第15話中央地方カッセル04冒険者の別れと決意

トンネルの天井が崩れ落ちる中、全力で走っているが、数メートル前に倒れている親方に全く辿り着かない。



今日ほど身体能力のマハトーマを鍛練しとけばよかった思った日はない。



瓦礫が落ちる中、なんとか親方の倒れている所まで走り寄れた。



急いで防御呪文を祈るように詠唱する。



詠唱中、落ちてくる瓦礫が怖くなるくらい増えてきた。



「ボウヤ、すまねー!」と微かに聞こえた気がするが、周りを確かめる間も無くすぐに天井が崩れ落ちた。



「大丈夫よ、クルトなら出来る・・・」



懐かしい励ましの声が聞こえたと思ったら防御魔法が発動し、全てを跳ね返す大きな水のドームが出来上がった。



そして、親方を抱き抱えながら魔法壁が崩れませんようにと、祈りながら目をつぶった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





どれくらいの時間が経っただろうか・・・



トンネル内の崩落が収まり、不気味なほど静かになった。



アースドラゴンがいたであろう場所を見ると、土砂でトンネルは塞がれ向こうが見えない。



慎重にトンネルの天井を見定め、魔法壁を解除する。



どうやらアースドラゴンは、作戦通りみんなと一緒にトンネルを出たようだ。



「親方、大丈夫ですか!」



「ク、クルトか・・・」



「親方・・・」



アースドラゴンのブレスの余熱でトンネル内が熱いのかと思っていたが、抱き抱えた親方の体温だと今気付く。



改めて親方を見ると、両目は潰れ、装備もススまみれで防具の隙間から見える皮膚は黒く爛れている。



アースドラゴンの炎のブレスを、後方で倒れていたとはいえ、軽減がなかったせいで全身火傷になっていた。



「みんなは・・・」



「大丈夫です・・・トンネルを抜けて・・・演習通り戦ってるはずです・・・」



親方は喋ってはいるが、生命力を感じない。



戦闘中に命の危険になることは少なくない。



その度に、自分が蘇生なり超回復で元通りの体に戻してきた。



ただ、それも魂に生きる力があるからこそできる魔法なのだ。



万能な回復魔法と言えど、再生力のない身体には全くと言って良いほど効果はない。



今の親方の体、魂からはそれを感じ取れない。



現に、継続的で丁寧な回復魔法をかけ続けているが一向に回復していない。



否応にもカトリン先生の時を思う出してしまう。



「俺の事はいい・・・早くパーティーに戻れ」



親方はもう悟っているようだ。



「クルト・・・みんなを頼んだぞ」



「・・・はい・・・」



別にこのまま親方といたっていい。



口減らしの自分にとって、拾ってくれた親方と娘のカトリン先生は家族以上だ。



全ての家族を失う自分にとって、仇のアースドラゴンはもうどうでも良かった。



そして親方が静かに息を引き取ると、しばらく泣いた。



出会いから今までの事が次々と思い出され、何度も泣いた。



涙が枯れると、復讐というより単純にアースドラゴンを討ち取りたい衝動にかられた。



怒りではなく、今を乗り越えるための試練に思えた。



いや、違う。



なにかをしてないと、悲しみに押し潰されそうだったから自分で試練に置き換えただけだ。



そして塞がれてないトンネルを出て、山道を行き、みんなのいる向こう側へ行こうと決心した。



暗いトンネルに親方をひとり置いていくのは、とても心苦しかった。



後で必ず迎えに来ます。



そう心に誓い、振り向かず走った。



走りながらまた泣いた。



トンネルから出たヘッセン山の中腹は、それなりの下り坂だが、反対側に出るのにそこまで時間はかからない。



足場の悪い山道を抜ければ、少し開けた平地に辿り着く。



目の前の風景がだんだん変わってきた。



もう平地は見えている。



そして・・・辿り着いて愕然とした。



晴天だったはずの空はどんより曇り、今にも雨が降ってきそうで、開けた平地には身の丈ほどの岩石がいくつも並んでいた。



そして岩石付近には、パーティーメンバーの死体がいくつも転がっている。



一番驚いたのは、硬い甲羅を持つアースドラゴンが真っ二つに引き裂かれ、すでに死んでいたことだ。



作戦は、終盤に遠隔アタッカーの四肢によるダメージで動きを止め、近接攻撃の3連撃で頭部にトドメをさすものだった。



どれだけシナジー効果を充分に乗せた3連撃が強かろうと、アースドラゴンの甲羅までは破壊する事はできないはずだし、真っ二つで死ぬなんてあり得ない。



「先輩・・・逃げて・・・」



ハンスの小さい声が平地のどこかで聞こえた。



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