Episode167 班別自由行動
「何故です! UNOは顔に出ても関係ないカードゲームの筈です! 何で全敗したんですか!?」
「運だったとしか言いようがないよね」
「拓也くん!!」
駅からバスに乗り換えて宿泊するホテルへと走行中、カードゲームの勝敗結果に納得できずにたっくんへと訴えかければ、そんな身も蓋もない理由で返されてしまった。
あまりにも負けるものだから後ろの裏エースくんも見かねてアドバイスをくれたりしていたのに、それでも負けてしまう私の運のなさとは。おかしい。私の今年は中吉の筈。
新幹線のアナウンスで降りる駅の名前が告げられたタイミングで裏エースくんは帰ってゆき、少しして土門少年も戻ってきた。戻ってきた時の表情は楽しそうなもので、塩野狩くんととても有意義な時間を過ごしたらしい。
後ろを振り向いて、窓と背もたれの隙間から彼を覗き見る。
「土門くん。あちらでご迷惑はお掛けしてきてないでしょうね?」
窓から見える景色を眺めていた彼が前を向き、視線が合う。
「おや? せっかくこの僕が気を利かしたというのに、有効活用できなかったのかい?」
「何の有効活用ですか」
「周囲も普段のランデブーで、多少は耐性もついているだろうからね。僕としては班の様子を見てもらって、突然現れないように安心してもらう意図があったのだよ」
「突然現れて消える土門くんが言うととても説得力がありますね。あとUNOをしていたので、話という話はしませんでしたけど」
それを聞いて彼は肩を竦めた。
「そうかい。まぁ僕も塩野狩くんの班がどうなのか気になって見に行ったのだが、大丈夫そうで安心したよ。元より太刀川 新がいる班であればと、そう不安はなかったが」
明らかに私じゃなくて、そっち本命だな。
まったくこのナルシーは。
そんな会話をしている間にも本日の宿泊先であるホテルへと到着し、フロントで鍵を受け取りエレベーターを利用して部屋へと荷物を置く。
部屋分けは男女で階も違い、同じ班員で一部屋に宿泊。人が一人は通れるくらいのスペースで川の字に並んでいるベッドは、私が真ん中を使わせてもらうことになった。
昼食はバイキングでなく、事前にホテル側で用意されたものを頂いた。うん、和洋折衷でバランスもよくて美味しかったです。
そうして昼食を終えた私達は午後からの自由班行動のため、必要最低限の荷物を持ってホテルから各班ごとに出発した。
今回の修学旅行班に関しては、たっくんが班長を務め、私が副班長を務める。
なぜそうなったのかと言うと――
『やれやれ。ただでさえ目立つ僕が班長を務めてしまうと、更に注目を浴びてしまうだろう? 修学旅行中までこの僕のイケてるメンズぶりを騒がれてしまうのは、僕としても本意ではないのでね!』
――などと、誰も何も言っていないのに勝手に言い始めて班長を拒否し、豊島くんはお寺の解説があるからと、ある意味頼りない男子の挽回を図ったたっくんが請け負うことになったのだ。私に関しては女子二人に推された。
たっくんが
「ちゃんと全員いるね」
「もちろんだとも!」
いるかどうか一番心配な人物が当然の如く返事をした。
「拓也くん。副班長として提案しますが、土門くんには身体のどこかに紐を
「野蛮人だね百合宮嬢! 君こそ隠れスポットを探して、迷子にならないようにしたまえ!」
「本当に貴方、どの時点で姿消したんですか!?」
それ言うってことは、確実にたっくんと話している時まではいたってことだよね!?
しかし土門少年は心外だというように首を振った。
「百合宮嬢の言っていることは理解し難いね。姿を消すなど! UNOに君達が誘われていた時に、普通に豊島くんを避けて出て行ったではないか」
おい、豊島くんを見ろ。えって顔をしているぞ。
たっくんがハァと溜息を溢した。
「二人とも花蓮ちゃんの言ったことは無視していいからね。土門くんを紐で引っ張らないし、花蓮ちゃんは隠れスポット探しの単独行動も禁止。豊島くん、矢田寺への行き方はこれで合っているか、確認してもらってもいい?」
事前に調べていた道順ルートを豊島くんに確認しているが、何故私だけ禁止令をまた科せられるのか。私は各所方面からそんなに問題児のレッテルを貼られているのだろうか? 解せぬ。
ちなみにこの班別自由行動、班長に学校からGPS機能搭載の携帯を支給されていて、先生方が事前に班ごとに提出している道を外れていないかをパソコンで確認する仕様。
もし外れているようならその時点で携帯に連絡が入り、どうすればいいのかを先生から教えられることになっている。最悪の場合は現地待機で、先生がタクシーで迎えに来る手筈だ。
修学旅行に来ているのは担任ばかりではなく、他の先生も数人付いてきているのでパソコンの前が不在になることはないらしい。
自分たちで考え協力し合って、予定通りの行動を取れるか。清泉は生徒の自立を促す方針を結構な割合で取っている学校なので、生徒も臨機応変な考え方が身につく。
たっくんと豊島くんの確認も終わり、京都を走るバスに乗って最初の行き先である矢田寺へ向かう。時間制限もあるし遠くには行けないこともあって、本当は貴船神社やら鞍馬寺に行きたかった豊島くんのチョイスでは、他の生徒とはあまり被らなさそうなところを先に巡ってから有名どころへと行くことに決まったのだ。
そんな方針で決まった矢田地蔵で知られる矢田寺のご本尊である地蔵菩薩は
大体二十分ほどバスに揺られて降車し、商店街の街並みを皆で歩く。お寺や神社と言うと木々がそびえ立つ中にあるのを想像してしまうが、街中にちょこんとあったりもするようである。
「あ。あそこかな?」
皆で道を確かめながら歩いていたら、小野田さんがお寺を発見したようで声を上げた。しおりから顔を上げて走って行く彼女の後を追ってその建物を見上げると、確かに提灯に『矢田地蔵尊』とある。
「そう、ここ。全集にも載ってる!」
現地で現物を見た興奮からか、豊島くんが喜色を乗せて断言した。
「普通にお店みたいだよね」
「周囲の景色がそうですからね。溶け込んでいて、目的地として来ないと見逃してしまったかもしれません」
「では早速参ろうではないか!」
土門少年の一声にて、境内へと足を踏み入れる私達。入って見回すと、至るところに赤い提灯が飾られている。
「これだけあると壮観ですね」
「うん。先にお地蔵様にご挨拶しよう」
参ることをご挨拶と言うたっくん、可愛い。
まぁお寺や神社にはその神様にご挨拶をしに参るのだから、間違いではない。
奥まで進んで大きな鐘の下にある奉納箱にお気持ち分を入れ、正面の奥に鎮座されている代受苦地蔵様へと手を合わせる。
思うけれど、この時間に限っては心が落ち着き、神様に語り掛けられているような気がするのは気のせいだろうか。
そうして皆でお地蔵様へのご挨拶を終えた後、ここで豊島くんからの熱弁タイムが差し込まれる。
「明日行く奈良にも矢田寺があって、ここはその別院なんだ。でもこのお寺は×××年に日本で初めてつくられたとされている地蔵菩薩のお寺で、人の苦しみを代わって下さると言われているんだ。ご本尊の手前にある炎の表現も~~~~」
次々に奮われる熱弁を私達は静かに聞き、最後に皆でへぇと感想を言って、佐久間さんが楽しみにしていたお守りを見ることに。そのお守りとは手作り感たっぷりな、可愛らしいお地蔵様のぬいぐるみ。
微笑んでいる顔が大半ではあるがジッと見つめていると、どれにもに個性を感じられて何だか茶目っ気満載である。
「可愛い~♪」
「確かお札が中に入っているんだよね? どうしよっかな。買おうかな?」
「向こうにも同じものが掛けられていますよね? あれには何やら文字が書かれているようですが」
私の言葉にたっくんが反応する。
「あれは買った人が書いた文字みたいだよ。さっき見たけど、後ろにお願い事が書いてあったから。絵馬のようなものじゃないかな」
「絵馬と言いますと、あちらにも豊島くんのお話に出てきた、鉄釜の僧侶のものがありますよね」
「うん。あれに悩んでいることを書いて、それを僧侶に助けてもらうってことかなぁ?」
色々考察が出てきそうだが悩み事を書くという点において、ブラック企業退散と一家路頭断固拒否が頭を過ぎった私である。
「苦しみを代わりに受けるというが、一説では特に苦しい恋を救ってくれるとも言われているそうだよ! 愛の願かけ地蔵とも呼ばれていて、良縁成就や安産祈願にもご利益があるらしい!」
「土門くん」
「貴方も意外にオールマイティな物知りさんですよね」
「まぁね! 学ぶ以上は、やはり人よりも一歩先を行きたいと思うものじゃないかい?」
なるほど、彼の情報通の一端が垣間見える考え方だ。将来は記者とか報道関係の職場で働いていそうな気がする。
そして意味ありげな視線を彼から向けられた。
「百合宮嬢はお守り買わないのかい? 良縁成就」
「どこら辺で師匠出してくるんですか。少し離れるだけで苦しいこ、恋じゃありませんし! 中学はお受験先の関係でアレですけど、でも卒業したら戻ってくると思いますし」
一緒にいたいから、同じ高校は難しいとしても家から通える学校を探すと決めている。
銀霜学院にだって行かないから、乙女ゲーの通りにはならないだろうし。
女子二人は購入を決めたのだろう、それぞれ手に持ってお会計へと向かっている。そしてたっくんは次の行動のために、再度豊島くんと打ち合わせをしに離れていた。
「……何故だか予感がするよ。君たちのランデブーには受難の相が出ていそうだ」
「何の根拠もなく碌でもないこと言い出すのやめて下さい」
「根拠ね。…………」
待って。呟いてその後無言になるの、めっちゃ怖いんですが。え、何か知ってるの!?
「土門くん!?」
「……あの修行一貫の日和見朴念仁が何故かは知らないが、わざわざ動いていたからね。それに君たち二人ともが上流階級の出だ。何かまた起こる方が自然だろう」
「とても嫌な自然です! そんなものは杞憂ですよきっと!」
「やれやれ。何故だか遠い未来でまた君たちの何かに巻き込まれるような、そんな気がしてならないよ。
「気がするだけで、縁切りで有名な神社に神頼みするほど嫌なんですか!?」
なまじオールマイティに手助けされている(筆頭:体育)から、失礼発言にも強く否定できないというジレンマ!
結局お地蔵さんのお守りに関しては私も購入することにした。だって何でも知ってそうな土門少年からあんな怖い予言を聞かされて、装備ゼロのままではいられなかったのだ。
……苦しい恋と言うけれど、気持ちが通じ合っているのにそんなことが起こるのだろうか? 確かに私は面と向かって「好き」と言えていないけれど、でもお互いのことを好きなのはちゃんと解っている。
それにそもそも聖天学院に通ったり催会に出席しない限り、要注意人物である白鴎と秋苑寺とは出会う訳がないし。婚約関係を結んでいた白鴎だって、ゲームでは“百合宮 花蓮”が彼のことを好きだっただけで、彼は彼女をずっと疎、まし……く――……?
「花蓮ちゃん?」
「……えっ。はい!?」
振り向いたら、たっくんがキョトリとして私を見ている。
「お守り買えた?」
「あ、はい。買えました」
「じゃあ次の場所に移動しよう。時間限られているし」
既にお寺の外で話しながら待機している班員たちの元へと一緒に合流し、再び商店街を歩きながらバス停へと向かっていく。
皆でワイワイと次の神社への話に相槌を打つ間にも、浮かび上がろうとしていた何かは霧散していた。
疎ましく思われていた。
それに間違いなどない筈なのに。
――どうしてそれに、違和感を覚えたのかなんて。
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