【chapter4】民の文

「姫さま、そろそろお召替えを。」


そう言って、メイドがコーラルレッドのドレスを手にやってきた。


お昼を過ぎメイド服も変わっている。


午後用の仕着せは、真っ白なエプロンにフォーマルなブラックワンピースだ。


こちらは60を過ぎた彼女にもよく似合っている。


私がバスルームに向かうとメイドが髪を洗ってくれた。


「本日、王子は少々ご到着が遅くなるそうですよ。」


(なぁんだ。それならこんなに早く準備しなくてもいいじゃん。)


私が内心そう思っていると、何でもお見通しのメイドが


「ご準備は早めに越したことはございませんよ。」


そう言って微笑んだ。


バスルームから部屋に戻ると、若いメイドがアロマオイルとボディミルクを全身に塗ってくれる。


しっとりとした肌にローブを羽織るとヘアセットが始まった。


髪を乾かしアクセサリーがわりに小さなティアラを頭上に乗せた。


ドレスに袖を通すと姿見に全身を映す。


胸元のビジューがキラキラと輝いて美しい。


日中用のシンプルなシルエットも好きだが、夜会用のドレスには光り物があしらわれているので気分が上がる。


「王子がお見えになるまでいかがなさいますか?」


メイドが尋ねる。


「そうね、民へふみを書くわ。バトラーを呼んでちょうだい。」


ほどなくして、バトラーが紙の束を手に石段を上がってきた。


民からの封を開封し、写真、手紙、封書をひとまとめにしたものを複数持っていた。


私はバトラーから綴られた文を受け取ると、手早く仕分けした。


「こちらは保管してちょうだい。こちらは返事を書くわ。下がって結構よ。」


そう言って半分を持ち帰らせた。


手早く仕分けをしたのには理由があった。


バトラーから受け取った綴りの中に、先日投げキッスをした男性の写真を見つけたからだ。


彼の顔を見た瞬間、頰があからむのを感じる。


周りのものに悟られないよう、使用人を階下に降ろすと私はひとり羽根の付いた万年筆で文をしたため始めた。


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