Episode162 修学旅行の班決め

 季節が巡り、私達は小学校の最高学年である六年生に遂に進級した。

 クラス編成が変わることはないので最後の一年もこのメンバーで過ごすことになるのだが、普段たっくんと一緒に過ごしている私は小学校生活通して、たっくん色の学校生活だと言っても過言ではない。


 ちなみにバレンタインの時に発動した下坂&木下告白計画だが、木下さんは見事コンクール入賞。下坂くんもド緊張しながら(相田さん報告)告白した結果、見事彼等はバレンタインカップルとして成立した。


 自身の名が由来する日に初々しい恋人たちが誕生したことは、彼の有名な聖人・ウァレンティヌスさまもご祝福下さったことだろう。


 そして私が麗花に頼んでいたハンカチの持ち主の件に関しては、心当たりがあると口にしていた彼女から珍しいことに、


『誰かは判明しましたが、当分。当分先でもよろしいと思いますわ。強いて言うなら、お互い忘れた頃でもよろしいんじゃなくて?』


 などと言ってきた。

 礼儀・マナーの鬼らしからぬ発言である。


 麗花であれば誰か分かった時点で返すのが礼儀だと言って、再会のセッティングにも快く協力してくれると思っていたのに。

 何故なのか理由を聞こうとはしたのだが、したらしたでダンマリしたかと思ったら眉をへしょりと下げて、何と泣き出してしまったのである!


 超慌てた。何年も麗花が泣くのを見ていなかったから、本当にあの時はびっくりして思わず、


「いい! 忘れた頃に返すから! 泣かないで!?」


 と言ってしまった。

 痛感した。私は麗花と瑠璃ちゃんの涙に激弱い。


 というか忘れた頃って、それもう返せなくない?

 どっちも覚えてないってことでしょ?


 しかし麗花の涙の前では、そんな発言でさえ喉の奥で霧散してしまい。結局ハンカチはそのまま、私の手元で何年も眠り(?)に就くこととなったのである。





◇+◇+◇+◇+◇+◇+





 改めまして。六年生である私達はこの四月の中旬、学校行事としては一大イベントである修学旅行を控えている。大きな私立小学校であれば海外へ行くところもあるが、我らが清泉は知名度もそんなにない私立小学校。


 故に! 修学旅行先は、国内なのである!!

 ちなみに行き先は京都・奈良。


 定番の行き先ではあるが、麗花じゃないけどやっぱり国内でまったりしたいよね~。


 そんな中でこの旅行中、主に連れ立って行動する班を決めるため、クラス三十人、各グループ男女各三人の五グループを作らなければならない。そして今、そのメンバーを決めている最中であるのだが……。


「……」

「さすが一人で数百の兵だね、百合宮嬢!!」

「ちょ、土門くん! 花蓮ちゃんのせいじゃないよ、大丈夫だよ!」

「えっと、あの。……何でもないです」


 ありがとう、たっくん。豊島くん、何か言いたいことがあったら全然言ってくれていいからね。

 そして上から毒舌ナルシーザ・失礼。貴様は後でガムテープの刑を施行する。


 グループの男子三人はご覧の通り、既に決まっている。

 例の如く組みたい人同士で組めとのことだったが、まずは普段一緒に行動する同性同士であっという間に組み、後は女子と男子でどう組むかで決まっていないのが大体だ。


 しかし私達の場合はちょっと特殊で、私とたっくんは絶対のところに何故か土門少年が無理やり豊島くんの腕を掴んで引き摺ってきて勝手に組んだ状態で、あとは女子二人を待つばかりとなっている。

 私とたっくんはまだしも、豊島くんにとっては超絶迷惑な話でしかない。


「あの、豊島くんは私達と一緒で大丈夫ですか? 仲良しの子と組んで大丈夫ですよ? ウザナルシーがすみません」

「やれやれ百合宮嬢! 僕はちゃんと人選したつもりだよ!」


 黙れナルシー。

 私はいま豊島くんと話している。


 私に話し掛けられた豊島くんはオドッとしながらも、首をブブンと横に振った。


「いえ、あの。僕この班で大丈夫です。はい」


 本当に? ……まぁ、大丈夫ならいいのだけど。

 というか豊島くんの一人称は僕か。我が班の男子、全員僕っ子だな。


 いや、それにしてもどういう状態だこれは。曲がりなりにも土門少年というモテ男の一角がいると言うのに、女子が近寄っても来ないとは何事だ。


 ……私か? やっぱり私なのか!?


「ねえ! 私の何がそんなにダメなんですか!? 好感度好転して挨拶もされるまでになった、この私の何が!!」


 クワッと目を剥いていつかのように男子三人へと問うが、彼等の返答はそれぞれだった。


「うーん。やっぱり四年前と同じ理由っぽい気がする」

「百合宮さんって柚子島くんと土門くん以外に、クラスじゃあまり話さないし」

「太刀川 新効果だね!」


 たっくんのは私もチラッとは思ったし、豊島くんの言ったことも胸グサだが、最後のは何だ。


「どういうことですか。意味が分かりません」


 素直に疑問を土門少年へと投げかけると、彼はフッと髪を掻き上げて。


「覚醒前でさえ教室通いして見せつけてきたのに、覚醒後はどうだい? 男子への牽制含めたランデブーで蹴散らすほど、その仲を見せつけているだろう? 太刀川 新ならば、修学旅行中でも百合宮嬢の元へ来ることは目に見えている。考えてもみたまえ。同じ班になって刺激的なランデブーを間近で見せつけられる羽目になる、いたいけな女子らの気持ちを!」

「そんなバカな!」


 いくら何でもそれはないでしょ!?

 さすがにでしょ!?

 って、刺激的なランデブーって何!? まさか破廉恥なことじゃないでしょうね!!?


「拓也くん! 太刀川くんはそんなことしませんし、こっちに来ませんよね!?」

「あ、ごめん。それはさすがに僕も分からないや」

「えぇ!??」


 たっくんでさえも否定できないの!?

 え、え。どうしよう。ほ、放課後にちゃんと修学旅行中は来るなって言っとかないと!


 そんな中で結局私達の班はクラスの中でも大人しめの文系女子である、佐久間さんと小野田さんが加わった六人中私と土門少年を除く四人が眼鏡という、僕っ子眼鏡班が成立したのである。





◇+◇+◇+◇+◇+◇+





「あ、太刀川くん! 貴方、修学旅行中はちゃんと自分のクラスの人といなきゃダメですよ!」

「何で」

「何で!?」


 いつものように放課後はたっくんの塾の時間まで教室にいて、三人で話している最中にふと思い出して修学旅行のことを裏エースくんに注意したら、まさかの返答が返ってきた。コイツ来る気だった!


 普通に何の含みもなく不思議そうな顔をしていることから、本当にコイツ来る気だったことが判明した。


「拓也くん!」

「何で僕。分からないって言ったでしょ」

「寝る前とか、普通に他の男子部屋に遊びに行ったりしないか? 拓也は良いだろ?」

「「……ん?」」

「ん? 何だ? 拓也んとこには行くぞ、俺」


 私とたっくんは顔を見合わせ、私だけ机に突っ伏した。

 死ぬ。恥ずか死ぬ。余計なことを抜かす羞恥斡旋ナルシーには、絶対ガムテープ刑を施行する。


「花蓮? どうしたんだよコイツ」

「えー、あーうん。何かごめん新くん」

「よく分かんねーけど、別にいいぞ」


 ノロノロと顔を上げ、裏エースくん側の班構成も聞いてみる。


「太刀川くんは誰と一緒の班なんですか?」

「男子は西川と塩野狩。女子は相田以外で、お前ら分かるヤツいるか?」

「元Bクラスの女子はさすがに分かるよ」

「私達を何だと思っているんですか」

「いや、お前らいっつも二個一だから分かんないかと思って。相田と仲良い女子。鈴木と市之瀬」


 告げられた名前にあっとなった。


「私知ってます! 運動会でいつも並走になった子たちです!」


 低学年の頃の運動会の短距離走では、何故か不思議なことに並走の子は毎年同じ子だったのだ。

 運動神経の良い子たち! ゴール順位は勝負なので、毎年変動した。


「そっちは運動神経抜群!体育会系班ですか」

「お前人に変な肩書とかつけたりするの好きだよな。花蓮曰くお前らの班名は何なんだよ」

「僕っ子眼鏡班です」

「それ拓也しかいないだろ」


 違う! たっくん以外にもちゃんといます!


「あー。まあ男子全員自分のこと僕って言うし、花蓮ちゃんと土門くん以外は全員眼鏡かけてるもんね」

「あぁ? 土門と同じ班かよ」


 私命名の班名を聞いたたっくんが頷いて同意するのに対し、その内容を聞いた裏エースくんが眉間に思いっきり皺を寄せて不機嫌そうな声を出した。


 いや本当に待って? 土門少年のことを話題にする度に、あのド畜生みたいな反応するのやめてくれません?


「拓也と二個一なのは良いけど、土門との二個一は絶対ダメだぞ」

「土門くんが呼んでもないのに勝手に来ただけです。私が原因みたいに言うのやめなさい」

「許されている僕ってなに」


 ぼやくたっくんを余所にジト目合戦する私と裏エースくんの勝負は、たっくんの塾の時間が来るまで続いて引き分けになった。そうして校門前でたっくんと別れ、二人で並んで歩く。


「太刀川くんはどうして土門くんのことになると、そうプリプリするんですか? 土門くんとは何でもないって言っているじゃないですか」


 常々思っていることを言うと、チラッと横目で見てきたかと思ったらすぐに逸らされて前を向いた。


「花蓮さ」

「はい」

「土門にはたまに素じゃん」

「はい?」

「口調が崩れんのも俺と拓也以外で、男子はアイツだけじゃん」


 ……言われてみると、まぁそんな気もする。しかし土門少年に対しては素の口調というか、突っ込む上での不可抗力だと思うのだが。


「ですがそれ…」

「本当は分かってる」


 思ったことを言おうとしたら、遮られた。

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