第4話中央山岳地帯ジュノ、02貧しい村の事情
朝、村の見回りは警備隊の業務だ。
警備隊といっても3人しかいないので、隊と付けるのに違和感はある。
更に警備隊の隊長は、王都に出掛けていて4日もいない。
実質ふたりである。
「おーい、マルクス!トーマスも殺られちまったって言うじゃねぇか。王都に討伐依頼を出したって聞いたけど、収穫量が減りすぎてこのままだと越冬の金が足りねぇぞ!」
愚痴りながら近寄ってきたのは、村の農家総代の俺の叔父さんだ。
「そうは言っても叔父さん、みんな死んじまったらどうにもなんねぇっすよ」
「そりゃそうなんだけどよぉ・・・」
叔父さんの言ってることもわかる。
冬に農産物がなにも取れないこの村は、それこそお金で穀物から肉、野菜、着る物まで買わないと厳しい冬は越せない。
だからといって、このまま大蛇を放って置いたら冬までに村人全員喰われてしまう。
「おーい!マルクス!大蛇が出た!」
じいさんから貰った形見の帽子を押さえ、走りながら大声で叫ぶのはもうひとりの警備員カールだ。
「トーマスさんの畑を見に行ったエミリアさんが殺られたんだよ!」
「マジっすか!」
「なんてこった!すぐそこじゃねぇか!」
前回と同じ現場にまた出るとは・・・
大蛇が同じ場所に出るのは最初の現場以来だ。
「ちっくしょう!」
急いでトーマスさんの畑に向かったが、エミリアさんの姿はなかった。
血だらけの畑には、エミリアさんの物と思われる靴と、うねった大蛇の形跡だけ残っている。
「ちっくしょう・・・」
「マルクス、やっぱり僕達で探して殺ってやろうぜ!」
「カール、バカな真似はやめろっす。隊長に言われたの忘れたっすか・・・」
ゴブリン相手に良い勝負してる俺達では、死にに行くようなもんだから行くなと釘を刺されていた。
「俺達は見回って、大蛇が来そうな所を村の人が近寄らないようにするしかできないっす」
「・・・そうだったね、バカなマネは止めよう・・・」
カールと俺がうなだれて警備小屋に戻ると、村人が大勢集まっていた。
「隊長さんが王都に討伐依頼、出したんだって?」
「村長の息子だからって、肝心の村長に何の相談もなしで良いんかね?」
「まだ収穫が終わってねーのに、こうも畑の主ばかり殺られちまってどうすんべ」
「討伐報酬払っちまって、この冬は越せるんかえ?」
「もし報酬金が蓄えより高かったら、それこそどうすんだ!」
俺達が着くや否や、みんな言いたい放題言ってきた。
「待ってくれっす!このまま放っておいたら、それこそ冬までに村のみんな喰われちまうっす!」
「マルクス、お前、警備隊なんだからなんとかせい!」
「カールもそうよ、そのために高い装備品揃えたんだから!」
「やってやりたいのは山々なんっすけど、とても僕達じゃあ・・・」
カールは形見の帽子のツバを下げ、申し訳なさそうに言う。
「そうは言っても警備隊なんだから少しはやってもらわねーと!」
「そーだ、そーだ!」と、村の人達の不満と不安が一気に爆発した。
もう、若者ふたりには手に追えず、詰め寄る村の人達に後退りしていると、大きな声でうしろから近寄る人がいた。
「みんな、もうその辺で許してやってくれ」
討伐依頼を出して帰って来た隊長だ。
「緊急依頼で王都に申請してきた。明後日、討伐隊が到着する手筈だ。そうしたらまた日常が戻ってくる!」
「そ、そうか・・・それなら良いんだが・・・」
「まあ・・・隊長さんがそう言うなら・・・ねぇ・・・」
なんか歯切れの悪い返事だが、一応納得したようで村の人達はそれぞれ仕事へと戻っていった。
「あ、トーマスさんの畑から山に向かっての道へは近寄らんで下さいよ!」
カールが叫ぶが、みんな聞いているような聞いていないようなだった。
「ふたり共、苦労をかけたな・・・」
やつれた顔の隊長はこちらから見ても疲れているのがわかる。
討伐依頼の申請をするため、急いで山をふたつ越え、一泊もせず帰って来たのがよくわかる。
「討伐隊のために、山への地図と携帯食料を準備しよう・・・」
「それは俺とカールでやりますんで、隊長は休んで下さいっす」
「そうか・・・すまん、ちょっと寝かせてもらうわ・・・」
余程疲れたのだろう。
隊長は警備小屋の休憩室へ背中を丸め向かって行った。
あんなに疲れきった隊長を見るのは初めてだ。
そして討伐隊の準備をふたりで取りかかった。
これで村を襲った大蛇事件も解決するだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます