秋は夕暮れ
Episode221 香桜祭と各適性役職の発表
何だか今年の夏は生きた心地がしなかった百合宮 花蓮、十四歳です。
夏はまだまだ継続しているものの夏休み自体は終了し、香桜の生活寮へと舞い戻って参りました。
……とは言いつつも、『花組』は他の生徒より舞い戻る時期は早めだった。例の如く【香桜華会】の任務により、そのお勤めを果たさなければならなかったのが理由である。
夏休みの間にオープンキャンパスが一日開催されるが故に、学生帰省日の数日前には既に帰省しなければならなかったのだ。
家が近かったら行ったり来たりでも良かっただろうが、中には遠い場所から来ている生徒もいるので在校生の負担を減らすべく、夏休み明けの数日前に開催日が設定されている。
見学者用の持ち帰り設置型パンフレットは夏期休暇前には作成済みで、校内各所を見回って案内をしたり、入学後の不安や疑問に思うことに答えたりすることが当日の【香桜華会】の主な役目だった。
まあ部活動に所属している生徒も張り切って感じ良く見学者に接していたので、特に問題もなく今年のオープンキャンパスは終了。
対人挙動不審が心配される桃ちゃんに関しては主にダメなのは同級生のようで、比較的下級生に対してはそんなに問題はないらしい。
それに加え本人の気持ちも前向きに変化したため、自分から話し掛けるにはまだ少し怖気づいてしまうものの、向こうから話し掛けられた分にはちゃんと対応できたという。うん、桃ちゃん偉い!
それとなく私も麗花も桃ちゃんの様子を見に行ったが、本人の言うようにちゃんと対応しているのを見てホッとした。
あと私達とは別に事情を知らない筈のきくっちーも同室だからか、何かしら嗅ぎ取っているようで彼女もこっそりと見に来ているのを目撃したりもした。私達皆過保護だね~。
そうして二学期の始業式も終わり、学校生活も一学期のような落ち着いた空気に戻り始めて少し経った頃、【香桜華会】にはまたもや忙殺されるであろう行事が目の前に提示されてしまったのだった――……。
◇+◇+◇+◇+◇+◇+
「――と言うことで近々文化祭、通称香桜祭の準備を【香桜華会】でも始めなくてはなりません。『鳥組』の皆さんは去年経験しているから理解されているでしょうが、『花組』の皆さんも香桜生の名に恥じぬようしっかりと在校生の監督をし、他校生への配慮を徹底するように努めて下さい。毎年秋分の日に設定されているため、来年我が校を受験する小学生も保護者同伴で来校されることでしょう。オープンキャンパスでの評価を下げぬよう、各教員・各学年・各部活動にも協力を仰ぎ、運営するように。私も可能範囲内で皆さんを補助しますが、何よりも香桜祭の成功はここにいる皆さんの力量にかかっていると言っても過言ではありません。無事に成功を果たせるよう、イエス・キリストさまもお見守り下さっています。本日は『鳥組』から『花組』への役割等の説明を行い、『花組』はしっかりと覚えること、それを徹底して下さい。よろしいですか?」
「「「はい、シスター」」」
「では本日私は別に用事があるため、失礼させて頂きますよ。では、ごきげんよう」
「「「ごきげんよう、シスター」」」
同じタイミングで揃って挨拶を発し、礼を取るメンバーにロッテンシスターは満足そうに頷いて、静かに会室から退室して行った。
扉がパタムと閉じてから少しして、はぁ~~と息を吐き出す音が。
「もうヤダ! ロッテンめっちゃプレッシャーかけてくるじゃん! 頭に十円禿げできそう!!」
「千鶴! お前はシスターに向かって何てことを言うんだ! 口を慎め!!」
席に座って頭を抱える千鶴お姉様の発言を聞き逃せなかった椿お姉様から注意が飛んだ。それを雲雀お姉様は苦笑し、ポッポお姉様は口を尖らせている。
「鼓舞するために言っているのは判るけど~、プレッシャーの度合い半端なぁ~い。撫子ちゃん追い詰められちゃってるもの~」
その言葉を受けて桃ちゃんを見れば、彼女はこの世の終わりかと言うような顔をして青褪め、プルプルと震えていた。
「桃ちゃん!? 大丈夫!?」
「もっ、もももももも桃っ、失敗できない……!!」
「桃ちゃんが責任全部背負う訳じゃないからね!?」
背中を擦ってどーどーと宥めれば、多少は落ち着く。
「まぁ六十谷シスターも設営や運営で外部団体への協力手続きや連絡もしなければならないでしょうし、生徒間のことに関しては、同じ生徒である私達がしっかりと手綱を握らなければならないのは当然ですわね」
「当然って言っちゃえる麗花、責任耐性半端ない」
きくっちーが尊敬するような眼差しで麗花を見つめた。うん、麗花の責任感の強さはプライスレスです。
「椿お姉様。香桜祭の流れ自体は何となく分かりますが、運営に関して私達【香桜華会】はどのような仕事をするのでしょうか?」
麗花から質問が向けられ、椿お姉様が頷く。
「うむ。香桜祭が二日間開催なのは君たちも知っての通り。初日は来校者への展示パフォーマンスメインで、二日目は我々香桜生が主体的に楽しむという構成になっている。六十谷シスターはあのように仰られたが、香桜祭の運営に関して私達はメインではなく、補佐的な立場で関わることになる」
「補佐的な立場?」
桃ちゃんが疑問の呟きを零すが、私は何となく理解できる。
学院生の代表である私達【香桜華会】は普段、めちゃんこ忙しい。全ての学院行事をこの八人だけで回そうと思ったら、屍通り越して土に還る。
生徒総会の時にも中央委員会が発足されたが、文化祭もとい香桜祭はやはり『祭』という字でお察しの通り、楽しいお祭り行事なのだ。
オープンキャンパスでは生徒は言わずもがな、どちらかと言うと保護者向けのような面があるので教師陣が主体で動いていたのと、後は部活動の勧誘アピールが大きかったから、そこまで【香桜華会】に負担はなかった。
しかし香桜祭は生徒が主体となって行い、自分たちが楽しむのと外部への広報も兼ねているので、やはり仕事量が多く負担が掛かる。そのためこの行事には【香桜華会】ではない、別の主体で動く組織が発足されている。それが――――
「香桜祭実行委員会」
カツ、と椿お姉様が会室に設置されている黒板へと、その名称を記入される。
「全体的な組織名がこれ。そしてそこから各課に分類されると、総務課、広報課、器材管理課、装飾課、企画審査課の五つの課に細分化する。ちなみに【香桜華会】は総務課だ。後の人員として実行委員長、副委員長、書記、会計から成る。とまぁこのような委員組織編成とはなるが、この香桜祭は中・高合同。基本的にこの実行委員会のメンバーは私達中等部三学年から、高等部二学年までの中の選抜だ」
「だからまだ『花組』の学年は、比較的クラスや各部活動の催しに集中できるのよ」
雲雀お姉様から補足が入り、ここできくっちーが手を挙げる。
「総務課って、何だかアタシ達みたいな感じなんですね」
「そう、香桜祭版生徒会みたいなものだよね! 金額とかも結構大きく動くから、会計とかは後処理の時に帳簿が合わないと、ホント辛いんだよねー」
「経験者は語るか、千鶴」
「……えっへっへー」
笑って誤魔化す千鶴お姉様。【香桜華会】では会計の役割をされているため、その苦労が思い遣られる。
「麗花くんと花蓮くんは既に目を通していると思うが、度々申請書や借用書などの書類がこちらまで上がってきていたのは、覚えているか?」
「はい」
「覚えています」
「うむ。二人の適性役職を会計と書記と見たからそのようにした。故にこの時ばかりは『妹』もそれぞれの適性役職の『姉』に付き、香桜祭総務補佐として動いていくことになる」
えっ、と声が上がった。
「あの。ということですと、私は椿お姉様とではなくて、千鶴お姉様とになるのですか?」
「そう言うことだ」
麗花の言葉に頷くお姉様に、私も対象となる人物を見る。
私の視線に気づいたポッポお姉様がにっこり笑って、頬杖を付いていた片手をひらぁ~と振ってきた。
金額が記載されている書類は主に麗花の方へ、委員会で行われた会議の議事録や椿お姉様を経て回ってきた申請書類などは主に私へと渡されたために、どっちがどの適性役職と見なされたのかは判断できた。
「え、あれ? とすると、きくっちーと桃ちゃんは?」
「撫子さんは私とで、葵さんは椿とね」
「「えっ」」
簡単に纏めると、
会長:雉子沼 椿(次期:菊池 葵)
副会長:藤波 雲雀(次期:桃瀬 撫子)
会計:黒梅 千鶴(次期:薔之院 麗花)
書記:鳩羽 杏梨(次期:百合宮 花蓮)
となる。
「ア、アタシが次期会長ですか!? いや、ちょ、麗花の方が合ってるんじゃ!」
「もっ、もももも桃も! い、いきなり副会長って言われても!?」
プチパニックを起こす二人に、ポッポお姉様が朗らかに説明を口にした。
「そうねぇ~。
「麗花さんはいつもどんな仕事を任せてもキチッとこなすし、帳尻を合わせないといけない会計も安心して任せられると思ったの。花蓮さんは速筆なのに字も綺麗だし、資料や書類整理もいつも綺麗に纏めてくれているから、書記に相応しいわ」
私に関しての資料・書類整理は恐らく、リーフさんとの文通&ファンレターによる整理収納経験値スキルからきているものと思われる。何と、あれがこんなところで活かされていたとは!
理由も明確となり、自身に評された次期役職を受け入れることになった『花組』。
その後も香桜祭に関する各自の役割説明の続きを聞き、そうして中・高合同の香桜祭への本格的な準備に動き始めるのだった。
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