Episode149 初詣お家デートの昼食
神社で初詣も終わり、頑張って登って来た石段は下る時には楽ちんだった。
暫く会話しながら道なりに歩いていけば、何やら見覚えのある住宅街まで来ていた。そうしてここまで来てから、ようやくハタと気づく。
あ。お家デートの時間。
今から家に行くとか、何にも触れられずに手を繋いで歩いていて、普通にお喋りが楽しくて全然気づかなかった。
……さすがスケコマ界のラスボス、格が違う! 警戒心の欠片もないスキル無し勇者なんぞ、己の根城に連れ込むことなど赤子の手を捻るも同然ということか。
「えーと、いま何時だ? ……十一時三十分くらいか。じゃあ昼は何か作るか」
いま言い始めたんですけど!?
というか。
「太刀川くん、お料理できるんですか?」
「まぁな。母さんが働いているから、一人になった時とか作ったりする」
「貴方に死角はないんですか」
ラスボスは料理スキルまで身に付けていた。
出来過ぎ大魔王にも程がある。
この分だとスキル派生して、掃除スキルなどの家事スキルも高そうだ。……女子としてのレベル!
「ダメです。女子力で言うと、人前での令嬢スキルくらいしか勝てるものがありません……!」
「むしろ俺がそれで勝っちゃダメだろ。あ、着いた」
「何ですって!?」
とうとう根城へ来てしまった。
や、でも何人かで遊びに来たこともあるから、良く知ってはいるお家なんだけれど。
「やっぱ何も点いてないから寒いな。暖房とか点けてくるから、それまでリビングで寛いでいて」
「え? あ、はい」
玄関からお邪魔しますと入り、靴を脱いで揃えている段階で言われ、目を瞬いて返事する。
裏エースくんはそのままお部屋の中へと消えていくが、残された私、何故か微妙な心境となる。
……うん。よく知ってるお家だから、案内されないのは別にいいんだけど。二人なのに、リビングかぁ……。
ちょびっとだけモヤりとするものを感じながらも、まず洗面所に寄って手洗いうがいをした後にリビングへと行く。裏エースくんが先に向かったので明りは点いており、暖房も点き始めでゴゥ……と動く機械音が聞こえる。
と、流しの方で水が流れる音が聞こえたので、裏エースくんはそっちで手洗い等をした模様。
ダッフルコートを腕に抱えた彼が戻って来て、「上着、ハンガー掛けとくから貸して」と言われたので脱いで渡せば、またスタスタとどこかへ行った。
えーと、お昼作るの手伝った方がいいかな? 料理……あれ。私、前世でそんなに経験がない……?
何故か頭の中に碌に料理している姿が浮かばず首を捻っていたら、再び戻ってきた裏エースくんが、どうした?と声を掛けてくる。
「いえ。お昼なに作るんですか? 私もお手伝いします」
「ん? 在り合わせで何か作ろうとは思ってるけど。お前包丁握れるか?」
「どうなんでしょう? 取りあえず、家庭科の調理実習では一度も持たせてもらえていません」
「そんな不安しかない返答するヤツに手伝いは任せられないぞ」
「ええっ!?」
でも一人で大人しく座って待っているのは、とても嫌なのだ。
だって離れて待ってるの寂しいじゃん。
私は基本好きな人には、ひっ付いていたいタイプの人間です!
「お野菜洗うのとか、お皿洗いとかならできます。お皿運びもやります! あとは近くで見学していても良いですか?」
「……まぁ、ダメなの運動神経くらいだしな。見られるのも何か恥ずいけど、いいぞ」
無事ちょっとしたお手伝い兼、見学を認められて内心ガッツポーズ。
キッチンへの立ち入りは初めてなのでドキドキしながら付いて行けば、掛けてあったエプロンを身に纏い、もう一つを手渡してくる。
「サイズ、母さんのだから長さがあると思うけど、これしかない。服が汚れたらいけないから、しとけよ」
「分かりました」
ご婦人のエプロンは、可愛いクマさんの顔がいっぱいプリントされている。うふふ、私もたまにクマさんマスク被るから親近感。
冷蔵庫の中を物色し、ベーコンとバターと玉ねぎと色々取り出されていく。
「メニュー決まりました?」
「おう。手っとり早くカルボナーラ作る」
「それって手っとり早く作れるメニューなんですか!?」
驚いて言うと牛乳を手に持って振り返りながら、クスリと笑われる。
「パスタって茹でるだけだし、具材は炒めて混ぜるのが大体だからな。パスタだけなら種類は結構作れる。そんなに期待するなよ」
「太刀川くん何でも出来ちゃうので期待しちゃいますよ……ハッ!」
待って。ここで裏エースくんの手作りお昼ご飯を頂くことによって、私の二月のビッグイベントはお返しに手作りが確定するのか……?
ちょ、ちょ、ちょ!?
「チョコレート……!!」
「カルボナーラにチョコは入れないぞ。そんな冒険はしないからな」
違う!! ちょっと先の未来のことを思わず口走っただけです! 私だってチョコナーラ食べたくありません!
玉ねぎを渡されたのでお水で洗い、皮だけを剥いてまな板の上に置く。野菜が玉ねぎだけなので、洗い終われば私の業務終了。ただいまより見学に移行する。
キッチンがカウンタータイプなので、邪魔にならないように向かいへと回って、その工程を観察。
いつから自分で料理し始めたのか不明だが、言うだけあって手際はとてもスムーズで流れるようである。
沸騰したお湯に塩を入れてパスタを茹でている間に、フライパンに油を引いて具材を炒め、牛乳を入れて程良く混ぜている。
チラリと料理から目線を上げて見れば、集中しているようで真剣な顔をしていた。
……悔しいなぁ。料理している姿も格好良いとか、もう何なの。絶対私勝てないじゃん。
たくさん色んな経験値を稼がなくてはと思う間に、パパッとカルボナーラが完成した。お皿に盛りつけて慎重にダイニングテーブルへと運び、向い合せに座っていざ実食。
「いただきます」
「いただきます」
フォークにクルクルと巻きつけて、パクリと一口。
うん! 作ってる時からすごく良い匂いしてたから、絶対美味しいと思ってた! やっぱりバター入れる入れないじゃ、コクが違うよね~。胡椒が効いていて、これもまたアクセント。
「……どう?」
「美味しいです! 食べる前から絶対美味しいって思ってましたもん! さすが太刀川くんです」
笑って感想を告げると、まだ食べていなかったらしい裏エースくんはホッと息を吐いている。
「あー良かった。自分の作ったもん、母さん以外で初めてだから緊張した」
「調理実習で作るじゃないですか」
「あれは皆で先生の言う通りに作ってるだろ。それに、食べさせる相手が花蓮だからってのもあるし」
「え?」
私? あ、味覚のこと気にしてる?
「給食で同じものを食べていますし、学校の給食、美味しいと思いますよ? 味にはうるさくないつもりです」
「いやそうじゃなくて。だから、……鈍感」
碌な説明もないまま、ただ鈍感と言われ、続きもなくカルボナーラを食べ始めてしまった。何故悪口言われたし。
釈然としないまま、私も向かいを気にしながら食べ進めていたら――唐突に。
「好きな子に手作り食べてもらうの、緊張するだろ」
「ゴホッ」
咽た。いや、噴き出してもないし鼻から飛び出てもない。大丈夫。
……本っ当、突然ぶっ込んでくるのやめてくれません!? 食事中にスケコマしてくるの、重大なマナー違反!
顔を上げていつものように注意しようとしたが、真向かいの顔がカルボナーラに視線を落とし、頬を薄ら染めているのを見てしまうと。
「……お、美味しいです。すごく」
「だろ」
ぶっきらぼうに言われても、静かに食べるしかなく。
一つ、半径一メートルは離れておくこと。
一つ、裏エースくんからの接近を許さないこと。
一つ、私の方から抱きつかないこと。
『初詣デート健全計画』の注意事項を、頭の中で繰り返すのだった。
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