Episode183.5 side 薔之院 麗花⑬ 海棠鳳-そして少女は約束を交わす 中編-
その翌日である日曜日、花蓮と共に百合宮家へと向かった私は、奏多さまと二人でお話をさせて頂いた。
今後の学院生活のこと、そして私の考えといま抱えている気持ちを。
ファヴォリの所属を返上して、風紀委員となり学院の秩序と改革を行われている奏多さま。彼は学院に通っている一生徒として初等部・高等部関係なく、私の話を真剣に聞いて下さった。
そしてどういう思いで私がそうと決めたのかをお伝えした時、彼は。
「そう……。麗花ちゃん、それに関しては僕がどうこう言う権利はないと思っている。君は簡単に物事を決めるような子じゃない。迷って、時間を掛けて考えてそう結論を出したのなら、僕は君の行く道を応援するよ。僕が学院でそう行動しているからと言って、麗花ちゃんまで僕に
最後に親しい人にのみに向けられる、妹とよく似た柔らかな微笑みを浮かべて、そう言って下さった。
高位家格の令嬢として。ファヴォリとして。
それもまた“私”だけれど。けど、それは決して逃げではないのだと伝わった。
その後は花蓮と歌鈴に見送られて百合宮家を後にし、自宅に帰宅して数時間後テレビモニターを繋いで、画面に映った両親に私の意思をお伝えした。
話し始めた時はその内容に大いに戸惑われていたけれど、最終的には私の意思を尊重してくれた。
条件付きではあったが両親の理解も得たので、早い方が良いと家の者にも伝えたけれど……西松があれほどショックを受けるだなんて。足元がフラついていたけれど、大丈夫かしら? 明日は休ませませんとね。
そうして今後の私の予定は定まったけれど、それまでの間。もし私が……いえ、恐らく可能性としてはそうなる方が高い。来なければ来ないで良いけれど、きっと新田さんは私に謝罪をしに来る。
今後のことを思って、彼女のことは拒絶しようと決めた。私に関わるとまた利用される。
仕方がないことだと。暫くの間だけだと納得させたけれど、胸がチクリとする。
新田さんを拒絶する私を、忍はどう思うかしら――……?
◇+◇+◇+◇+◇+◇+
「――はい?」
その人から
全ての対応を決めたその翌日、珍しくも白鴎さまが私の元へ来られて話し掛けて来たのも何事と思ったけれど、今とんでもないことを言われた気がする。
彼も微妙そうな表情で、そのとんでもないことを再び口にした。
「君の親衛隊。混乱を避けるために、
「仰ることの何もかもが理解できませんわ!?」
何ですの赤薔薇親衛隊って!? しかも何か知らない間に色々水面下で動いていたようですわ!? 思わず白鴎さま相手に突っ込んでしまったじゃありませんの!!
「一応心当たりを話すと親交行事当日、君が出て行った後にアイツは尼海堂と何かを話していた。晃星がそうした件は恐らく、尼海堂が噛んでいる」
「何ですって!?」
「彼はよく周囲を見ているし、行動力もある。あとアイツ言っていたぞ、『忍くんに頼まれちゃってぇ~』とな」
「また忍はコソコソコソコソと!!」
いっっっっっつもですわ!! しかも今回に限っては、私に直接関係することですのに!
どうしていつも、いつも……!!
『そうして気が緩んで楽しく学校生活を送れるのは、麗花のことを守ってくれる子がいるから。さっき自分でも言っていたけど、逆に守りたい子だって、貴女にはもういるんだよ』
「私ばかりが守られるなんて、そんなの……っ」
知っている。彼がよく周囲を見ていることなんて。
関心はないけれど、観察はしている。すぐに逃げようとすることから考えて、それはきっと面倒事に巻き込まれないようにするためのもの。
私が彼のお友達だから気にしてくれている。一緒にいてくれる。守ろうとしてくれる。
……他に、気になる人がいるのに――……。
「薔之院」
白鴎さまの涼しげな瞳が、私を見つめてくる。
「君のことが大切だからそういう行動を取る。大切だからこそ、君に憂いを感じさせるものを遮断しようとした。それだけは忘れないでほしい」
「……納得できるかできないかは、別問題ですわ」
「まあな。君は相手に堂々と立ち向かうタイプの人間だから、裏でコソコソとされるのは気に食わないだろうな」
苦笑を零す反応に、ふと疑問に思うことがあった。
「白鴎さま。どうして貴方、わざわざ私に教えて下さいましたの? 貴方はどちらかと言うと、深く関わらずに静観されるタイプの方でしょう?」
自分が直接関わっていること以外に動こうとしないのは、彼の立場上理解できる。
白鴎家の時期跡取り。
緋凰さまと春日井さまにも同じことが言える。
他者へと与える影響力が強いからこそ、自らが動くことは避ける。去年の例の件はあの子が関わっていた。だから行動したのだと解る。
けれど今回は彼の従兄弟が多少関わっていたとは言え、彼が動く動機としては薄いと思うけれど。
聞けば、彼は薄く笑って。
「尼海堂には借りがあるからな。それをいま返しているだけだ」
「……そう、ですの」
コソコソと隠れて行動したものが、こうして誰かとの繋がりを作る。私のことを動機として忍が行動した結果は、こうして色々な繋がりを彼自身が作り上げていることに、本人は気づいているのかどうなのか。
お互い、学院で一人ではなくなっている。
私も、忍も。
良いことの筈なのにどうしてか、また胸がチクリとした。
歌鈴が問題現場に忍と一緒に来たと言ったことで、彼もあの場に居たことは知っている。
昼休憩に新田さんが予想通り私に言いに来たのを、あの時のように振り払ってわざと突き放した。美術室から出て行った彼女の様子を見て、あの様子ではもう私には関わってこないだろうと安堵した。胸を刺すような痛みには蓋をする。
……本当は、新田さんより先に忍が会いに来ると思っていた。コソコソと動いていたと言うのなら、何かしら私に言いに来ると思っていたのに、彼は昼休憩が終わろうとする時間になっても来なかった。
どうして来てくれないのか。一番のお友達である私を放って、一体何をしているのか。何度自問しても、結局同じ答えが返ってくる。
――忍の優先順位は、もう私が一番ではないから
大切な存在ができる。優先順位が生まれる。だから私もその選択をすることを決めた。知れたこと。
だって私と忍の始まりは、私から彼に向かって行ったものだった。けれど彼女の場合は。忍から、彼女に向かっているものだったから……。
「新田さんのこと」
そう言われた時、やっぱりと思った。
彼は私ではなく、彼女の傍にいた。けれど彼からの私に対する反応が、想像していたものと違った。
新田さんを傷つけたと知って多少なりとも負の感情を向けられると思っていたのに、そんなものは微塵も表れていなくて。
――泣いてしまいそうなくらいに、ホッとした。
好きな人を傷つけられたのなら、いくら友達と言っても悪感情を抱くだろうと思っていたから。
嬉しくて、泣かないように目を細めてつい抱えていた
忍が新田さんのことをどう思っているのかは見ていて判ったけれど、ちゃんと聞いておきたくて聞けば、私が抱く印象と同じことを返されて。
――本当にどういう感情なのか、それが堪らなく嬉しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます