#19 敵本陣で強敵と相対する童貞



 いやー、改めて感じるけどさ。

 自称〝愛の女神〟セレスティアが寄越したこの祝福ギフトって、マジでチートだわ。


 その内の一つである【不屈の肉体※】。

 これによって極限まで強化された俺の身体は、たとえオーガのような屈強な魔物が振るう棍棒が当たったとしても、『顔を赤らめてほっぺたを膨らめたカワイイ幼女が涙目で胸をポカポカ叩いてくる』程度の痛みしか感じない。

 敵の魔法も素手で殴り散らせるし、ヴェノムバイパーの毒液もコカトリスの石化の吐息も、ゲームで言うならばそういう状態異常攻撃だって全く効果を発揮できずに俺の身体を汚すだけだ。


 セッ〇スしたら消えちゃうけど!!


 さらにもう一つの【古今無双の力※】。

 体力、筋力、視力に聴力は言わずもがな。果ては魔力や瞬発力、判断力や演算能力などなど、ありとあらゆる〝力〟が極限まで強化されている。

 ちょっと殴ればゴブリンが、オークが弾け飛び、蹴りが当たればミノタウロスが、ケンタウロスが切り揉みして吹き飛んでいく。まるで『ありえねぇー!!』が謳い文句のカンフー〇ッスルみたいに、並み居る魔物達が景気良く吹っ飛んでくぜ。


 セ〇クスしたら消えちゃうけど!!



「さて、肝心のボスキャラはどんなヤツなのかな?」


「油断するなよハクヤ。あの陣から感じ取れる魔力の量は異常だ。先のブラッドオーガがまるで赤子に思えてくる」



 ふぅん? 魔力の扱いに関しては圧倒的に俺より上手いフローラが言うなら、まあそういうことなんだろうな。

 確かブラッドオーガが、クラス分けをすると〝将級〟の魔物なんだったか。


 この世界で魔物と呼ばれているいわゆるモンスター達には、その強さや危険度によってクラス分けがされている。


 最下級とされる〝人級〟。

 人程度の力しか持たず、多少の心得のある者なら兵で無くとも倒すことができるクラスだ。定番のゴブリンやスライム、あとは無害とされていたり食料と見做されているような弱い魔物達だ。


 次に強いのが〝兵級〟。

 訓練を受けた兵士ほどの戦闘力とされていて、人間が同じ兵士で対抗するなら三~四人対一匹が理想とされるヤツらだ。オークやコボルトがそれに当たり、あとは獣系の魔物の下位種……ウルフなんかもこの辺りに分類されている。


 次が〝騎兵級〟。

 騎馬に乗った騎士と同等とされるクラスで、兵士であるなら十人以上の部隊で以て戦うような相手だ。オーガやトロールなど、割と大きめの種類だったり、狂暴だったりとこの辺りからかなり危険になってくるらしいな。あとは魔法や状態異常攻撃なんかを使う種類も、この騎兵級に分類されるらしい。ゴブリンシャーマンなんかの進化した上位種もこの〝騎兵級〟だ。


 そして〝将級〟。

 軍と呼べるような大規模な隊を形成して相手取るような危険な魔物だ。先に倒したブラッドオーガや、よく聞くワイバーンやヒュドラなんかもこの辺りだ。一般では個人で倒すことのできる限界と言われているそうで、それを成した者は例外なく英雄と称えられるほどだとか。まあ何事も例外はあるだろうがな。俺とか、俺との訓練で格段に腕を上げた、フローラとか。



「〝将級〟を超えるってことは〝王級〟か? それとも〝帝級〟?」


「分らんな。そもそも魔王軍の内情についても調査が進んでいるとは言い難い現状なのだ。よもや〝災害級〟や〝伝説級〟なんぞは魔王に仕えていないと願いたいところだが……」



 なんだかなぁ。

 このグリフィオーネ王国が標的になる前にも、いくつかの国が滅ぼされてたんだろ? そういう国と連携したり情報交換をしたりとかは無かったのかね? どうにも人類圏の共通の脅威だというのに、この国も含めて各国には魔王軍に対して本気度というか、緊張感というものが見えてこないんだよな。

 共通の敵を前に同盟を組んだりとか、長年の仇敵である国同士が停戦して手を取り合ったりとか、そういう動きがあっても良さそうなもんだけど。


 単に俺がお気楽なだけなのかね?

 共通の脅威が現れれば人類は団結できるなんて、所詮創作の中だけの絵空事や綺麗事なのかねぇ?



「ッ!? ハクヤッ!!」


「ああ、どうやら本命のお出ましみたいだな」



 敵陣深く切り込んだ俺とフローラだったが、相変わらず周囲は魔物で溢れており、包囲の輪も崩してもすぐに修復されてしまっている。

 だが裏を返せば、それだけ手厚い守りを布きたいがここには〝在る〟、もしくは〝居る〟はずだ。


 ここまで近付けば俺にも分かる、他の有象無象とは別格の魔力の塊り。それが……三つ。

 その内の二つが、俺達を取り囲む包囲網を割ってこちらに近付いてくる。



「出番ですよ、フローラ先生!!」


「誰が先生だ、誰がッ!?」



 魔物なのは一目で分かる。だが生憎と俺は日本生まれの日本育ちで、脳内ウィキペディアも脳内魔物図鑑も持っちゃいないからな。

 頼れるセクスィー♡ でダイナマイツ♡ なフローラてんてーに教えてもらおうじゃないの! もちろん放課後の特別課外授業なんかも大歓迎だぜ!



「……サイクロプス、〝将級〟の魔物だな。怪力を持ち非常に狂暴で、魔法も使うぞ。もう一体はワーウルフか。同じく〝将級〟で俊敏性に優れる。満月の夜には狂騒状態になり、人間に化ける特殊能力も有している。しかしこの者達……ただの魔物ではないな……?」


「ほう。気付いたか、人間の娘。いや、騎士殿と呼んだ方が良いか?」



 むっ。このワンコロめ、俺がフローラたんに返事をする前に割り込みやがって。

 なんか気に入らねぇがここは空気を読んでやるか。んで? 何が普通の魔物と違うんだ?



「我ら二体は主より名を賜っている。どういう意味かは、騎士ならば理解できるだろう?」


「まさか……〝ネームド〟か!? しかも〝将級〟の、それが二体もだと!?」



 うーん、分からん!

 ちょっとフローラたん!? 俺にも分かるように教えてプリーズ! おーい……?



「その通りだ人間の騎士よ! 我らネームドは本来とは別格の能力を得ることができる! そしてさらに絶望をくれてやろう! 我らの主にしてこの軍の指揮官。そして次期四天王候補筆頭とされているあのお方は……貴様ら人間が言うところの〝王級〟のネームドだ」


「なん……だと!?」



 ねえねえサイクロプスくん。俺寂しいんだ。フローラたんってば俺のことほったらかしでワンコロと楽しそうにお喋りしてるし。あ、君もそう? やだよねぇ、どっちが仲間なんだろうねまったく――――



「――――って、ハクヤは何をしとるんだ!? なんで敵のはずのサイクロプスと握手なんぞしているのだ!?」


「いいんだいいんだ。俺なんてどうせ、ぽっと出の狼男に大切な女を盗られるような甲斐性なしなんだ……」


「んなっ!? と、盗られッ!? たいせつ……ッ!?」


「けどまあ、なんとなくは理解できたわ。要はお前らは特別な魔物で、この軍の指揮官はさらにヤベェ幹部候補ってわけだな? ま、そのエリート街道は今日この日、この場で行き止まりだけどな」


「何だ貴様は……? 一体何を言っている?」


「狼男のくせに耳は人間より悪いんだな? お前らはここで、俺が叩き潰すってことだ。特にテメェはフローラたんとイチャイチャお喋りした罪で死刑確定だ」


「だっ……ッ、誰が『お前の』だ誰がッ!? い、イチャイチャなどしておらんわッ!!」



 さてさて、顔を赤くするフローラたんを愛でるのも一興だが、今こうしている間にもアンリ……アンリエッタが大切に思う兵士達が命を削ってる。ならここまで来たら、やることは一つだよなぁ!?



「どうにも〝名前〟ってやつはお前らにとって特別らしいからな。冥途の土産に名乗ってやるよ。俺はハクヤだ。ここでお前らを叩きのめして、いずれ魔王をボコボコにする男……。そしてフローラたんの未来の旦那様だ!」


「ばっ!? ばばばばバカ者ぉおおおおおッ!?」



 安心してくれフローラたん! アンリやレイラも、あとついでだけどメスガキのモカも一緒だからな!!

 いやしかし、顔を真っ赤にしてホント可愛いなフローラたんは。



「随分な大言を吐く男だな。だが嫌いではない。我が名はベオ。サイクロプスはハガという。不遜にも我らが主に楯突く者共よ……。その命、我が主と魔王様への供物としてやろう」


「やってみな狼男。フローラたんはサイクロプスのハガくんをよろしくな。俺、ソイツとはちょっとやりにくいから」


「変に馴れ合ったりするからだ、バカ者っ! だが、私では〝将級〟のネームドなど……」


「俺に一太刀入れるより難しいと思うか? お前なら大丈夫だ。信じてるからな?」


「……分かった。全力を尽くそう」



 こうして敵軍の大将を目前にして、その右腕と左腕っぽいヤツらと戦うことになった。


 俺は狼男のベオと。フローラはサイクロプスのハガと。

 いずれもあのソラリスの街を落としたブラッドオーガと同格……いや、名前を得てさらに強力になったらしいが、果たしてどれだけのモンか。存分に俺の力も試させてもらおうじゃねぇの。




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