Episode154 鈴ちゃんがやらかすかもしれない件

 有言実行のお兄様の功績を振り返り、大分学院の雰囲気も変わっているのかなぁ~と考える。


「鈴ちゃんもそういうお友達がもっと増えると良いよね~?」

「なんのお話ですか?」


 ず~っとナデナデしていたら、髪の毛がちょいボサになってしまった。


 鈴ちゃんの髪質は私よりも落ち着いていて、撫で回されても私のように軽率に鳥の巣になったりはしない。何故に私だけ。

 チョイチョイと整えてあげる。


「鈴ちゃんも、蒼ちゃん以外で仲良しのお友達が増えたらいいなぁって思ったの」

「そーちゃんいがいの? うーん……」


 目をまたパチパチとさせて、何やら考える鈴ちゃん。

 コテリ、コテリと首を傾げている姿は超絶可愛い。


「鈴、そーちゃんが鈴のそばにいてくれたらいいです。お友だちおおくてもそーちゃんとお話できなくなるのはイヤですし、そーちゃんとの時間をへらす子は鈴のお友だちでもないです」


 うわぁーお。鈴ちゃんのお友達条件が絶対的蒼ちゃん在りきについて。


 私と麗花で瑠璃ちゃん家に女子会する時に鈴ちゃんも付いてくる時あるけど、その場合は私達姉にひっ付いているのではなくて、ずぅーっと蒼ちゃんにべったりしている。


 何か私達三兄妹って、本当によく似ているよね。一度仲良くなったというか、気を許した人とはずっと一緒にいる。

 お兄様だって学校別れても遠山少年とは何だかんだで仲良しだし、佳月さまとの交友関係も続いている。


「じゃあ蒼ちゃんに鈴ちゃんとは別のお友達ができたら、鈴ちゃんもその子と仲良しする?」


 ピシィッ!


 何気なく聞いてみたら、効果音が鳴ってしまった。


「そ、そーちゃんに、鈴じゃないお友だち……!?」


 おや、何やらショックを受けている。


 私は自分のお友達にお友達ができることは推奨しているので、兄妹の中では鈴ちゃんが一番独占欲強めらしい。前に私にも、他の子の頭撫でたら嫌って言っていたし。


「だって鈴ちゃんが好きになった子だよ? 他にも蒼ちゃんのこと、好きになる子なんていっぱいいると思うけど」

「!? た、たしかに! そう、ですよね。そーちゃんすっごくいい子だから、みんな好きになっちゃいますよね。鈴だけのそーちゃんじゃない……」


 蒼ちゃんはいつの間に鈴ちゃんだけの子になっていたのか。


 ん? もしかして私達のところに寄って来ないのって、蒼ちゃんのことを取られたくなかったからだったりする? え、私達でもダメな感じなの!?


「そ、蒼ちゃんだって多分鈴ちゃん以外のお友達、欲しいんじゃないかな!? でも仲良くなったお友達をずっと大切にするのも大事なことだよ!」


 独占欲強めな鈴ちゃんが、蒼ちゃんのお友達候補を蹴散らしてはいけない。


 そう思って伝えれば、「うぅっ、がんばります!」とギュッと眉間に皺を寄せながら、両手の拳を握ってそうお返事をしてくれた。


 どうしよう。大丈夫かなこれ? 基本的には家族大好きなすごくいい子なんだけど、時折過激な部分が垣間見える時がある。

 お兄様にライトノベルを没収された時もそうだったし、蒼ちゃんと初めて会った時も押して転ばせていた。


 ……私達三兄妹はよく似ている。私は結構な頻度でやらかしているし、お兄様も前にリーフさんとの文通の件でやらかしていたし、鈴ちゃんもやらかす可能性が。





◇+◇+◇+◇+◇+◇+





「お兄様大変です! 鈴ちゃんがやらかすかもしれない件について!!」

「突然来て何の脈絡もないこと言い始めるの、いい加減やめてくれる?」


 お母様の淑女教育に呼ばれた鈴ちゃんと別れた私は、速攻お兄様の部屋へと直行した。しかしお兄様は勉強机で何やら書き物をしていたご様子。


「お勉強中ですか?」

「いや。歌鈴の勉強を見ていたら、遠山くんのことも何か気になって。彼という人間の傾向として、休みが明けたら縋ってくることは想定の範囲内だし。今度の意見交換会の時に縋られる前に、テスト対策課題を顔面に貼りつけてやろうと思ってね。今その対策課題を作成中」

「遠山さま対策中でしたか」

「僕にとって実りある意見交換会にしたいからね」


 手厳しいんだかお優しいんだか、イマイチ分からないな。

 それでも自分の時間を削ってまで遠山少年用のテスト対策課題を作っているんだから、やっぱりお兄様は彼のことを好きなんだと思う。


「あ! 忘れるところでした。鈴ちゃんがやらかすかもしれない件について!」

「同じことさっきも言っていたけど、それ何? 歌鈴が何をやらかすって?」


 課題を作成する手を止めて振り向いたお兄様に、考えを伝える。


「鈴ちゃんに、お友達がたくさんできたらいいよねって話をしていたんです。そうしたら鈴ちゃん、蒼ちゃんとお話する時間が減るのは嫌だから、蒼ちゃんとの時間を取る子はお友達じゃないって。何とか言い含めはしましたが、それでもすっごく眉間に皺を寄せていました! 私思ったんですけど、多分鈴ちゃん、私達の中で一番過激なんじゃないかと思うんです。善し悪しの区別はついている筈なんですけど、感情的になったら何か、物理的に何かしそうで」

「その根拠は?」

「没収されたライトノベルに対して、燃やして灰と化すると言っていました。蒼ちゃんと仲良くなる前に、押して転ばせました。あとは私達兄妹の中身が激似なことが一番の根拠かと」

「……納得」


 とても認めたくないような顔をされて、言葉と態度が真逆ですよ、お兄様。


「まぁでも、外に出たらちゃんと令嬢らしくするだろう。所作に関しては麗花ちゃんにも褒められたんだろう?」

「甘いですね、お兄様。私を見てまた同じことが言えますか。悪い面なので言いたくありませんけど、鈴ちゃんがリスペクトしているのはこの私なのですよ?」

「本当に自分で言う内容じゃないね。自覚があるのなら直しなさい」

「私は知っていますよ。お兄様だってたまにやらかして……ほっへ! ほっへひっひゃらはいへふははい!」


 伸びちゃう! ほっぺ伸びちゃうから!

 ほらぁお兄様だって物理する!!


 ミョーンと伸ばされたほっぺから指を離され、手でスリスリする。うー、いたた。


「うーん、こればかりはちょっとな。実際になってみないと歌鈴がどうでるかは分からないし。でも僕と花蓮が歌鈴と同じ歳の頃を考えたら、一番喜怒哀楽がはっきりしているとは思う。何かそう考えると僕と花蓮の反動が、歌鈴なんじゃないかって」

「お兄様と私の反動……。お兄様にしては、あまり推しそうにないお考えですけど」

「まぁね。……僕も自分の幼少の頃は少し、思うところがあるんだよ。父さんに対しても母さんに対しても、花蓮に対しても。歌鈴のように接していたらどうだったんだろうって」

「お兄様が鈴ちゃんみたいに? え、それお兄様じゃない」

「失礼なことを言う妹だな。もう一回する?」


 指を伸ばしてきたので慌てて後ろへ下がる。


「だってあの頃のお兄様がいたから、今のお兄様がいるんじゃないですか! 鈴ちゃんお兄様だったら多分、別のお兄様になってます!」

「…………はぁ」


 溜息吐かれた!


「この妹は本当によく分からないな。勝手に車から降りて突然走り出したと思ったら、勝手に転んでたんこぶ作って。あの時から僕はずっとお前に振り回されているよ、花蓮」

「何年前の話を持ってくるんですか。でもお兄様、そんな私が好きなんですよね?」


 私も覚えてますよ、ちゃんと。

 お兄様が言っていたことは!


 ニコニコして言うと、目を細めてまたほっぺをつまんで伸ばされた。何で!?


「取りあえず歌鈴に関しては様子見。やらかした内容で何が悪いのか明確に教えないと、本人が理解しない。一応僕と花蓮のことを踏まえて考えたけど、僕達は本気で怒ったら、物理的に手が出るタイプじゃないだろう? 周りから埋めて、社会的に確実に追い詰めるタイプ。兄と姉がそうなんだから、傾向的に歌鈴もそうだとは思う」

「なるほど」


 言えている。


 うーん、それじゃ蒼ちゃんの時に手が出ちゃったのは、たまたま? あの時に押しちゃダメってちゃんと注意したから、もうしないとは思うけれど。




 そんな風に一旦は様子見となった、鈴ちゃんがやらかすかもの件。しかし鈴ちゃんが初等部に入学してまだ私がお家にいる時に、彼女が本気で怒る出来事が発生する。


 そしてさすがお兄様。

 そのお考えは正に的中していた。


 お兄様と私の反動が、鈴ちゃんだということを。

 そして思い出す。


 私がハロウィンパーティの時、どうやって瑠璃ちゃんを助けたのか。その手段を。

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