第16話中央地方カッセル05冒険者達の誤算

「先輩・・・逃げて・・・」



平地で腹這いのハンスを見つけ、走って近寄る。



「ハンス!どうしたんだ!みんなは・・・」



「しゃがんで・・・頭を」



ハンスの瞳が見開いた。



身の危険を感じ、とっさにトンネル内で成功させた水の属性防御魔法を部分的に出す。



バシャーン!



何かが防御壁に当たって飛び散った。



「先輩・・・しゃがんで」



言われた通りしゃがみ、ハンスを回復させた。



「助かりました・・・」



落ち着いたハンスに事情を聞くと、驚きの展開で言葉がでなかった。



アースドラゴンと一緒にトンネルを出た一行は、何回もやった演習通りに戦った。



序盤のブレス散開から四肢へのダメージを積み重ね、中盤の土の属性魔法と物理攻撃までは順調だった。



ただ、アースドラゴンが敵わないと判断すると発動させる土の高等魔法、ストーンロックに、ハンスをはじめ、エリオットパーティーとイルゼパーティーのヒールが追い付かなかった。



原因は、トンネルで下がりながらの連続ヒールによる魔力切れだ。



そもそもストーンロックという高等魔法は、対象者に岩が磁石のようにくっつき始め、最終的に岩柱にしていくという魔法だ。



これを破るには、継続的なヒールと体に付着した岩を集めるコア石を破壊することにある。



アースドラゴンの詠唱完了までにヒール、破壊のどちらかをミスると岩柱となり、その後、岩の中で死んでしまう。



平地に辿り着いたとき、見えた岩柱はまさかと思ったがやはりそれだった。



そこで全パーティー22人のうち、ヒーラーを含む7人が死んでしまった。



諦めムードが漂う中、見るに見かねた異国の剣士サムライが、全員下がれと指示を出し、アースドラゴンと一騎討ちをやりだした。



みんなに隠していたチートをここで見せたのだ。



ハンスの話からすると、風の属性魔法と剣術を合わせたスキル、疾風剣だ。



チートレベルの疾風剣相手に、土属性のアースドラゴンなど敵ではない。



おそらくサムライの攻撃は全てが致命傷のはずだ。



そしてハンスの話から察するに、以前ソードマンのヴェルナーさんから聞いた事のあるサムライの剣術のひとつ、抜刀術でアースドラゴンを真っ二つにしたのだろう。



それで終われば有終の美とまではいかないが、被害は最小限で済んだ。



ここで自分も全く予想できなかった事態が起こる。



アースドラゴン討伐に成功した矢先、天候が急変。



どんより曇ると、突風というより先程見たサムライの抜刀術が天から何発も降り注いだ。



最初、サムライが手柄を一人占めしようと自分達を殺しにかかったと思ったが、見るとサムライも攻撃を受けていたという。



そしてイルゼパーティーのエンシェント装備の魔法使いが、暴風の古龍だと叫んだ。



暴風の古龍・・・クイシャの襲来だ。



「そんなバかな・・・」



「イルゼパーティーの誰かが、そもそもアースドラゴンは、暴風の古龍から逃げてトンネルに入って来たんじゃないかと言っていました」



クイシャは、アースドラゴンが逃げ出すほど強いという事か・・・



「で、今の状況は?」



「クイシャの攻撃で、ほとんど死んでしまいました・・・」



「そんな・・・」



「・・・ベンさんもヴェルナーさんも・・・ゲルタさんも・・・みんな・・・」



説明しながらハンスの涙は止まらなかった。



みんなやられたのか・・・



こちらは土属性のアースドラゴン討伐を目的とした対土属性装備だ。同じ土属性の装備を多く使っている。



そうなると、防御的には風属性の攻撃にめっぽう弱い。



しかも暴風の古龍クイシャなんていう厄災に近いレベルの古龍では、生き残れという方が難しい。



「とにかく逃げようとしたんですが、飛んでいるクイシャからは全然逃げれなくて・・・」



なんとか状況を掴みたいので、平地を見渡すと、一際黒い空の下辺りに数人戦っている人がいた。



「誰か戦っているのか・・・」



見ると、異国の剣士サムライ、エンシェント装備の魔法使い・・・ヒールをしているのはエリオットパーティーの姉妹のどちらか・・・



槍で戦う姿も見える。



ハインツさんは生き残っていたんだ。



「ハインツさんがいるじゃないか!」



「いえ、あれはイルゼパーティーのアーチャの人で・・・」



矢が無くなったから死んだハインツさんの槍を勝手に使っているのだという。



「と、とにかく加勢しないと」



「先輩、すみません。自分はもう魔力がありません。魔力の源も使い切ってしまって・・・」



通常あり得ない展開での連戦だ。致し方ない。



「わかった。ハンスは下山して、町で救命パーティーを要請してくれ。僕もなるべくみんなで逃げきる作戦をとるから」



「わかりました」と、力なく言ったハンスは下山する道へ歩き出した。



その瞬間、一筋の何かが飛んで来てハンスの頭部を貫いた。



飛び散る脳ミソ。



「うわあああああああ」



大声を上げるしかできなかった。









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