桜とスケッチと旅と その二

第23話実相寺の神代桜

　㉓実相寺の神代桜

２９年４月１３日

　予定どおり出かける。

出がけにリュックを背負った時少し腰に痛みを感じたが

こんなこと気にしていられない。

今日を逃したらいけないかも知れないから

今年は何が何でも実相寺の神代桜を布絵にする。

その意気込みだけである。

八王子を過ぎるまでは通勤の人やハイキングに行く人やらで

混んでいたが少しするとガラガラになってきた。

途中駅の勝沼ぶどう郷のホームの桜が見事であった。

桃の花はまだ満開になっていない感じがする。

桃の花をスケッチに来たのはいつだっただろう。

１０年以上は経っているだろう。

なのにこの鈍行列車は変わっていない。

新幹線はどんどん新しくしているのに・・・

１０時５０分、日野春駅に着く。

とりあえずトイレに行くと年寄りの母子がいた。

桜を見に行くと聞く。

タクシーを予約してあるというので相乗りさせてもらう。

駅は山の上にあったようで山道をくねくねと降りて行き

平地を少し走ると向こう側の丘に登ると実相寺である。

タクシーが止まった左の方に桜の花に埋もれて山門がみえる。

同乗者の二人にお礼を言って別れる。

心が焦っている。

桜の花が多くて目的の神代桜がどこにあるのかわからない。

早く会いたい。

この目で確かめたい。

山門を入るとすぐ左に水仙畑。

まっすぐに本堂らしき建物がみえるが順路がある。

右手に身延山の枝垂れ桜の子桜がいる。

樹は結構大きい。

その先に宇宙桜の看板の矢印があるが確かめもせず順路をまがる。

お寺の住まいなのか広い玄関先にお札などを並べてある建物がある。

桜はどこ？

早く、早く、こうなると他の桜の木は邪魔！

人ゴミと桜をかき分けやっと神代桜にたどり着く。

想像した大きさとは違っていたがやっと会えた。

とりあえず一回りする。

裏門らしき鉄扉を出て疎水を渡ったところに小さい空き地が見え

人がいる。

そこからなら他の人の邪魔にならずにスケッチが出来ると思う。

風があるので大きな紙を広げてのスケッチは困難だが

そんなことは言ってはいられない。

何としてもスケッチしなくては来た意味がない。

折り畳みの椅子を出して紙を出して焦って一枚目をスケッチする。

すぐそばに来た女性、ここでスケッチするの？と驚いている。

その人は写真撮って家に帰ってから４号ぐらいの大きさに

印刷してそれを絵にするという。

それではここへ来た意味がないと内心思う。

観光用の写真を印刷すれば済むではないか。

とりあえず一枚スケッチする。

幹は永い風雪に耐え生きてきた事を物語るかのように風化して

ボロボロで触れば崩れ落ちそうな感じである。

おまけに右手に見える太い幹は包帯しているかのように布に包まれている。

でも花はたくさんついている。満開だ。

歩く人の会話を聞くともなく聞いていると去年よりも大きく見えるという。

花つきがいいのだろう。

疎水を渡ってまっすぐの裏門のそばで一枚スケッチする。

お昼になってお腹もすいてきたが弁当らしきものを売っている店は

見当たらないので鐘つき堂の所で持ってきたパンを食べる。

お花見弁当を売っていると期待してきたのに何もない。

これだけの人がいるのに土産の饅頭やジャム、シイタケなどの店しかない。

がっかり。

パンをほおばってトイレを済ませ鐘つき堂からまっすぐの所、

上の位置から三枚目をスケッチする。

暑いせいかふわっとめまいがする感じがしたがスケッチを続ける。

終わってから一回りしてみようと山門からでてみると何やら

食堂らしきバラックが見える。

行ってみるとフランクフルトや焼きそば、たこ焼き、大判焼き、

燻製の店などがあるが300円の焼きそばはまずそうだし、

600円は高いし手作りパンを売っている店もあったが小さくて150円は高い。

結局、眺めただけで桜に戻る。

人も少なくなったので本堂側から一枚スケッチする。

時計を見ると二時、わに塚の桜へ行くバスの時間を調べたのに

メモしてこなかった事を後悔する。

一本桜で回りの山の景色がいいだけで幹に魅力がなかったので、まっいいか。

年数を経て来た重みが良い。長い長い時間の間にいろいろな季節を

通り越してきたものを表現したいのだ。

もう少しこの神代桜を描こう。

出来るだけいろいろな面からスケッチして行こう。

実は周りに植えられている桜が邪魔だ。

たぶんここ2，30年の間に植えられたものだと思うが、

もう少し5ｍから10ｍ離していてくれたら、

この神代桜を一本の孤独な樹にしてくれればもっとワクワクしたのに・・・

他の桜の木に埋もれてしまってよく見えない。

この桜の美しさが伝わってこないので心のなかでがっかりしていた。

午後になって桜の周りにたむろす人が減って来てスケッチしやすくなった。

風も少し弱って来たし。

結局三回りぐらいして七枚のスケッチをした。

ついでに山門から入って右手にある身延山の枝垂れ桜の子桜も一枚スケッチし、

普通の画用紙に水仙を前景にした絵もかく。

早く布絵にしたい。