第5話 真実
一瞬、何を言われたのかわからなかった。俺が世界を終わらせる?一体こいつは何を言っているんだ...?
「聞こえなかった?。あなたが世界を終わ
らせるからよ。」
「いや、聞こえてはいるんだが...。なんという
か、あまりにも現実味がなくてなにがなん
だかさっぱりだ。」
さも当然のような顔をして突拍子のない事を繰り返す彼女に戸惑う。なぜか先ほどから寒気がして落ち着かない。
「『第三次進化論』は知ってる?」
「あぁ、なんとなくは授業で聞いた。それが
なんだ?」
第三次進化論とは、人間の祖先が火を使い始めた頃を『第一次進化』、IT・AIを使いこなす現在を『第二次進化』、そして科学では証明できない超自然的能力をもつようになるこの先の未来を『第三次進化』として捉える考えであり、数ある人類の進化論の中でも異色のものである。授業で聞いた際もその理論は眉唾もので、想像力豊かな一般人の考えとそう変わりないように感じた事を覚えている。だが、そのトンデモ理論が自分と何の関係があるのかは全く見当もつかなかった。
「『第三次進化』として今のところ挙げられ
ているのは部屋の外にいても部屋の明かり
がついているか分かるとか、相手が右利き
か左利きか目を見れば分かるとか、本当に
超能力か疑わしいものばかりだけれど、確
かに科学では証明できない節がある。そう
した超能力まがいの力があなたにもあって
それが世界を滅ぼすの。」
戸惑う自分を尻目にいたって真剣に、凛とした佇まいで彼女は言い放つ。彼女の大きな瞳に吸い込まれるような感覚に襲われる。彼女の言葉は冗談のように聞こえるが、その言葉が確かな重さをもって自分の頭の上にのしかかっているのを意識せざるを得なかった。
「...俺にはそんな力はない。」
力なくそう言うので精一杯だった。発した言葉がひどく薄っぺらいことに自分でも驚いた。自分の中で何か引っかかることがあるのは明白だった。だがそれを認めるのはあまりにも酷で、無意識のうちにその考えを排除しようとしていた。いつの間にか手が汗でじっとりとしている。
「しばらく前からあなたは不運に見舞われる
ようになった。違う?」
その瞬間、脳裏に幼い少女の明るい笑顔が浮かんだ。ほんの出来心の願い、己に課した制約、不運が日常と化す兆し。否定しようとしたが喉からは何も出ず、ただ彼女を見つめることしかできなかった。静寂が部屋を包む。風に揺れるカーテンだけがこの空間の時間が止まっていないことを示している。
「...そうだよ。俺はある時から、日常的に
不運に見舞われるようになった。」
「それがあなたの能力。『自己犠牲の幸運』
と私たちは呼んでいるわ。その能力によっ
て一年後、地球に隕石群が降り注ぎ全てが
終わる。」
「まるで未来を見たみたいな口ぶりだな。」
振り絞った揶揄も、次の彼女の言葉に一掃された。
「勿論。私は未来からその運命を変えるため
に来たのだから。」
アンラッキー・ガール @Takasugie
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