第11話中央山岳地帯ジュノ、09貧しい村の悲しい事情

「なんでカールの帽子が大蛇の巣にあるんだ・・・」



俺はすっかりバウルを殺した格闘家の事より、泣き崩れるカールが気になり出した。



そして沈黙のあと、カールが止まらない涙と共に口を開く。



エサを与え飼い慣らした人喰い大蛇は、カールが人を喰わすために村へ引き入れていたんだと言った。



「さっきも、僕を襲いに来たんじゃなくて、いつも僕が持って来る食料が欲しくて寄ってきたんです」



最初、何を言ってるんだと思っていたが、思い返せばだいたいカールが被害の第一発見者だ。



カールは詰まりながら、大蛇を使っての殺人は村の一部の人からの要望だったと言った。



理由は冬の食料を残った村人に多く配分するためだと言う。



「いや、毎年みんな平等に分け合ってるじゃないか!」



隊長はそんな理由、納得いかんと怒るが、カールは冬の口べらしのために3年前、祖父母が犠牲になっていると大きな声で怒鳴った。



みんな言わないが、隊長は村長の息子なので食料の取り分は多い。



そして、村長から血筋が遠くなるほど分配される食料は減っていく。



俺は叔父さんから聞いていて、村の忖度は知っていた。



「そんなバカな、食料庫には平等に分けた袋が・・・」



「確かに袋はその家の人数分ありますが、中身は石や砂だったりするんですよ・・・」



俺の家は叔父さんが農民の総代だし、隊長とも親戚だ。



とても近い血筋になる。



そにため冬の食料に困った事はない。



「おじいちゃんとおばあちゃんは、村の警備隊になる僕に・・・村のために働くんだから沢山お食べと、そう言って自分達は食べずに死んでいきました」



カールの祖父母は病気で死んだって言っていたが、本当は違ったのか・・・



「全然知らなかったっす・・・」



そうやって暗黙の差別は、脈々と受け継がれていたんだとカールは言う。



「言ってくれれば・・・」



隊長を睨むカールは、不満を言えると思っているのか?そんな表情だった。



「大蛇は口減らしだけが目的じゃないんです・・・」



村の虐げられている人達は、農地の割り当ても不満に思っているのだという。



「特に親父さんが亡くなってからのトーマス達はろくに働かず、出来る野菜は家畜のエサにもならない物ばかりで」



カールの愚痴は止まらなかった。



先日死んだノア一家もそうで、一番良い農地を任されているのに、ろくに働きもせず収穫量は荒れ地の農地と変わらない程で、それでいて冬の割り当てられる食料は多い。



「ノア家もうちの親族だな・・・」



カールが言うには、トーマス達やノア家、他にも大蛇に喰わせた農家の収穫量がちゃんとしてれば、村の出荷物は増え、貰う金も多く冬の蓄えも沢山できた。



「やる気がないアイツらの農地を、やる気のある人が作って少しでも金を増やしたかった」



昔、村の農地は個の物ではなく、持ち回りで作る当番制だったらしい。



それが今の村長の祖父の時代に、家の固定でやろうと言い出し変わってしまったそうだ。



「それを・・・」



泣いていたカールは、次第に怒り狂う鬼の形相になり、しばらくして喋らなくなると一気に落ち込んだ。



「でも、苦しかった・・・」



「カール・・・」



「村のために頑張れと言ってくれた、おじいちゃんおばあちゃんの思いを踏みにじっているようで・・・」



そうだ、別に大蛇の巣にカールの帽子があったからといって、カールが大蛇を操っている証拠にはならない・・・それを洗いざらい隊長や俺に話さなくてもいいはずだ。



いや・・・祖父の形見の帽子というワードが、18人もの命を奪ったカールの良心を呼び覚ましたのかも知れん。



「とにかく・・・これは俺ひとりで判断出来ることじゃない」



うなだれたカールを立たせ、大蛇のいた山をあとにした。



これから村に帰り、カールの事、農地や冬の食料の事、それからこの村の平等なあり方、それらを本音で話し合う事になるだろう。



それから、村を救ってくれたバウルの死は、俺から王都に報告しようと思う。



真実を語って俺の命が格闘家に狙われたとしても、竜騎士バウルの死は無様であってはいけないと思ったからだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る