第13話中央地方カッセル02冒険者達の演習

~中央地方の田舎町カッセルから南、ランメルス平原~演習



「そう、ドラゴンのブレスを吐かせて、そう、その場で前衛の6人で壁を作りブレスを受けて下さい。大丈夫、長くても15秒です。その間、我々がヒールと軽減魔法をしますから。はい、同時に我々が東、イルゼパーティーは南へ、エリオットパーティーが西へ移動です!」



「あぁ?西?さっき左って言ったじゃねーか」



「いや、左って言ったのに、東西南北で言えって言うから・・・」



またか・・・これで5回目だぞ・・・



「わからんヤツらだなぁ!ブレスを前衛6人で受けるから、アタッカーは両サイドに散って攻撃する。単純なことだろうが!」



うちのベテランランサー、ハインツさんが説明の途中で前に出て来た。



「東西南北で言ったり、右左に変えたりするからわかんねーんだよ!」



「いや、東西南北で言えって言ったのは、エリオットさんですよね?」



「あぁ?わかりやすく言えって言ったんだよ!」



「えーい、今日の演習はこれで終いだ!」



親方が見るに見かねて演習を終わらせた。



「あと、パーティーリーダーふたりは俺のとこに来てくれ」



「っち・・・」



演習初日なのに恐ろしく疲れた。



ヘッセン山のアースドラゴン戦を想定しての演習だが、24人の行動を合わすのは一筋縄では行かないようだ。



「クルト、大丈夫か?」



ソードマンのヴェルナーさんが、肩にポンと手を置いて気にかけてくれた。



「あれでよくA級モンスター倒せてるよね・・・」



小走りで近付いてきたアーチャーのゲルタさんも愚痴をこぼす。



「おいっ!」



ドスの効いた声に振り返ると、エリオットパーティーの遠隔アタッカーふたりが、ふてぶてしく近付いてきた。



Aランク品の装備が何ヵ所か見えるが、それ以外が野蛮過ぎて絡みづらい人種に見える。



「すまんな、俺らチーム戦といっても馴れた8人以外、やったことなくてよー」



「ワシら遠隔アタックパーティーだでよぉ、どっしり据えての攻撃ばっかでなぁ・・・」



「モンスターの攻撃に合わせて散開とか、初めてだからよー。まあ、エリオットもなんとか足引っ張りたくねーから必死みてーなんだわ」



「あ・・・そうなんですか・・・」



外見からは想像がつかないくらい物腰が柔らかい。



ふたりが言うには、いつも多少のダメージがあっても、その場で練り上げるタメの長い技や、詠唱時間の長い高火力の魔法を発動させているらしい。



なるほど、通りでヒーラーふたりが優秀な訳だ。



「でもアースドラゴンのブレスは前衛の6人以外、耐えれません。その6人で壁を作る感じで受け、その隙に散開してダメージを極力受けないやり方でないと、あっという間にヒーラーの魔力切れで全滅です」



「あーなるほどな・・・」



エリオットパーティーの遠隔アタッカーふたりは、一言二言交わし納得したみたいだ。



「あとよー、アースドラゴンの大きさって、20メートル位だっけ?」



「甲羅が直径20メートルですね。巨大な角の生えた亀って感じです」



その間、このやり取りをイルゼパーティーの面々が見向きもせず、ゾロゾロとランメルス平原をあとにする。



「ほぉ、亀かいな・・・この後、ワシらなりに復習しとくでよ、また明日頼むわ」



そしてふたりは、他のエリオットパーティーと合流し、演習場のランメルス平原をあとにして宿屋へと帰って行った。



「意外と・・・あれだったわね・・・」



アーチャーのゲルタさんの言いたい事はわかる。



「エリオットパーティーの考え方があれなら大丈夫だな」



歩み寄って来た自分のパーティーメンバーが、各々演習の感想を言っている。



「話がわかるなら修正して行けば大丈夫だ」



「まあ、ブレスなんて序盤の攻撃だ。本番は土属性の魔法と、地形を使った攻撃、ドラゴン自体の物理攻撃だしな」



「ブレスごときの処理に手こずってちゃあ、討伐なんて無理じゃ」



こちらはアースドラゴンを討伐寸前まで追い詰めている実績があるだけに、他のパーティーがついて来れるかは気になる。



まあ、戦いの流れがわかっている分、他のパーティーを導く事もできるし、初見が集まって手探りでやるのとは訳が違う。



「飲み込みが早いと良いんだがな」



愚痴を言うだけ言うと、自分達のパーティーメンバー数人もランメルス平原を同じ様に下って行った。



「クルト先輩~」



平原で行った演習用の模造品と、目印の木々を片付けてもうひとりのヒーラー、ハンスがやって来た。



「あぁ、お疲れ。片付けありがとう」



「いえ、ベンさんが手伝ってくれたので!」



「あぁ、あとでベンさんにお礼言わなきゃ・・・」



「先輩、疲れてますね・・・」



「うーん、まあね・・・あと2、3回で形にしないと、雨期が来たらまた1年以上待つから・・・」



「それより、見ました?顔まで黒装束の異国の剣士!サムライって言うらしいですよ」



ハンスは外国人が珍しいようだ。



「ああ、見たよ」



「刀身が細いんでびっくりしました!ヴェルナーさんに聞いたらカタナって言う武器だそうです!」



「へぇー」



「チート持ちって言ってましたけど、なんのチート持ってるんですかね?」



「ハンス、一応チート持ちっていうのは伏せてあるんだから・・・あまりその話題にならないようにしてよ?」



チート持ちがいるとわかれば、チーム戦は成り立たない。



神の領域に辿り着いた能力者がいるとわかれば、自ら危険を冒さず、そいつに全部任せるからだ。



「チートはあてにせず、自分達の作戦を遂行する。ですね!」



「うん。でも、ハンスのヒールはあてにしてるんだから頼むよ」



お互い笑いながらランメルス平原を下りだした。



最後に振り返ると、親方とパーティーリーダー達はまだ話し合っていた。



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