第3話 彼女
「...は?」
何を言っているのか全く理解できなかった。隣の席に座る?コイツは一体何を言って...
「あなた、席変わってくれる?」
「えっ、あっ、ハイ...」
東雲は左隣の女子を笑顔で威圧して席を奪い取ると何事もなかったかのように席についた。
「東雲さんの席は一番後ろなのですが...」
「私目が悪いので前の席にします。今代わって
もらったので大丈夫です。」
「そ、そう。ならいいけど...」
凛とした佇まいで答える東雲に前林先生は圧倒されていた。とんでもない奴が隣に来てしまった。真面目でクールな美少女だと思ったがそんなまっすぐな人では無さそうだ。先程の笑顔も今の表情もどこか無機質で心は別のところにあるような感じがした。
「それじゃあ授業を始めます。委員長、号令
をお願いします。」
「起立」
ガタガタと音を立てて一斉に立ち上がる。
「志賀君、今日からよろしくね。」
「え?あ、よろしく...」
「礼!」
「お願いします。」
こうして彼女との長い長い学園生活が始まった。今思えば、この時からもう運命は決まっていたのかもしれない。いや、終わりに向かって動き始めたと言った方が正確だろうか。どちらにしろ、ここからが俺の本当の『運のない話』のスタートだということだ。
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「いやー今日も長かったねー。」
後ろを振り向いて眠そうにあくびをしながら瀬戸が話かけてきた。放課後を告げるチャイムが鳴る。
「ところで二人は知り合いなんだよね?移動
教室もずっと席隣に座ってたし、もしかし
てシガの元カノとか?」
「そんなわけないだろ。俺は全く知らない。
本当に何が何だか...」
東雲は俺に宣言した通り移動教室の授業も昼食の時間も俺の隣に座ってきた。ただ俺に話しかけてくることはあまりなく、必要以上には話してこなかった。交わす会話は授業や学校のことが中心でたまに俺について質問する程度だった。一方で俺が東雲について聞こうとすると「レディには秘密があるものよ、志賀君。」と流され何も聞き出せなかった。転校初日に席奪うような女子を俺はレディと認めたくはないんだが。
「私は志賀君の元カノではないわ。」
「えーそうなんだ。でも妙に仲良さげじゃな
い?見た感じ。」
席を外していた東雲がいつの間にか帰ってきていた。澄んだ瞳で二人を見下ろしている。
「私と志賀君は現在進行形で付き合っている
から。」
「えっ、そーなんだ。シガ言ってくれればよ
かったのに。別に言いふらしたりしないか
らさー。」
「!?ちょっと待て!...」
東雲と俺が付き合っている?そんな訳がない。今の今まで付き合ったことなんて...じゃなくて、そもそも俺と東雲は今日初めて会ったはずだ。意味がわからない。
「じゃあ、そういうことだから私達は帰る
わ。瀬戸君、また明日。」
「オッケーまた明日ー。シガ、ちゃんと送って
行けよ?」
「いや待て!、おい!...」
東雲に引きづられながらニヤニヤする瀬戸に見送られ教室を出た。
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「なあ、いい加減説明してくれよ。お前は一
体何がしたいんだ?」
「私は志賀君と一緒に帰りたいわ。いちいち
こんなこと言わせないでよ、恥ずかしいか
ら。」
「ならもっと恥ずかしがりながら言ってく
れ。まったく表情変わってないぞ。」
何故か俺は東雲と並んで若木町を歩いていた。若木町というのは学校がある町で若木駅
を中心にそこそこ栄えており、駅周辺には大きなショッピングモールもある。この時間帯は帰宅途中に寄る学生も多く、カフェで楽しそうに喋っている。
「じゃあ、今から私の家に行きましょう。」
「...は!?急に!?なんで...」
「だって志賀君は私の話聞きたいんでしょ?
私の家ならゆっくり話せるわ。今日は生憎
持ち合わせがないし、カフェでって訳にも
いかないから。」
「だからって...」
いきなり男を連れ込んで大丈夫なのだろうか。いやそもそもこんな女の家にのこのこついていって大丈夫なのだろうか。謎の美少女。このワードが現実世界に存在するとは思っていなかった。やはり俺の不幸体質は健在だ。今日一日特に悪いことが起きなかったが、今まさに悪いことが起ころうとしている。それもかなりやばいのが。
「それじゃあ行きましょうか。」
東雲に手を引かれ、仕方なく歩き始めた。
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