Episode145 恋愛経験値レベルアップ方法
そうこうしている内に冬休み突入。
……計画を、計画を練らねばならぬ! 『裏エースくんバレンタイン計画』より何より目下、『初詣デート健全計画』を!!
「絶対に今度は、破廉恥なことにならないようにしないと!」
当初の予定通り、様々なことの計画を練らなければならない中で、突如として裏エースくんから誘われた初詣からのお家デート。しかもご婦人のいない中でのふ、二人きりである。
あんなスケコマ値が上限突破しているスケコマ野郎とお家デートなんて、何があるか分かったもんじゃない。ただでさえ割合手の平の上でコロコロ転がされているのは、私の方なのに!
「一つ、半径一メートルは離れておくこと。一つ、裏エースくんからの接近を許さないこと。後は、後はえーと、私の方から抱きつかないこと! ここテストに出ます!!」
机の上に広げた計画ノートに注意事項を書き連ね、テストに出るところはグリグリと強めに書く。
くぅ! 私というヤツは、とんだ甘えたがり屋である。好きな人には甘えてひっついていたいし、一緒にいたいのだ。
ちっさな頃からお兄様にタックルしてひっつき虫していたのが、成長して今こうなっている。正に因果応報。自業自得。
「相手は強敵。むしろスケコマにおけるラスボス。勇者レベル一未満の私がそれまでにラスボスと同等まではいかずとも、何かしらで経験値を稼いでレベルアップするしか対抗手段はないのでは?」
健全対策及び、私が勝つための対抗手段を考えるも結局はそこに行きつく。
何故私が毎回フルボッコにされるのか。
それは圧倒的経験値不足ということに他ならない。
乙女ゲーのライバル令嬢が恋愛経験値不足とかどうなの? ……あ、むしろ無かったから断罪される訳かなるほど。
ふむふむと己の見解分析に頷き、では経験値をどう稼ぐか。それが問題である。
「恋愛ドラマ? 恋愛小説? 少女漫画? うーむ」
ちらりと本棚に目を向けるも、ドクドクローシリーズがズラリと並べられた中に、ちょこちょこ他の本が入っているだけ。
その中には恋愛ものなど、一冊たりとも購入した記憶はない。おい何故敢えてそれを避けた私。
恋愛小説及び漫画における大抵の内容は、フィクションと明記されている。
しかしながらフィクションといえど、それは女の子の大体が憧れるシチュエーションとして描かれていることは想像に難しくない。
現実で起きることを憧れて想定して書かれたということは、現実にももしかしたら起こりえるかもしれないということで。
思えば『プリンセス・緋凰脱却計画』も、『緋凰ランデブー計画』も、『麗花私のお義姉さん化計画』も、『裏エースくんバレンタイン計画』も全部、全部恋愛が共通している。
そしてここは乙女ゲームの世界。
恋愛が主軸になっている世界なのである!
光陰矢の如し。先んずれば人を制す。
恋愛経験値皆無だったからこそ断罪されるのであれば、経験値を積めば断罪も回避可能となるやもしれぬ。
恋愛経験値を積んだ乙女ゲーライバル令嬢の私に、死角などあろうものか! 一石に二鳥どころか五鳥くらいの得があるのではなかろうか!
ホーホッホッホ!!
◇+◇+◇+◇+◇+◇+
早速近場の書店へと赴き、ライトノベルの中でも恋愛が中心になっているものを物色して何冊か購入し、ベッドに腰掛けて読み込んだ結果。
「…………」
枕に顔を突っ伏して悶えることとなった。
待って。本当に世の乙女たちはこんなことを求めているの? 私、羞恥心に殺されてレベルアップどころじゃないんだけど。途中でやられちゃうから経験値得られないんだけど。
「描写がっ、描写が何か生々しい……っ!」
おかしいです。あれでもピックアップコーナーで人気と挙げられていたものを選んだのに、私にはまだ早かったのか……!?
ぼかしてよ! 何でちょ、ちょっと直接的なこと書かれてるの!? そこはフワッと仕上げようよ、フワッと!
う~!と唸りながら、ベッドの上でゴロンゴロン左右に往復して転がる。
現実に起こるかもを想定して読んでいったので、ダメージが半端なかった。しかも私というヤツは想像力が豊かなので、登場人物を私と裏エースくんに置き換えてしまったら、もう会心の一撃で即死だった。
ぶっちゃけ一冊の半分くらいまでしか読めませんでした……。
「教会……。教会に行って蘇生しなきゃ……」
ヨロヨロとベッドから降り、教会を目指して自室を出た私は。
「お兄様ああぁぁ~~!!」
「わ、どうしたの。ていうか予備動作全然なかった」
ノックして開かれた瞬間にタックル決めた私に、歳を重ねて頑丈になったお兄様はビクともせず、ただ驚きの声を上げただけだった。さすがの安定感!
「体力を回復させて下さい。いま瀕死なんです」
「どういうこと?」
頭を胸の少し下にグリグリ押し付けて入室を促すと、やれやれと言いながらも入れてくれた。お兄様優しい大好き!
ギューと抱きついたままなので引きずられ、ズリズリと連れて行かれた先はお兄様のベッド。座る動作を察知した私はパッと離れてベッドの上へと上がり、ゴロゴロを開始する。
「久しぶりのお兄様のおふとーん!」
「人のベッドで転がるの禁止って、前に言わなかったっけ」
「私は瀕死なんです。大目に見て下さい」
「何があったらそんな感じになるの」
プーとほっぺを膨らませて見上げると、ワシャッと髪を撫ぜられる。えへへー。
「経験値を上げようと思いまして。恋愛の」
途端、頭を撫でていた手がピタリと止まった。
「……うん?」
「さっき書店に行って、そういう系統のライトノベルを買ってきたんです。お勧めされていた人気の本でしたので、皆が読んでいると思いまして。それをさっきまで読んでいたんですけど、羞恥心に殺されて半分くらいしかまだ読めていません」
「恋愛?」
ジィッと見下ろしてくる瞳とかち合い、目をパチクリとさせる。
「お兄様?」
「前に、僕に女性のタイプを聞いてきた時あったよね? あれもそう?」
「え? いえ、あの時とはちょっと違います」
あれは対象が麗花だったから。今は私だし。
「兄が風紀委員をしているのに、妹が堕落してもいいと思っているの?」
「堕落!? え。恋愛って堕落するんですか!?」
「花蓮。恋とは人を正常ではいられなくするものだよ。春が来たとはよく言うけど、頭がお花畑になるんだ。相手のことしか見えなくなり、視野が狭くなる。何もかもの能力が低下する。来年受験の花蓮には、そんな人間になる暇はない筈だよ」
「そ、そこまで言います!?」
真顔で全て言い切られて、かなり動揺する。
た、確かに効果的には諸説あるけど、でも逆に強くなることもあるのでは? 水島兄のトラウマだって、裏エースくんへの気持ちで打ち勝ったし。
そんなことを思って反論を試みようとしたところ、しかし真顔のままのお兄様の顔面の迫力には、開きかけたお口も閉じざるを得ない。
「まさかとは思うけど、好きな人でもいるの?」
「えっ」
まさかとか言われた。
直球で聞かれて直前までのやり取りで素直に頷ける人間は、果たしてどれだけいるのだろうか? 私は無理である。
「い、いません」
「だよね。うん、花蓮には早過ぎるよ。そういうの」
ポンポンと頭を撫でられるが、仄かな圧力を感じる。
これ何の圧? 蘇生回復に来たのに、何かダメージ受けてる気がするのは気のせい?
「ち、ちなみになんですが。いくつくらいになったら許容範囲で……?」
表情は変わらず無言で考えている?(反応がないから分からない)お兄様は、暫くしてから。
「二十歳越えてからかな」
「おっそ! 成人しなきゃダメですか!? 国の法律では女性は親の同意があれば、十六歳で結婚できるんですよ!?」
びっくりした!
待って、これで私が裏エースくんのこと好きなのバレたらどうなるの!? 怖いんだけど!
堪らず国が決めた法律を出して反論すれば、真顔から深い笑顔になるお兄様。
「花蓮は早く結婚したいの?」
「え? え? どういう話の切り変わり? ま、まぁ想い合う人ができれば、結婚したいなとは思いますけど」
「長男で跡取りの僕がする気がないのに、年功序列で下の妹が、僕よりも先に結婚できると思っているの?」
「いつの時代の話!? ……え!? まさか結婚しないつもりなんですかお兄様!?」
というか、暴論! お兄様がとんでもない暴論かましてくるんですけど!?
……あっ! お兄様が結婚しないとか、『麗花私のお義姉さん化計画』が頓挫しちゃうじゃん! ダメだよそれは!!
「やっぱりお兄様、早く彼女作って婚約しなきゃダメです! 一番身近な人で、お兄様とすっごくお似合いの人がいます!」
「僕にそういうの勧めてくると言うことは、やっぱり好きな人いるんだな」
「何で!?」
どういう推理!?
合ってはいるけど、勧めた理由違う!
「没収で」
「え。え? 何を没収? あ、ちょっとお兄様どちらへ行かれるんですか。待ってくだ……私の部屋じゃないですか! ちょ、本! 私が買った本!!」
ベッドから降りてスタスタとどこに向かうのかと付いて行けば、何と勝手に私の部屋に入ってベッドの上に放置していたライトノベルを手に取り、抱え始めたではないか! 没収って、私の恋愛経験値レベルアップアイテム!!
「泥棒です! お小遣いはたいて買った本です! ひどいです何の権限があってそんなひどいことをするんですかお兄様!!」
「妹の風紀を取り締まる兄の権限で。後で家族会議開かないと」
「また私に禁止事項増やす気ですか!?」
何もやらかしてないのに!?
ひど過ぎるのでは!?
誰か、誰か教会の神父を止めて下さい!
暴走しています!
「お姉さま、お兄さま。なにしているんですか? 鈴もなかまにいれてください!」
お兄様の腰回りに子泣き爺化して暴走を止めようとする中、騒ぎが聞こえたのか鈴ちゃんが扉から顔を覗かせていた。
「鈴ちゃんいいところに! お兄様が私のご本を奪おうt「歌鈴。この本があると花蓮は僕らじゃない、別の人間のところに行っちゃうけど……いいの?」
「え?」
私の救助依頼に被せてきたお兄様の言葉を聞いた鈴ちゃんは、ピシィッと効果音を鳴らした。そしてワナワナと震え始めて。
「お姉さまメッ! わるいほん! お兄さま、もやしてはいとかしてください!!」
「鈴ちゃんの方が過激だと!?」
――結局買ってきたライトノベルは全てお兄様に没収され、その後お兄様主催の家族会議が開かれたが、私の味方はお母様だけだった。
「お年頃だもの。そういうのに興味を持つのは普通のことだと思うわ」
と擁護しても受験のことを持ち出されれば、さすがのヒエラルキー頂点と言えども反論を上げることはできず。
私の恋愛レベルは碌に経験値を積むことなく、勇者レベル一未満のままとなってしまったのだった。
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