第17話中央地方カッセル06冒険者達と暴風龍

「そこのバカ!動け!移動しろ!」



目の前のショックに頭も体も動かなかった。



カトリン先生も失った。



親方も死んでしまった。



長年、苦楽を共にした仲間も失った。



そして今、かわいい後輩までも失った。



なんなんだ・・・なんで自分だけこんな・・



フュルフュルと風を切る音が近付いてくる。



次の瞬間、ドンと背中を押され、地面に這いつくばった。



悲しみがすっ飛び、起こった事態を把握するため起き上がって身構えた。



「あんた、まだヒールできるの?」



異国の剣士サムライが、上空の一際黒い空気の塊を睨んだままそう言った。



黒装束ははたけ、頭部があらわになったサムライは女性だった。



「できるの?どうなの?」



また黒い空気の塊からフュルフュルと風が飛んで来きた。



サムライは素早く剣を鞘に納めると、タイミングを合わせ高速で抜くと飛んで来る風を欠き消した。



どうやらこれが抜刀術で、サムライにはあの風を相殺できる技があるらしい。



「で、できます。ただ遠い人には充分なヒールはできません」



「頭はちゃんと動いてるのね。いいわ移動しましょう!」



そう言ってサムライは、自分の移動速度に合わせ、離れず相殺作業をしながら残ったパーティーメンバーの所に連れてった。



「あ・・・クルトさん・・・あとは頼みます・・・」



残ったメンバーと合流した途端、エリオットパーティーのヒーラー、ニコーレは膝から崩れ落ちた。



「ようやった・・・」



エンシェント装備の魔法使いが労うと、ニコーレを回復してくれと頼まれた。



その間もサムライが、黒い空気の塊から来るハンスの頭を貫いた風を相殺する。



「おかしい、攻撃が単調すぎる・・・」



ハインツさんの槍をもったイルゼパーティーの人が、黒い空気の塊を睨んでつぶやく。



この状況、どうやらあの黒い空気の塊が、暴風の古龍クイシャなのだろう。



「なんか来るぞ・・・」



嫌な予感がする。



「走れぇ!!!」



突然、ハインツさんの槍をもったイルゼパーティーの人が叫んだ。



ニコーレが「え?」という顔をしたが、本能は構わず走れと言った。



瞬間、ニコーレを中心に竜巻が起こる。



その範囲はどんどん広がり、走る自分のすぐ後ろまで来ていた。



身体能力の低いヒーラーの自分には、この竜巻の広がる速度に勝てない。



諦めかけた瞬間、カトリン先生の防御魔法、水のドームをやれば・・・と閃いた。



しかし走りながらの詠唱は、集中力がままならず、うまく唱えられない。



もうどうにでもなれと、足を止めて詠唱に集中した。



体の周りをグルグルと風が通り過ぎる。



その度、チリチリと体を切り刻まれている。



風の音が大きくなる度に、刻まれる痛みが強くなる。



きっと中心に近付けば、バラバラに切り刻まれてしまうだろう。



その恐怖の中、サーと水のドームの魔法が完成した。



しかし風がドームをどんどん切り刻んでいく。



次第にドーム型の防御壁が薄くなる。



このままだと防御壁がなくなって、結局切り刻まれてしまう。



「クッソ!」



迷わず、やったこともない呪文の重ね掛けをする。



できるかどうかなんて知らない。



こっちだって必死だ。



ドームの壁が薄皮一枚ほどの時、なぜか重ね掛けが成功した。



しかしドームの壁は削られていく。



こうなったら魔力が無くなるまでやり続けてやる。



そう思って3重目を詠唱している時、竜巻が消えてった。



周りを見ると3人とも遠く離れた位置にいた。



あのエンシェント装備の魔法使いですら竜巻に巻き込まれていなかった。



心底、身体能力の低さに自分を恥じた。



「おーい、いい作戦、閃いたぜ!」



近付いて来たハインツさんの槍を持ったイルゼパーティーの人が言った。























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