#18 今度は間に合ったけど怒る童貞
「よしフローラ、帰り支度をしろ。帰るぞ」
「お、おい、ハクヤ!? レイモンド第五騎士団長殿、どうか発言の撤回と謝罪を! 今は国を上げて魔王軍に抗する時、このような事で仲違いしてどうするのですか!?」
「黙れ敗軍の将如きが! そして断固、我々はそのような胡散臭いガキと肩を並べることなどない!!」
うっわームカつくぅ! その鼻っ柱も肥満の腹もまとめてぶっ潰してやりてぇわ〜!
俺は現在、
二人連れ立って意気揚々と、クロイツって街の近くの砦の指揮官に挨拶に来たら……こんな状況である。一応アンリから持たされた共闘の命令書みたいな書簡も渡したんだけどな。
「異世界の勇者などと、くだらんママゴトを! そのような者の助力など無くとも、我ら第五騎士団と砦の兵のみで魔王軍など蹴散らしてくれるわ!」
唾を飛ばして顔を赤くして。ここの指揮官だというレイモンドとやらが激昂して怒鳴り散らす。
なんだかなぁ。今も砦の外の最前線では、この国の兵士達が血で血を洗う戦争をしてるってのにな。
まあ、突然湧いた俺のような輩を受け入れ難い気持ちも分からんでもないが、そんなこと言ってる場合なのかねぇ……?
「もういいよ、行こうぜフローラ」
「くっ……! レイモンド殿、この事は王女殿下に報告させてもらうぞ!」
今度は間に合った。初めての戦いの時はフローラと極わずかな人しか助けられなかったけど、今度こそ大勢を助けられるって、そう思って喜んでたんだがな――――
『そう……でしたか。なんという愚かなことを……! ハクヤ様、大変申し訳ありません……!』
「アンリが謝ることじゃねえよ。筋を通さなかったアイツの責任だ。たとえ結果がどうなろうとな」
魔導具のウィンドウ越しに俺に頭を下げる女――アンリエッタに、俺達は指揮官から門前払いされたことを伝えた。一応命令書はアイツのとこに置いてきてはあるが、あの様子だともしかしたら
まあ、それも含めてあの第五騎士団の指揮官……レイモンドっつったか。あのクソデブの責任だ。
「は、ハクヤ……! 何もそこまでキツい言い方をせずとも……」
『良いのですフローラ。全てはわたくしの不徳の致すところ、ハクヤ様のお怒りもご尤もですわ』
同行したフローラに
「それで? 俺はこの後どうすりゃいい? あのデブの言う事はもう聞く義理も義務も無ぇが、一応俺はお前と約束した身だ。アンリ……お前の頼みと言うなら聞いてやらんでもない」
「だからハクヤ! 言葉が過ぎる――――」
『お下がりなさい、フローラ』
我ながら尊大な物言いだということは自覚しているが、こればっかりは譲れない部分だしな。
そもそも俺はこの国にとっても、もっと言えばこの世界にとっても部外者な訳だし、召喚されたのとアンリの手前協力体制にはなっているが、あそこまで言われて黙ってハイそうですかと、あのデブのために働こうとも思えないんだよ。そこまで人間できちゃいねぇっての。
そんな態度の俺を見かねて声を上げるフローラだったが、他ならぬアンリによってその言葉は遮られた。
アンリは眉尻を下げた沈痛な面持ちで、ウィンドウ越しの俺と目を合わせた後、再び頭を下げた。
『我が臣下による度重なる無礼、心よりお詫び申し上げます。ですがどうか、ご助力をお願いできないでしょうか? 此度のレイモンド第五騎士団長の責はわたくしが必ずや問い質します。なので何卒、戦場の罪無き兵達をお救いくださいませ……!』
「……分かった。お前の命令書は悪いがヤツに預けっぱなしだ。もしかしたら隠滅も有り得るだろうから、早めに間者なり使者なりを寄越した方がいいぞ。俺は戦場の様子を見て、危なそうな所から順に助けに入る」
『ご配慮、感謝いたしますわ。すぐに遣いの者を手配し送らせていただきます』
「あいよ。そんじゃ、また一段落したら連絡するわ」
『兵士といえど同じ我が国の民です。どうか、我が臣民をお救い下さい』
ままならないモンだな。女だから軽んじられているのか、それとも若さ故か。はたまたあの臆病な王のせいか。忠誠を受けるべき王家の威光は現場には届かず、こうして無様を晒してしまっている。
あの若くてもしっかり者のお姫さんも、内心では煮えくり返ってるだろうな。
「と、いう訳でだ。俺達は俺達で好きにやらせてもらおう。いいなフローラ?」
「あ、ああ……、分かった」
なんでお前が落ち込んでるんだよフローラ……! 悪いのは全部あのデブで、アンリも、ましてやお前だって悪かねぇだろうが……!
「アンリがケジメ付けるって言ったんだから、あのデブのことはもう忘れろ。そもそもお前の今の主はこの俺だろうが。俺の行動にお前が後ろめたさを感じる必要はねぇし、どうしても嫌だったり許せなかったりする時は、殴りでも斬りでもして止めればいい。お前の判断を尊重するくらいには、俺はお前のことを信用してるんだからな?」
「……分かった。詮ないことで時間を取らせて済まない。兵達を助けに行こう」
「おう。頼りにしてるぞ、〝俺の騎士様〟」
「任されよ、〝勇者殿〟」
勇者はやめろと言うに……!
まあそんな感じで切り替えができたフローラを抱えて、俺は砦の屋上から戦場へと飛び込んだのだった。
◇
ゴブリンにオーク、コボルトにウルフにオーガにボアに。リザードマンやらスライムやらと、種類豊富な魔物の軍を蹴散らして進む。
「援軍だ! 王女殿下の命により助太刀に参った! この隊の将は
「援軍痛み入る! 私が隊長だ!」
「ここの魔物は私と勇者たるハクヤが引き受ける! 貴殿らは至急他の隊と連携し、層を厚くして前線を押し上げろ!」
「だ、だが貴殿らはどうするのだ!? たった二人でこの軍勢を……って、なんじゃありゃあッ!?」
めんどくさい兵士達とのやり取りはフローラに丸投げし、俺は突進してきた牙の立派な大猪を片手で止めて、空いた方の手で殴って地面に生けてやる。
続いて……トレントっていうのかな? 人の顔を幹に浮かび上がらせた気色悪い樹木の魔物の蔓を躱し、指を幹に食い込ませて根っこだか足だかを引っこ抜く。そのままトレントを棍棒のように振り回して、寄せ来る魔物共を薙ぎ払って回る。
「ご覧の通りだ! 彼はブラッドオーガすら一撃で仕留めるほどの規格外だ! ここは我らに任せ、安心して引いてくれ!」
「し、承知した! 我等は他の隊と連携し、前線を押し上げる!」
「任せたぞ! 防衛線が堅くなったのを確認したら、我らは敵の大将を討ちに突入する! 連絡兵が居たらその旨を全軍に周知してほしい! それと、他に苦戦している箇所があったら教えてくれ!」
「わ、分かった! 全体でも左翼のここが最も敵の攻勢が激しいはずだ! 敵の司令官はこの左翼側に居ると軍師も睨んでいる! 他の場所は我等が助太刀する故、貴殿らはどうか敵大将を!!」
「承知! 武運を祈る!」
「貴殿らもな! 女神の御加護を!!」
なるほどなるほど。こっちら辺に敵軍のボスが居るわけだな? それじゃあさっさとケリを着けるためにも、がんばっちゃおうかなー!?
「聞いていたなハクヤ!?」
「おうよ! さっさとボスをぶっ潰して、アンリに良い報告を聞かせてやろうぜ! ちゃんとついて来いよ!?」
「ああ! 遅れはしない!」
初めて会った時の戦闘とは比べ物にならないほど、キレのある動きで魔物を斬り裂くフローラ。
火球で焼き、岩を飛ばして包囲を切り崩しながら、手近に寄ってきた魔物から確実に一太刀で斬り伏せていく。
俺は、まさに魔法剣士といったフローラの姿に暫し見蕩れてしまっていたが、気を取り直して魔物の群れに向き直る。
「さあ、死にたいヤツからかかって来い。お前らにあんま恨みは無いけどよ、フローラやアンリ、それに家で待ってる女達を路頭に迷わせる訳にはいかないんでね!」
言葉が通じるかは知らねえけど、そう決意を新たにする。
そうとも。俺にはどうしてもこの国を守り、この世界を救わなくちゃいけない目的がある。
アンリやフローラ、レイラにオマケだけどメスガキのモカと、制約が消えたら思う存分セッ〇スするっていう、崇高なる目的がな!!
なんとかウルフとかいう狼の魔物の顎を裂き、ひと塊りになっている集団に向けて思い切り投げ付ける。
リザードマンが振るう槍を奪い取り、型も何も無く力任せに振り回す。
セ〇クスができない代わりに強大な力を得る
「っ! おいフローラ! あそこ、ヤケに守りが厚くねぇか!?」
「ああ、どうやら当たりのようだな!」
少し息が上がってきた様子のフローラを呼び寄せ庇いながら、魔物のクセにしゃらくさくも陣を組んでいる集団を指差し、確認する。
どうやら、フローラもあそこにボスが居ると判断したようだ。
「それじゃあ、もういっちょ景気良く暴れますかっ!」
「ああ! 背中は任せろ、ハクヤ!」
俺は敵の本陣目掛けて、再び魔物の群れに飛び込んでいったのだった。
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