第14話中央地方カッセル03冒険者達とアースドラゴン

「エリオットパーティー!ドラゴンのブレスは更に奥へ伸びます!イルゼパーティーのいる位置まで下がってください!ハンス!」



「大丈夫です!前衛への炎軽減と継続ヒール、交互に出します!先輩は親方の元へ!」



「エリオットパーティーのヒーラーはハンスの補助を!そのまま前衛5人を頼みます!」



「ニコーレ、前衛5人を溶かすんじゃないよ!15秒!気合い入れるよ!」



「ねーちゃん、いちいちうるさい!」



3人が踏ん張ってくれている間に、自分はアースドラゴンの足元に倒れている親方の所へ行って蘇生を施さねばならない。



アースドラゴンは予定していたヘッセン山の中腹の草原ではなく、抜け道のトンネルで鉢合わせになった。



この予定外の鉢合わせの時、先頭を歩く親方はアースドラゴンの攻撃をひとりで請け負った。



「熱っ!」



エリオットパーティーのヒーラーが、前衛の受ける炎に当たったようだ。



吐かれる炎でトンネル内が一気に熱せられる。



この状況の中、どうやったら親方の所まで行けるか考えていると、下がれと指示を出したエリオットパーティーの遠隔アーチャーが戻って来た。



「なんで言った通りにしてくれないんだ・・・」



「ボウヤ!まだ立て直せるぜ!」



愚痴ったが、トンネル内の高温のせいもあって、パニックの自分はこの曖昧な提案にすがるしかなかった。



「何か良い方法があるんですか?」



「ボウヤ、ここから出すんだよ」



「出す?」



「食い止めるんじゃなくて、トンネルを一緒に出るんだ。まずはアースドラゴンを親方から遠ざけねーとな」



「確かに・・・」



「この抜け道のトンネルだが、人間には大きいが、ドラゴンには入り組んで狭すぎる。だからよぉ・・・」



エリオットパーティーの遠隔アタッカーは、下がりながらトンネルの天井を破壊し、トンネルを狭めてドラゴンの不安を煽るという作戦を提案してきた。



これならアースドラゴンが、下がっても進んでも親方の所にはたどり着ける。



ただ、逆に自分はアースドラゴンに近付いていかなくてはならない。



「でも、そんな事をしたら親方が生き埋めになりませんか」



「大丈夫だ。天井を崩すのは、親方のいる位置を越えてからだ。そこまでは下がりながら様子を見る。まあ、天井が柔かったら一気に崩れて生き埋めになっちまうが、そこは親方の運次第だ」



親方の・・・



「わかりました。僕は前衛のうしろから隙を見て親方に近付きます!」



「ボウヤ、勝とうぜ!」



この何気ない勇気付けが、なんだか心に響いた。



改めて、自分はエリオットパーティーの面々を誤解していたんだと心底思った。



「では、天井の方はお願いします!」



「マイヤー姉妹!下がりながら天井を壊すからよー、5分くらい踏ん張れ!」



「えー!ムリ!」



「無茶言うな、クソオヤジ!」



「すみません、誰かイルゼパーティーのヒーラーふたりを呼んできてください!5人でお願いします!」



「ん、もうぉ!」



エリオットパーティーのヒーラーは渋々作戦を受けてくれた。



自分は前衛の5人にうしろから作戦を伝え、ジリジリと下がってもらうよう頼んだ。



前衛の5人は快く承諾してくれたが、炎を受け続け装備の1部が赤くなっている。



自分は高レベルの炎軽減と継続ヒール、更に敵視をあざむく風の属性魔法で、霧の流れを身に纏う。



「ボウヤ!作戦開始だ!」



そう言って、全員徐々に下がり始めた。



自分達が逃げると思ったのか、アースドラゴンは炎のブレスを吐き続け、ノシノシと前進してきた。



「よし!奴さん、前進してきたぞ!」



「どこが15秒なの!息継ぎして何回も繰り返すじゃないのぉ!」



「ニコーレ、愚痴る暇あったら瓶で魔力補充して!」



「同時はムリ!」



連続高ヒールで、エリオットパーティーのヒーラーふたりの魔力が尽きかけている。



「イルゼパーティーのヒーラーと一瞬代わりましょう!」



ハンスがたどり着いたイルゼパーティーを見るや、的確な指示を出す。



よし、これなら行ける。



自分は前衛の影からアースドラゴンに向かってゆっくり歩く。



炎軽減魔法を施しているが、アースドラゴンに近付くにつれてブレスの炎が物凄く熱い。



でも熱さをこらえ、アースドラゴンの目の前まで来た。



狭いトンネル内を順調に進めている。



霧のカモフラージュのお陰で、どうやらこちらに気付いてはいない。



「やべぇ、はや過ぎた!」



その言葉を背中で聞いたときには、天井から大量の瓦礫が落ちて来るのと同時だった。



今、親方はアースドラゴンの後ろ足の位置にいる。



自分との距離はほんの数メートルだ。



ただ自分はヒーラーなので、100キロ以上ある親方を担いで走れない。



とっさにカトリン先生が最後に使った、水のドーム型の防御壁を思い出した。



一応教えてもらってはいるが、高難度の魔法のため自分はまだ実戦で使ったことはない。



でもこれしか方法がない。



やったことはないが、一か八かで賭けるしかない。

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