Episode157 同盟による告白計画
取りあえず下坂くんには木下さんに告白することは決定事項、決戦日はバレンタイン当日であると言うことを伝えて、その日を終えた私達。
土門少年曰く、ドラマティックかつロマンティックの詳細な内容に関しては、また日を改めてということになったのだが――……。
「……この私を一度ならず二度も待たせるとは、あのナルシー師匠は一体何を考えているんですか!」
昼休憩。計画を話し合うために十分休憩の時に非常口への呼び出しを受けた私は、たっくんには用事があるからと言って、一人でここにやって来た。
しかし待てども待てども、一向にやって来る気配がない。かれこれ到着してから二十分は経過している。
放課後ならまだしも、貴重な昼休憩の時間を二十分も無為に消費させるとは。おのれ、どうしてくれよう……!
「……で……」
「……あ……そ……」
と、そこでようやく足音が聞こえてきた。やっと来たのかと思って待っていると、しかし何やら会話しているような声までが聞こえてくる。
……何やら既視感のある展開ではあるが、今度は一体誰を連れてきたのか。下坂くんか?
まぁ相談者で中心人物の彼がいなくては、話など進まないだろう。
そう思って、何の気なく待っていれば。
「やぁやぁ百合宮嬢! 大変お待たせしてしまってすまなかったね!」
「どういうことですか師匠!?」
「師匠?」
曲がり角から現れた姿を目視した瞬間、カッと目を見開いて問い詰める。
何で裏エースくんを連れてきた!?
おかしいでしょ!?
「頭の足りない足手まといより、この僕と双璧を為すイケてるメンズである太刀川 新がいた方が、勝率百パーセントを維持できると考察した結果だね!」
「私の同盟における存在意義とは!」
じゃあ何で呼び出したんだ!
私の貴重な二十分を返したまえ!!
「……土門から話聞いたけど、下坂も何で花蓮に相談したんだか。絶対相田が正解だろ」
「だろう?」
「そこ! 正論をわざわざ言い合わない!」
私だって相談された最初、絶対私じゃないって思ったよ! でも下坂くんの信頼勝ち取っちゃったんだから仕方ないでしょ!?
プンプンしていると裏エースくんがこっちに来て腕を引かれて隣り合って座る体勢となり、そんな私達の向かい側に土門少年もまた座る。
「で、バレンタインに下坂が木下に告白するって計画。普通にじゃダメなのか?」
「ふむ。君が百合宮嬢に告白した時は普通だったのかい?」
聞かれ、ピタッと隣の動きが停止した。
ヤバい。その時のことは私も人から触れられるのは困る。恥ずか死ぬ。
「同じことを坊主くんに要求してみるかい?」
「ああああっ! どうドラマティックにしましょうか! えーと、えーとお花なら我が家で用意できます! 代表的なのはやはり薔薇でしょうか!? 中庭に真っ赤な薔薇の花道作って、そこで堂々と愛の告白をして頂くというのはどうでしょう!」
「中々の案だが、それは学校が許可しないだろうね。……しかし、花か。薔薇とはまではいかなくとも、木下嬢のイメージに合うような花を贈るのはいいかもしれないね」
上手いこと話題を逸らせられてホッとしたが、しかし木下さんのイメージに合う花。ふむ。可愛らしい彼女には、可愛らしい花が似合いそうである。
「そこは下坂がイメージする花でいいんじゃないか? そこまで俺らが考えて全部丸ごと渡すのは、ちょっと違うと思うけど」
「一理あるね。ならそこは坊主くんに任せよう。やはり時間は放課後が最適か」
「放課後は無理だよ」
……??
最後の発言は、この場にいる三人の誰でもない。
ギ、ギ、ギと首を巡らせば、曲がり角からひょっこりと相田さんが顔を覗かせていた。
「あ、あい、相田さん!?」
え、何でここに!?
待って。まさか木下さんも一緒!?
顔を出していた彼女はヒョコヒョコと私達の傍までやって来て、一緒に座った。
木下さんはいないみたいだ。良かった。
「だって土門くんが太刀川くん呼ぶなんて珍しくって。それに二人の会話の中に香織ちゃんの名前が出てたんだもん。もう気になっちゃって気になっちゃって」
「何をやっているんですか。バレバレじゃないですか」
私はイケてるメンズ二名をジト目で見遣ったが、しかし二人は驚いたように少し目を見開いていた。
「いや。俺らは廊下に出てたけど、相田は教室にいたぞ。窓際」
「小声で話していたのだが」
「え?」
……え? 相田さん?
ちょっと恐ろしい疑惑が浮上しそうだったが、彼女はプクリと頬を膨らませた。
「ほんっと水臭いよね! 香織ちゃんのことなら私に言ってよ。あの子の幼馴染の私が知らないとか、有り得ないんだけど!」
「えっと、相田さん。さっき仰っていた放課後は無理というのは?」
「ああ、それね。その日はあの子、ピアノのコンクールの日なの。だから学校終わったらすぐに家に帰る予定」
「まぁ、コンクール!」
木下さんにとったら別の意味でビッグイベントだった。
あ、だったら多分ピアノのことで集中したいだろうし、そういうのは控えた方がいいのか?
しかし恋愛事における師匠である土門少年は。
「コンクール、最高の舞台ではないか! これは坊主くんも行くべきだね!」
「えっ、どうしてですか?」
師匠はチッチッチッと指を振った。
「これだから百合宮嬢は! 太刀川 新、君なら僕の言いたいことが分かるのではないかい?」
聞かれた裏エースくんは微妙そうな顔をしているものの、頷く。
「気持ちが判ってるからできることだけどな。入賞したら祝いと一緒に告ればいいし、そうじゃなくても好きなヤツが応援して見に来てくれて告白されたら、相手はやっぱ嬉しいんじゃないか?」
「さすがこの僕と双璧を為すイケてるメンズだね!」
「まぁ私は香織ちゃん応援したいし、あの子が下坂くん好きなのも知っているから反対しないけどさ。あー複雑だなぁ。何か、娘をお嫁に出す気分だよ」
「相田さん、私達まだ小学生ですよ。そんな気分になるの、早過ぎますよ」
ぺしょーと項垂れる彼女の背中を撫ぜれば、体育座りで膝小僧に頬をつけた相田さんが私を振り向いて見つめてくる。
「こんな時、柚子島くん大人だなぁって思う。仲良しの百合宮さんと太刀川くんが、本当にそんな関係になっちゃって。こっちは送り出し仲間だよ」
「「ブッ」」
同時に咽る私と裏エースくん。
予想外のところから火の粉が降って来た!
「僕も常々柚子島くんは大人だと思っているとも!」
「ねー」
やめて! 何か知らないけど悪くないけど私が悪かったからやめて下さい!
「あー! 今は俺らの話じゃなくて、下坂と木下の話だろうが! で!? 結局下坂はコンクール会場に行って木下に告るでいいのか!?」
「木下嬢へ贈る花を添えるのも忘れてはならないのだよ!」
「バレンタインなんだからどうせならさ、逆チョコも用意したらいいんじゃない? 香織ちゃんチョコも好きだし。案外女子って、男子から貰うのもアリなんだよね」
「なぁ。それバレンタインとホワイトデーの意味あるか?」
裏エースくんの純粋な疑問に、「いいじゃん。お菓子交換って感じで」と飄々と相田さんが返す中で私といえば、ホワイトデーの単語にピクリとする。
ホワイトデー。バレンタインに女性から貰ったお返しを男性がする日。
今までのことを振り返ってみれば、確かに私達友チョコ組はその日には、仲良し男子組から毎年あめ玉のお返しを頂いていた(その中にもちろん裏エースくんは含まれない)。と、言うことはである。
間近に迫る下坂・木下組に負けず劣らず、ビッグイベントを控えているこの私。これまで裏エースくんは貰い過ぎるがために、一切お返しなどは行っていない。
そんな彼、もし私が今回チョコを渡すのであれば、三月。
チラリと隣に視線を向ける。向けた瞬間に、察知能力に長けた出来過ぎ大魔王がこちらを見る!
「どうした?」
「うっ」
もうどうしよう! 私がビッグイベント頑張っても、三月で絶対返り討ちに合っちゃう未来しか見えないんですけど! てかまだバレンタイン来てないのに、何でイベントどんどん来るの!
「土門師匠! 私は一体どうしたら!」
「本当に百合宮嬢は見ていて飽きないね。何のことか知らないが自分で解決したまえ」
「拒否るの早!!」
弟子の助けの理由を聞きもしなかったナルシー師匠は、パン!と手の平を叩いた。
「では結論! 坊主くんは木下嬢のピアノコンクールへ応援に行き、花とチョコを携えて告白! 決まりだね!」
「うん。今回は香織ちゃん演奏の調子も良いし、入賞は狙えると思うんだ」
「相田さんはコンクールには参加しないんですか?」
彼女もピアノを習っているので聞いてみたら、ふふっと笑って。
「私は今回はパス! 年々やっぱり上手い子との差が出てくるからさ。そういうの意識しちゃうと勝負!って感じで何か嫌なんだよね。私、ピアノだけは楽しくやっていきたいから」
「そうなのですね」
相田さんは結構負けず嫌いなところがあるから、ちょっと意外。でも、そっか。
話を聞くとボランティアにも積極的に参加しているみたいだし、姉御肌な彼女の気質としてはそっちの方が合うのだろう。
そして無事に下坂くんの告白作戦の内容が整って、教室に戻ろうと皆立ち上がる。
「花蓮」
「はい?」
相田さんと並んで歩こうとしたら裏エースくんに呼び止められ、チョイチョイ手招きされる。
何だと思って戻ると、「ちょっと花蓮と話あるから」と相田さんに言い、面白そうな顔をした彼女はりょうかーいと言って一足先に帰って行った。
ちなみにナルシー師匠はいつの間にか消えていた。……消えていた!
「えっと、どうしたんですか?」
「……バレンタインのことなんだけど」
「!」
えっ、えっ!?
なに!? 何かね!?
何を言われるのかとドキドキしていると、どこか落ち着かない様子の彼から言われた言葉に、思わず固まった。
「俺、今年はお前の以外受け取らないから」
「えっ」
「花蓮から貰わなかったら、今年一つもないから」
「えっ。え!?」
言いながら薄ら頬を染める姿を直視して、こっちまで動揺してしまう。
いや、普通に今年もたくさん受け取る感じだと思っていたから、まさかそんなこと言われるとは思わなかった。ていうか、ちょ、宣言された!
私の以外ということは私のだけしか……プレッシャー!!
「ううぅっ。が、頑張ります……」
「おう。よろしく」
そうして私自身の計画に関しては、渡す相手により先制攻撃をかまされてしまったため、瑠璃ちゃん先生に頼るしか道はなくなってしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます