【chapter3】窓下の民
父と母は、離れた場所で私とは別の城に住んでいる。
「使用人を連れて海を渡りたい。」
そう言った時に、2人は反対もせず送り出してくれた。
私が止めても聞かないとわかっているからだ。
城にはバトラーやメイド、ゲイトキーパーなど総勢100名ほどが従事していた。
まだ若いメイドが「姫さま、パンを召し上がるようでしたらお飲物をご用意いたしましょうか?」
私の持ったカゴに視線を向けながらそう問いかける。
彼女には午前中用の仕着せがよく似合っていた。
「そうね、紅茶をお願い。」
そう言うと、メイドが石段を降りていく。
私は、素早く窓辺に駆け寄るとカゴに入っているパンを一つ外へ放り投げる。
しばらくすると「パンだ!パンだぞー!!」そう叫ぶ男性の声が聞こえてきた。
その声を合図に大勢の民が塔の窓を見上げる。
私が笑顔で手を振ると民から歓声が上がった。
空に向かって両手を伸ばす民に向かって次々とパンを投げる。
眼下を見下ろすとそれぞれがパンを分け合って嬉しそうに頰を緩ませていた。
その様子を見ていると、背中を丸めた老婆と乳児を抱いた若い母親に目が止まった。
私は、おもむろに羽根枕とシルクのブランケットを掴むと窓から投下する。
羽根枕は老婆に、ブランケットは乳児を抱いた母親に受け取って欲しかった。
枕は幾分形状があるので、老婆のすぐ近くに着地した。
周りの民も私の意向を汲んだようで、誰1人として横取りしようとするものはいない。
老婆が空高く
一方、ブランケットは風に舞い、幾度も方向を変えながらヒラリヒラリと地上に近づいていく。
母親の元へ…と思って投げたのだが、数人横にいる背の高い細身の男性がキャッチしてしまった。
私は、少し残念に思いながら右手の人差し指を立て、3つ横にずらしてみる。
そして、赤ちゃんを抱っこしたジェスチャーをしてみた。
すると、その男性は何かを察したのか周囲をキョロキョロと見回す。
そして、私が目で追っていた若い母親を見つけると、そっと乳児にシルクのブランケットをかけた。
私が心優しき民の行いに
照れ笑いしながら恐縮している男性の様子から誠実さが伝わってきて、
(あの民と話してみたいな…。)
フッとそんな思いが私の中をよぎった。
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