第10話中央山岳地帯ジュノ、08貧しい村に来たもう1人のお客のウソ

「こ、これは・・・」



俺達が炎のバリケードで待機していたであろう場所も大蛇がいたであろう場所も、地面が大きくえぐられ、木々は根っこを晒し全て倒されていた。



この状況を言葉に表すなら、地面を巨大スプーンですくい取った・・・そんな感じだ。



そして、えぐれた底の中心辺りに、頭部から胴体の半分以上が無くなっている大蛇の死体が転がっていた。



壮絶な光景に3人とも唖然とした。



「バウル殿は・・・」



隊長がおもむろに呟く。



そうだ、大蛇討伐の立役者がどこにもいない。



何か嫌な予感を感じ、各々辺りを探し始めると、俺はなぎ倒された木々の影にバウルの大槍を見つけた。



急いで近寄ると、そこには格闘家もいた。



格闘家はゆっくりと歩き何か言っている。



「悪いが貰って行くぞ」



「ヒィィィ」とバウルのひきつった声が聞こえた。



何かヤバい気がして倒れる木々を飛び越え、格闘家の近くに着地した。



そこには手足から血を流し、座り込むバウルの胸に格闘家の右手がめり込んでいる異常な光景があった。



「っち!」



舌打ちする格闘家は、めり込んだ右手を抜くと、ゆっくり俺の方を見た。



その右手には大きな赤い宝石があり、格闘家の向こうで崩れるバウル。



格闘家の表情は今まで見たことがない程冷たく、その目は先程の大蛇に似ていた。



俺は一気に血の気が引き、背筋と額に冷たい汗が滝のように流れるのを感じる。



次第に足と歯がガタガタと震え、絶対殺されると思った。



「マルクス!」



そう呼ぶ声が木々を越えて聞こえたとき、格闘家の顔が普段見る表情へと変わっていき、右手に持っていた宝石は不思議と消えていた。



「バウル殿は!そこにいるのか?」



隊長とカールが木々を越えて俺の後ろに立った時、格闘家が隊長に向かって、バウルを手当をしたが息を引き取ったと嘘を言った。



「そ、そんな!」とバウルの死体に駆け寄る隊長とカール。



「バウル殿!」と叫ぶふたりの背後で、格闘家は「喋ったら殺す」と俺の耳元で囁いた。



俺の頭はパニックと恐怖で一杯だ。



「どうやらドラゴンドライブの衝撃にバウルの体がもたなかった様だな」



淡々と喋る格闘家だが全部嘘だ。



今、バウルの胸から心臓・・・いや、宝石・・・赤い大きな宝石・・・え・・・な、なんだ・・・俺は何を見たんだ・・・



俺が先程見た出来事に整理がつかないまま、話しはバウルの犠牲の上に大蛇討伐が成された事になっていく。



「あの地面の衝突跡と、手足の裂傷から見ても壮絶な技であることは理解できる・・・」



「まあ、あの肥満体型で着地すりゃあ、そうなるわな」



いや格闘家が手足を切り裂き、動けなくしてから殺したんだ。



頭ではわかっている。



ただ、バウルの体から赤い宝石が出てきて死んだことが理解できない。



「死因は出血多量と心臓麻痺だな」



なんだこの違和感・・・



バウルを簡単に始末できる格闘家ならゴブリンに手こずっている俺達なんて3人いようが簡単に殺せるだろうに・・・



格闘家の真意がわからない。



「あ、そうそう、言い忘れてたが・・・」



格闘家はおもむろに、帽子をひとつ隊長に手渡した。



「これは?」



「この前、大蛇の汚ねぇ巣を探し当てた時、巣の中にこの帽子だけ、何故か綺麗なまま落ちてたぜ」



隊長がゆっくりカールの方を向く。



「これは・・・お前のだな?」



よく見ると、それはカールが毎日被っている帽子だ。



そういえば、忘れたと言って今日は被ってない。



帽子を受け取ったカールは、その場に座り込んでしまった。



「その帽子は、じいさんの形見・・・だったよな」



じいさんという言葉に、カールの何がが外れ、声を上げ泣き出した。



「なるほど、そういうことか」



「謎が解けたぜ」と言い、何を解いたのかわからないが、格闘家は無言のまま山を下って行った。



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