番外編① 100話到達記念SS ~女子会語り~

「はい、出席確認取ります! 私、麗花、瑠璃ちゃん! 皆いる?」

「そんなことしなくても、見ただけで分かりますでしょうに」

「急に呼ばれたけど、今日はどうしたの?」


 瑠璃ちゃんからの質問に私もふぅと息を吐き、持ってきていた手紙をテーブルの上に提示した。


「何かね、朝起きたら私の机の上にこれがあって。読んだら私達の成長録が百話いったから、何か話せって書いてあって」

「どうしてそんな怪しい手紙の言う通りにしましたの!? そんなものが自室にあった時点で、警察に通報すべきでしょう!」

「えー。だって気になったし、要求も話をしろってだけだったから」


 そんなに怒ること?


 麗花に注意される私をよそに、瑠璃ちゃんは手紙に触ってしげしげと目を通し始める。


「……確かに、内容はそれだけね。でもどうして私達なのかしら? 花蓮ちゃんと麗花ちゃんはメインだから分かるけど、私なんて本来ゲームの設定にもないただのモブキャラでしょう?」

「え。待って瑠璃ちゃん。それ私達、普通に言っちゃう感じ?」

「私、本編ではそれ知らない設定ですわよ?」

「考えたんだけど、百話記念ってつまり、番外編ってことでしょ? 作者は番外編って、本編に差し障りない内容で書くみたいだし、別にいいんじゃないかなって」

「瑠璃ちゃん!?」

「瑠璃子!? 貴女ぶっちゃけ過ぎじゃありませんこと!? 本編でのイメージが崩れますわよ!?」


 持っていた手紙を元に位置に置いた瑠璃ちゃんは手紙以外何もなかった筈のテーブルの上に、いつ出現したのか、お皿に盛られたクッキーを一枚まんでサクサクと食べ始めた。


「瑠璃ちゃん!? 何クッキー食べてるの!?」

「貴女『Episodo69 瑠璃ちゃんのお悩み相談』でダイエット訓練を開始したじゃありませんの!!」

「二人とも、ここは番外編よ? ここで食べたクッキーの摂取カロリーは、本編の私に加算されないわ」

「どういうことですの!?」


 そう言う間にも、既に四枚も平らげてしまった。


 ヤバい。本編で食べられないストレスがあそこでは現実だから抑えられても、番外編の架空空間という思い込みによって抑えられないんだ! このままでは夜中に隠れて食べるアレになってしまう!!


「ダメ瑠璃ちゃん! クッキー没収!!」

「そんなっ、私まだ六枚しか食べてないわ!」

「何で二枚増えてるの!?」

「花蓮が地の文で説明している間に食べていましたわ」

「止めてよ麗花!」

「無理に止めて、本編に何らかの影響が出たらと怖くなりましたの……」

「そうだねごめん!」


 麗花の気持ちはすごく分かる。私も瑠璃ちゃんがいきなりこんなことをし出して、ちょっと怖い。


 しかし本当に本編に反映されないのかは、私達では確信が持てない。一つだけ言えるのは、作者のさじ加減だということ。


 しかし百話記念の特別SSの参加者名簿に載っていたと言うことは、このメンバーは作者のお気に入りである可能性が高い。


 だって番外編第1号は、特別中の特別なのだから……!


 ここでの瑠璃ちゃんの振舞いが作者の勘気に触れてはならないため、私は心を鬼にしてクッキーの盛り皿を「あっ! 待って花蓮ちゃん!」待ちません!


 クッキーの盛り皿を両手で持って、遠くへと持って行った。





◇+◇+◇+◇+◇+◇+





 戻って来た時、瑠璃ちゃんはテーブルに突っ伏してメソメソ泣いておりました。


「ひどいわ……花蓮ちゃん。まだフロランタン食べてなかったのに……」

「ごめんね。でも瑠璃ちゃんのためだから」

「そうですわ。本編でダイエットに成功して海に行った後、皆でまたお菓子を頂きましょう?」


 麗花の発言を聞いてパッと顔を上げ、嬉しそうに笑って頷く。ついでに私の眉間に皺が寄る。


「分かったわ麗花ちゃん。そうする!」

「待って麗花。それリバウn」

「シッですわ!」


 手でハグッと口を押さえられて、最後まで言わせてもらえなかった。


 ……何か、本編だとこれ私と麗花逆じゃない?

 ここ人物設定歪む空間なの?


「えー、コホン。気を取り直しまして。本題の本編百話、ということですが。……私達、いつまで小学生ですの? それもまだ一年生で、時期としては夏休みでしょう? 長過ぎじゃありません?」

「いっぱい書きたいことあったんだよ。多分」

「大丈夫なのかしら? 百話で『Episodo73』よ? 一話は『Prologue』として、本編に絡んだ別人視点のお話で二十五話も書いているわ。それも三人だけでなのよ?」


 と、麗花が何やら胸の辺りを押さえ始めた。


「わ、私、九話も本編の幅を取ってしまいましたわ……!」

「あっ。麗花ちゃんごめんなさい! そうよね。麗花ちゃん、三人の内の一人だものね」

「うっ!!」

「瑠璃ちゃん! 瑠璃ちゃんは癒し体質の筈でしょ、何でダメージ与えてるの!? 大丈夫だよ麗花! 麗花が悪いんじゃなくて、短く話数も文字数も纏められない作者が悪いんだよ! だから百話いっても小学一年生の夏休みなんだよ!!」

「花蓮ちゃん。そんなに作者の悪口を言っちゃダメだと思うわ……」


 だって本当のことです!


 いつの間にかテーブルに出現したお茶を麗花に飲ませて落ち着かせ、いつまで続けるのかまだ終わる気配を見せないため、会話を続行するしかない。


「……ねぇ。ここ、次の話をしても許される感じかな?」

「次? 百一話……あ、これが百一話になっちゃうから、百二話の『Episodo74』のこと?」

「よろしいんじゃありませんかしら。何かあっても作者がどうにかしますでしょう」


 何だか麗花、番外編ではその強い責任感も低下する模様。全責任を作者に丸投げした。


「ほら、アイツが私にピ――とかピ――って言って、ピ――して」

「重要なところ全部自主規制されてましてよ」

「許されなかったのね。作者、エタりとネタバレは絶対NGらしいから」

「ええーっ!? すごく大変だったから聞いてほしかったのに! あーあ。本当に私達、いつ高校生になれるんだろうね?」


 聞くと、二人とも微妙な顔をして私を見た。


 ん? 何かね私がどうかしたかね?


「……このお話の主人公って花蓮ちゃんだから、花蓮ちゃんの成長次第じゃないかしら?」

「ですわね。花蓮を軸にして物語が展開するのですから、貴女次第でしょう」

「何それ急に私の責任になった」


 いきなりプレッシャーを掛けられてしまい、アワアワする私に更に追撃が来る。


「それに物語のジャンル、恋愛ですし。花蓮が恋愛しないとこの物語終わりませんわよ?」

「そうよね。今のところ、誰か恋のお相手になりそうな人いないの?」

「何で急にそんな話になった!? ていうか本編で恋してるの、麗花だけじゃん!」

「っ!? だ、だから私は好きとかそういうのではっ」

「……あら?」


 私の反撃直後、瑠璃ちゃんが不思議そうな声を上げたのでそちらを見れば、何やら私が持ってきたものとは別の手紙がその手に。


「えーと。『大丈夫。皆ちゃんと恋愛させます』って」

「「え」」

「決意表明、みたいなもの?」

「するんだ恋愛。しないと思ってた」

「ジャンル詐欺になりかねないという焦りが見えますわ」


 麗花の呟きにコクリと頷く。


 瑠璃ちゃんは女学院だし、麗花もやっとお友達とお友達(仮)ができたばっかりだし、私も私で今のところ学校のお友達友好だもの。

 ……うん、最近何かちょっと情緒不安定になった気もするけど、あれはカルシウム足りてなかったからだと思うし。


 プルプルと首を振って、改めて。


「麗花、瑠璃ちゃん。私達の物語も百話越えて、乙女ゲー舞台の高校生になるまでどれくらい掛かるのか分からないけれど。私達女子の力を合わせて、一緒に頑張ろうね!」


 拳を握って言えば、目を丸くしていた二人は同時に笑った。


「もちろんですわ! 花蓮一人では心配ですもの」

「一緒にハッピーエンドを迎えたいわ!」

「うん!!」



 二人が一緒なら、絶対絶対大丈夫。

 百話でも二百話でも、ドンと来い!!







 ――誰もいなくなった空間で、ひらりと紙が舞う。

 落ちたそれは奇跡的にも記された面が表に落ち、その内容を晒した。



『二百話 なんて そんな まさか 有り得――』



 何者かによって続きが消され、再び風に舞って何処へと飛んでいくそれは、もう誰の目にも触れることはなかった。

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