Episode247 受験対策における家族の反応
新年が明けて
「そーちゃん!」
「りっちゃん」
超絶可愛い妹・鈴ちゃんのオプション付きで。
お家では私の学院生活のことを聞きたがる鈴ちゃんだが、それ以外で彼女の口から飛び出すのはやっぱり蒼ちゃん八割、その他二割であった。その二割に関してもほぼ白鴎家の長女のことだったが。
お出迎えがあって早速鈴ちゃんは蒼ちゃんの腕に巻きついて引っ付き、スンスンと鼻を鳴らした。
「そーちゃんの香り久しぶり! 落ち着く~」
「花蓮お姉ちゃん、麗花お姉ちゃん。お久しぶりです」
「お久しぶりですわ。また背が伸びたんじゃありません?」
「確かに前に会った時より大きくなったね!」
引っ付かれている蒼ちゃんは鈴ちゃんの言動に触れることなく、私と隣にいる麗花へとふわふわの笑顔で挨拶をしてくれる。
礼儀・マナーの鬼である麗花が鈴ちゃんにマナーのことで何も言わないのは、私とたっくんでとっくに慣れてしまっているからだ。百合宮家の令嬢はもうそういう生き物として認識されてしまっている。
元祖である私が
ちなみに鈴ちゃん曰く蒼ちゃんの香りとは、「甘いあまーいスイーツの香り!」だそうです。
「二人とも今日はどうするの? 私の部屋で一緒にお話しする?」
「えっとね、どうする?」
「瑠璃お姉さまのお部屋に行きます! 鈴、麗花お姉さまとももっとお話がしたいです!」
弟妹のやり取りをニコニコ笑って見ていた瑠璃ちゃんが二人に聞くと、蒼ちゃんが鈴ちゃんに意見を
来るまでに三人で楽しく車内でお喋りをしていたし、麗花と会うのは彼女も久しぶりなので、皆で一緒に過ごしたいのだろう。
ちなみに今回は田所さんの運転で、百合宮家から私と鈴ちゃんを拾って送迎してくれている。
当初はお正月休み中だしタクシーで行こうと話していたのだが、それを麗花が西松さんに報告中、偶然その場を通りかかった田所さんに――
『麗花お嬢さま! お嬢さまは私のお嬢さまを乗せて走るという、仕事兼趣味兼生きがいを取り上げるおつもりですか!!』
と猛反対を受けたそうで、ならばついでにと私たちも乗せて行ってくれることになったのだ。
それをタクシーでと決めて電話を終え、そう時間も経たずして掛かってきた電話を受けた私は。
『田所の剣幕が凄すぎて、辛うじて「た、田所の趣味は鉄道オタクでは……?」としか言えませんでしたわ……』
との衝撃も冷めやらぬ様子で、呆然とした彼女の声を黙って聴いていた。
西松さんの趣味兼生きがいに『麗花の髪型・縦ロール作成』が追加されたと同様に、田所さんも『麗花を車に乗せて運転』が趣味兼生きがいに追加されたようである。
田所さんの場合は、お菓子作りが趣味な深山さんがそれを仕事化したのと逆パターン。仕事が趣味化してしまった。
うんまあ趣味が高じてそれが仕事になったっていう人もいるにはいるし、良いんじゃないだろうか? 時折田所さんの様子をカーミラー越しに窺ったけど、とても幸せそうな今にも鼻歌を歌い出しそうな顔でハンドルを握っておりましたとも。
そんな薔之院家の平和な一幕を思い出しながら五人で瑠璃ちゃんのお部屋にお邪魔すると、姉組は出会った当時から変わらぬ所定地に座る。
そして弟妹組は意外にも鈴ちゃんが蒼ちゃんから離れて、私と麗花の間にちょこんと座った。
蒼ちゃんは私と瑠璃ちゃんの間に座り、鈴ちゃんが離れても私たちに挟まれて嬉しそうに笑っている。ヤバい、超絶可愛い。
「ふふ。こうして会うのは夏以来ね。二人とも元気だった?」
「うん! 瑠璃ちゃんも…………うん」
「健康が損なわれていないようで、何よりですわ」
私が濁した後を麗花が正しく継いでくれた。
変わってないねと言っていいのかどうなのか、悩んでしまってもおかしくはあるまい。
傍から見ても瑠璃ちゃんはやっぱりダイエット訓練の成果が外見に表れていない。無減量クエスチョンは正コーチ・臨時コーチをしても解決するには時間を要する難問のようだ。
お互いの近況を楽しく、時折鈴ちゃんと蒼ちゃんからの質問を挟みながら会話をしていれば、いつの間にか進路の話になっていた。
「もうすぐ三年生になるわね。花蓮ちゃんの修行期間もあともう一年ね」
「あ、そうだ。あのね瑠璃ちゃん。今年の夏期休暇なんだけど。私ちょっと、ダイエット訓練には参加できないことになっちゃって」
「そうなの?」
「お姉さまは違うお家で、新たに修行されることになったんです!」
「修行? え、何の?」
キョトンとする瑠璃ちゃんに事情を知る鈴ちゃんがそう答え、更にキョトン顔となった。
――緋凰がコーチを引き受けてくれることになってそのまた翌日、話は早い方が良いと受験先及びその対策を両親に伝えた。
お父様には一ヵ月も余所のお宅、しかも同学年男子の家ということでめっちゃ渋面を作られて反対の声を上げられたが、お母様は私の味方になってくれた。
お母様には何度もスイミングスクールの時のことを話していたし、お互いがどういう関係性か知ってくれている。それに緋凰家にも住み込みのお手伝いさんがいるし、完全な女子一人ではないのだ。
あとここで初めて知ったことだが、お母様は緋凰夫人とも仲良しだったようで。
『中学は香桜女学院と私達が決めたことだけど、高校は花蓮ちゃんが行きたいところでってお話したものね。紅霧学院は通うに申し分ない学校だし、花蓮ちゃんの体育の成績を考えたら、陽翔くんが同意して手助けしてくれるのなんて願ってもないことじゃない。貴方もスポーツ関係の陽翔くんの活躍ぶりは、よくご存じでしょう?』
『だ、だが咲子』
『あら貴方。私の初等部時代からの友人である、樹里ちゃんの息子さんよ? 何を心配する必要があるのかしら? それに反対するのであれば、そもそもスイミングスクールの時に口出ししているわよ。雅さまがご不在の時にも夕紀くんと陽翔くんに教えて貰っていたのだから、それの延長じゃない。……花蓮ちゃん。どうしても紅霧学院に行きたいのでしょう?』
『はい!』
『なら、頑張って取り組みなさいな。貴方、後で少しお話ししましょう』
そんな話をお母様の友人の存在を理由にして、お父様を説得してくれた。
その時は絶対に賛成を得る!と頭の中いっぱいだったから引っ掛かることはなかったけれど、後からそのことを思い出すと親同士……いや、母親同士が繋がり過ぎていると頬が引き攣ってしまった。
いやまあ確かに我が家クラスの家格となると同等家格はそうそういないけれど、でも薔之院夫人と春日井夫人は嫁入りしたって話だし、やっぱり世間というものは親世代から狭いものなんだなと感じたのだ。
一旦は自室に下がって沙汰を待っていた私のところへお母様が訪れてくれて、無事に緋凰家への夏合宿の許可は下り、その際に。
『太刀川くんも紅霧学院なの?』
突如として問われた質問内容に目を白黒とさせてお母様を凝視してしまったその反応を見て、ふふっと楽しそうに笑ってお母様は退室されて行った。
私の好きな人がどこの誰だと何故バレているのかと、その場で焦りと羞恥に悶えることになったのは言うまでもない。
許可が下りたので改めて緋凰によろしくお願いしますと連絡をし、一応お兄様にも受験先と夏休み事情を報告しておこうと思って部屋に訪れれば鈴ちゃんも中にいたので、二人に同時報告したら何故かお兄様はショックを受けたような顔となり、逆に何故か鈴ちゃんは嬉しそうな顔を見せた。
『紅霧……? え? 銀霜じゃなくて?』
『お姉さま、聖天学院にお通いになられるんですか? そうなったら鈴、とっても嬉しいです!』
『何で? 紅霧学院はスポーツに重きを置いているところだと知っているだろう? 花蓮。お前はちゃんと自分の運動能力を理解して、それを踏まえた上で言っているの?』
『だったらせっかくお姉さまと一緒に過ごせる夏休みでも、我慢します。ふふふ。聖天学院だったら香桜と違って、お姉さまに会いに行けます!』
『僕の見通しが甘かったか。まさか花蓮が運動音痴のくせに紅霧の方を選ぶなんて……』
片方からは辛辣、片方からは喜びのそんな両極端な言葉を受けた、私の心境たるや。
鈴ちゃんは場所は異なるが、同じ付属の学院だったら会いに行けると喜んでくれているのは嬉しい。
しかしお兄様の頭には端から他の高校に私が行くというお考えはなかったようで、何故か銀霜学院一択で受験するものと思われていたのをこちらに関しては頬を引き攣らせるしかなく。
一応お兄様には麗花も紅霧学院を受けるのだと話した上でまだ将来のことが決められない私が唯一やりたいこととして、傍にいて彼女を守りたいのだと説明すれば、お兄様は目を瞠った。
『……ハァ。分かった。まぁもう父さんも母さんも説得済みなら、僕が口出ししても仕方がない。受験には可能な限り僕も協力するよ。こうなると紅霧学院の方も手を付けておいて良かったな』
――元々いた学校から出て、そこへ舞い戻る。
それを内部生がどういう目で見るかは分からないが、中には小六の時に麗花を嵌めようとしたように、良からぬ感情を抱く人間が出てこないとも限らない。
私が聖天学院に在籍していないことで四家の御曹司と家格同列で並んでいる女子は、麗花だけとなっている。内部生女子にすれば、その存在は悪い意味で考えると目の上のたんこぶだろう。
お兄様は麗花を守るために、初等部の卒業式に薔之院家の人間の隣に座す形で参加した。そんな風に行動してくれたお兄様なので、私の受験動機を聞いてすぐに納得して引いてくれた。
『――まさか互いに同じ理由で、学校の受験を決めるなんてね』
鈴ちゃんと手を繋いで退室する時そうお兄様が呟いていたことは、ドアを閉めた音と重なって私の耳には届いてこなかった。
そしてそんな無事に許可が下りた夏合宿ではあるが、お母様に宥められてもお父様が隠れてプンプンするので緋凰家に泊まり込みで合宿するにあたり、一つ条件が付いてしまい。
それに関してどう双方に対応するか、現在私は絶賛お悩み中でもあったりする。
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