第5話中央山岳地帯ジュノ、03貧しい村に来たお客

「おーい、大変だ!討伐隊が・・・」



朝の見回りを終え、警備小屋に戻るとカールが帽子を押さえ血相を変えて走って来た。



「もう来たのか!」



隊長は休憩室で朝食を食べていたのに嬉しそうに出て来た。



「いや、それが・・・」



「なんだ、カール言ってみろ」



帽子で顔を隠すカールに隊長の表情が強ばった。



「たったひとりで・・・」と話すカールのうしろからガタイのいい長身の男が現れた。



格好からしてモンクか、それともただの格闘家か・・・



どちらにせよ、ひとりで丸腰だ。



こんなんで人喰い大蛇を倒せるのだろうか・・・



「おいおい、なんか勘違いしてねーか?」



3人は一斉にその男の顔を見た。



「俺は旅人で、山は大蛇が出るっていうから迂回路が知りたいだけだ。無駄な戦闘は避けたい」



「な、なーんだ・・・」



「なんだは失礼だな」とお互い苦笑いをする。



今日、人喰い大蛇討伐に、王都から討伐隊が来るんだという話を旅人に説明していると、俺の叔父さんがひょっこり現れた。



「おーい、マルクス!王都から来たって言う人を連れてきたんだがー」



「王都から派遣された竜騎士バウルだ!よろしく頼む!」



そこには大荷物を持った、やや太った中年の男性が立っていた。



「で、これが王都からの派遣要請証だ」



「え・・・と・・・」と、一瞬で笑顔の消えた隊長の顔は、今日二度目だった。



「お、お疲れっす・・・と、とりあえず中へ・・・」



戸惑いながらも警備小屋にその竜騎士バウルを通す。



カールは大蛇が出る山を回避するルートの地図を見せるため、旅人を小屋に入れた。



「自己紹介が遅れました、私、この村の警備隊長で」



「いやぁー、それにしても蒸し暑い村ですなぁ」



「は、はぁ・・・」



「早速だが、被害を出している大蛇っていうのは?」



「あー、はい、討伐依頼書にも書いたんですが、裏の山から来ていまして、被害はすでに村人17名。いずれも即死です」



「即死?ん、17?増えた?」



「ええ、先日もまたひとり。それで、現場の形跡からですが、体長は15から20メートル。空腹になったら山から降りてきて村人を補食していると思われます」



「15から20メートル・・・」



腕を組み、警備小屋の天井を見上げるバウル。



なんか・・・このバウルっていう人・・・大丈夫か?



もしかすると、王都は辺境の小さな村の依頼なので、適当なヤツを派遣したとか・・・



「あのぉ、バウル殿、他にも討伐隊の方々って来るっすか?」



聞いた瞬間、竜騎士バウルがこっちを睨んだ。



「ワハハハハハ!」



「おい!マルクス!失礼だぞ!」



「いや、結構、結構!」



腕組みをして笑ったバウルが、持ってきた大荷物から1本の大槍を出してきた。



「討伐隊は私ひとりだ。いや、ひとりで充分だと思っている」



それからバウルの自己紹介が始まった。



「私はドラグーン王国の特殊部隊、竜騎士隊所属で、主に王都に配属されており~」



「ご存知の通り竜騎士は、」と、長い話が始まった。



要するに国家任務だけに出動する特殊部隊の竜騎士は、ひとりでも普通の騎士10人分の戦闘力があるとされ、それこそ討伐10人隊に匹敵するらしい。



今回、死者も多く、緊急依頼だったので特別に竜騎士の派遣が決まったという。



「並みのモンスター討伐で、竜騎士が派遣されることはありませんぞ!」



隊長の必死の願いが、王都の特殊部隊派遣に繋がったらしい。



あと自慢話だろうが、竜騎士の中でも20メートルを越す跳躍力の者だけに、このバウルの持つ大槍、ゲイボルグが与えられるらしい。



「まあ、ここだけの話、私の脚力はチートに達していて、竜騎士の跳躍秘技ドラゴンドライブは竜騎士隊イチと言われてましてな!」



「ほう!チート!」



話しに割って入ってきたのは、カールから迂回路の説明を受けていた旅人だった。



「チート持ちに会うのは初めてだ!」



「おっとこれは、是非とも内密にお願いしたい!なにせ王都特殊部隊の極秘事項ですからね」



ところが、これが変な事になってしまった。



是非ともチートの技が見たいと、旅人がごねて大蛇討伐についていくというのだ。



見た目の通り、自分はモンクではないが格闘家で、冒険者としてもそれなりの経験を積んでいるから身を守る程度はできると言う。



これには隊長も慌てたが、バウルが変に言いふらされても困ると言い、秘密を守る条件と身の安全を保証しなくていいならと、見学を許可してしまった。



隊長もいくらなんでもそれはダメだと言ったが、旅人は一向に引き下がらなかった。



「では、今日は現場の下見をして・・・夜は一席設けてくれると明日の討伐に勢いが付くのだが・・・」



バウルが急に宴の席を設けろと言い出した。



「わ、わかりました。なにぶん貧しい村でして、満足の行くもてなしはできませんが、夜に酒の席を用意します」



俺を含め、みんなバウルに変な違和感を感じ始めた。



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