアに身を包んだ青年がいた。鼻から下をフェイスマスクに覆っていたが、その目つきは殺しに手慣れた者にしかできないほど鋭く冷徹なものだ。何より、彼の右手に握られていたのは、デスノイアの肉体から抉り抜いた──心臓だった。

男はその心臓を投げ捨て、足で踏みにじった。鮮血がコンクリートの地面を濡らす。

デスノイアは困惑する。

並みのビームライフルでは傷ひとつつかない黒鉄の鎧を一撃で引き裂いた攻撃力。気配を殺して彼の背後に急接近できるほどの機動力と隠密性。そして「戦士は他者へ攻撃する瞬間に最大の隙をさらす」というセオリーをしっかり踏襲する狡猾さ。これほどの腕を持つものは、ネオ-デストロイ団の構成員でも片手で数えられる程度だった。

侵入者の奇襲に慌てふためきながら武器を青年に向けるが、そんなツワモノに一介のトロイ兵が敵うはずもなく。ドッと強い風が吹いたかと思えば、一瞬のうちにトロイ兵の群衆がそろってその場に倒れた。その胸には鍼が深く突き刺さっている。

(まさか、こいつが『鎌鼬』の正体だというのか──?)

その圧倒的強さに、デスノイアはある事実を思い出す。

 ──『鎌鼬』。

 大銀河ヒーロー理事会に属するヒーローは常に正々堂々としているが、エージェントは姑息な手段を好んで使用する。潜入捜査や破壊工作などは常套手段だ。なので全盛期を誇っていた頃のネオ-デストロイ団は大銀河ヒーロー理事会にスパイを送りこみ、エージェントの情報を盗み出した。そしてその名簿をもとに、身内に潜む正義のエージェントをことごとく暴いて処刑したのだ。

 だが徹底的な炙りだしを行ったにもかかわらず、生き残った潜入捜査官がひとりいた。公式エージェントリストの誰にも該当しない正体不明のエージェントは、組織が壊滅するまで機密情報を盗み出し続けた。ネオ-デストロイ団の上層部は、特にエージェント狩りを任されていたデスノイアは、この見えざる脅威を『鎌鼬』と呼び血眼になって探し回った。

 だが『鎌鼬』は最後まで正体を明かさないまま、ネオ-デストロイ団に致命的ダメージを与えた。ヒーロー連合たちによるネオ-デストロイ団総攻撃の時。ヒーローの最終兵器である「ラストエクスカリバー」の一撃は、本来、ネオ-デストロイ団が持つシールド装置で凌げるはずだった。だからこそ多少、楽観視していた節がある。だが「ラストエクスカリバー」の一撃が放たれる直前、『鎌鼬』はシールド装置にエネルギーを供給する発電機のひとつを爆破した。シールドは本来の力をフルに発揮できず、それでラストエクスカリバーの攻撃を防ぎきることができなかったのである。もっとも、この事実を大銀河ヒーロー理事会は知らないようで、全てはラストエクスカリバーのおかげだと本気で考えているようだが。

 それはそうと、倒れ伏したデスノイアは戦慄した。この男が『鎌鼬』である保証はどこにもない。しかし、これほどの腕の持ち主なら『鎌鼬』の正体だとしても無理はない。

「貴様……。何……者だ……」

 身体改造を受けたその体は、心臓を失っても即死するわけではない。

 だが青年は答えることもなく、デスノイアの胸倉をつかみ、鎧も合わせれば200キログラム以上にもなるその巨体を持ち上げる。次の瞬間、青年はデスノイアの口内に手を突っこみ顎をつかむと、頭部から引きちぎった。下の歯と舌を失ったデスノイアが言葉にならない絶叫を上げる。

 青年の態度は驚くほど機械的だった。肉屋が豚を屠殺するかのように、怒ることも喜ぶこともなく、一切の情を露わにしないまま肉を引き裂いたのだ。青年は何も言わない。発声どころか息遣いすら聞こえない。どこまでも静かだった。

 そして青年はデスノイアの巨体を片腕で上空に投げはなった。もうどうする力も残されていなかったデスノイアは、一瞬宙に浮いた後、重力により地面へ引きずり降ろされ──そのうなじに鋭い貫手を受け、脊髄を粉砕された。

 神経系の根本を破壊されたデスノイアに、もう首から下を動かす術はない。死んではいないが、戦力的には死体同然だ。青年はその徹底的な破壊工作に満足したようで、最後にゴミを見るような目で一瞥するとデスノイアに背を向ける。

(バカな……! ここまでして、トドメは刺さないというのか!)

 デスノイアが絶望する中、男は足音もなくその場から厳かな足取りで離れてやってくる。それとすれ違うように、裏門の警護にあたっていたRZ10455Xやアーマーダン12号がこちらへ来る。物々しい重厚な機械音とは裏腹に、青年は最後まで静かだった……。



 血まみれになった撥水仕様の黒いスポーツウェアを脱ぎ、それをゴミ袋に詰めると、その者は建物の中を突き進む。非常事態のベルがけたたましく鳴り、職員らが慌てふためくなか、驚くほど静かな足取りで。

 やがて応接室の前にたどり着くと、その者はフェイスマスクと、人工皮膚で作られた特殊メイクを自らの顔から剥ぎとった。その途端、その青年の顔は男からやや中性的寄りの女性、高野橋秋紗のものへと変わる。

「ハル。終わったよ」

「アキちゃん!」

 応接室のドアを開けると、中で待っていた春羽が秋紗に駆け寄った。

「大丈夫? ケガはない?」

「私は大丈夫。脅威も完全に排除した。ただ、せっかくハルが作ってくれた義手、また血で汚した。それはゴメン」

「それはアキちゃんが謝ることじゃないよ。頼んだのは、私なんだから」

 という春羽。

 秋紗は、それを否定はしない。むしろ、その事実を自覚してくれていることが何より嬉しかった。 



 ──ただ、誰かに必要とされたかった。

 高野橋秋紗が生まれた家は、裕福ではあったが、家庭的ではなかった。死んだ祖父母はそれなりの名士だったようだが、父母はその遺産の上に胡坐をかいたボンボンで、世間体のためだけに婚姻関係を続けておきながら他所に『相手』を求めるような連中だった。ただ「飽きる前の産物」として生まれた秋紗の居場所なんてどこにもなかった。一番親しい相手は親族の誰でもなく、小学校の友達の春羽という有様だった。

 10歳の頃、両親は離婚した。他所に作った相手に本気になったのだ。秋紗はどちらにも引き取りを拒絶され、放りだされた。遠方に引っ越すことになり、春羽とも別れることになった。ここから、高野橋秋紗という人物は本格的に歪みだす。

 ただ誰かに必要とされたい。その欲求を満たすための手段として、秋紗は父母にしたような「暴力」にすがった。もうこの頃から、誇れるものは暴力しかなくなっていた。中学生の頃、初めて人を殺した。相手は同級生で、どっかの社長令嬢とかいういじめっ子。周りを相当困らせている我儘な奴だったので、殺せば誰かに求められると思ったのだ。

 もちろん秋紗は法の裁きを受けた。実刑判決。檻の中。先の長い懲役人生の中で、しかしある日、秋紗にひとつの転機が訪れる。『ヴィラン更生プログラム』に採用されたことだ。

 ヴィラン更生プログラムは、大銀河ヒーロー理事会が大々的に行っている活動のひとつである。「蛇の道は蛇」という発想に則り、収監中のヴィラン(悪人)に正義の活動を手伝わせるというものだ。結果を出せば刑期が短縮されるが、問題を起こせば殺害処分もありうるという飴と鞭の二面性を持つ政策である。それに採用された秋紗は、お得意の暴力と狂気を孕んだ屈強な根性により、なかなかの結果を出した。

 この活躍に目を留めたのがジャスティンガー総司令。秋紗は形式的には成績優秀により特例的な仮釈放処分となったが、実際はジャスティンガー・ゼロ号という名の私兵になった。悪の組織が開発した非合法な肉体改造も進んで受け入れ、電気ショックにより驚異的なスピードやパワーを発揮できるようにもなった。エージェントとしての訓練も本格的に施され、「ゼロ号」は完成された。

 最初の頃は良かった。この頃はまだ、秋紗は総司令を全面的に信頼しており、彼のために手を汚すことに一切の躊躇を抱かなかった。しかし過酷な任務と、自分を便利な手駒と見ているような総司令の態度に、秋紗の心は少しずつ疲弊していった。私が一方的に尽くしているだけなのではないかと思い始めた頃、秋紗は任務の中で両腕を失う大ケガを負った。その頃、総司令は大銀河ヒーロー理事会の本部から私兵運用疑惑をかけられ始めた頃であり、これ以上探りを入れられる前に秋紗をひとまず手放す決断をした。総司令からすればただそれだけのことだったが、これまで命がけで尽くし続けた秋紗にとっては許しがたい裏切りだった。

 だから秋紗は、総司令との雇用関係が消失したこれを機に、春羽の誘いに乗って悪徳財団を結成した。報酬などはどうでも良い。春羽は総司令よりずっと、気遣ってくれる。感謝もしてくれるし、申し訳ないとも思ってくれる。そういう精神的なケアがあるからこそ、秋紗は今、戦い続けることができている。



 § § §



 そのとき。春羽と秋紗のリストフォンに、同時に着信が入った。秋紗からすれば、こんな時に自分へ通話をかけてくる相手は分かりきっているが、春羽はどうだろう。

「ハル。誰から?」

「本部で留守番しているハルロイドからみたい。アキちゃんは?」

「総司令から。お互い重要な話だろうから、この後のことは通話の後に決めよう」

「そうね」

 として、ふたりはそれぞれの通話に出る。

 そのうち秋紗の方は、

「もしもし、高野橋です」

『ゼロ号。君ならもう察しているだろう。緊急事態だ』

「ええ。事情は把握しています」

 緊迫した総司令の声に対し、秋紗は静かな口調を返す。

『ゼロ号、現在の所在はどこだ? すぐに動けるか?』

「市内のエネルギープラントです。あんたは教えてくれませんでしたが、ここに隠されているラストリアクターのことが気がかりでしてね。今日一日、ここで警備のバイトをしていたところです」

『何だと? その話をどこから?』

「黙秘はあんたの専売特許ではない。それよりたった今、襲撃をかけてきたネオ-デストロイ団の残党、怪人デスノイアを無力化したところです」

『怪人デスノイアだと!? 奴を仕留めたのか!』

「ええ。と言ってもトドメは刺していない。あんたの息子の仇なんだ、処刑するなり拷問するなり好きにしたら良い」

 秋紗はそう告げた。

 総司令の息子は一流のエージェントであり、秋紗の師でもあった。共にネオ-デストロイ団の本拠地に潜入したのだが、デスノイアがヒーロー理事会からエージェントの情報を盗んだせいで彼は正体を暴かれ、処刑された。実際に処刑を実行したのは、奇しくも戦闘員に扮していた秋紗だった。救おうと思えば救えた師を、秋紗は任務遂行を優先して殺害した。それが師の教えだったからだ。

 だから怪人デスノイアは秋紗にとって師の仇とも言えるが、総司令にとっては秋紗こそ息子の仇とも言える。もっとも、後者の事実を総司令は知らないが。

『わかった。こちらが済んだら回収班を回そう。だがゼロ号、今からスペースポートに来ることはできないか? つい先ほどから、ネオ-デストロイ団のアクーラJr.による襲撃を受けている。念のためバックアップ要員になってほしい』

 と、総司令は言う。

 そのとき春羽が血相を変えて、秋紗にタブレット端末を見せた。そこには筆談で『ナツちゃんとフユちゃんのところにも怪人が出たみたい』という文字。何より仲間思いな春羽の心配そうな顔を見て、秋紗は総司令に言った。

「そちらには優秀なヒーローが腐るほどいるでしょう。しかし私がここにいなければ、このラストリアクターは無防備になります。防衛マシンなど気休めにもなりません。私は私の独断でここを防衛します」

 そう告げて秋紗は通信を切った。もう雇用関係はないのだから、命令に従う義務もない。

「総司令さん、なんだって? アキちゃんに、現場へ急行しろって?」

「一応ね。とは言っても、向こうにはヒーローがいるんだ。私は私たちがやるべきことに徹したい。どのみち、あいつに命令される筋合いはもうないんだから」

 秋紗は冷徹に言い捨てた。

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