#13 童貞に目を付けられた女〜フローラ・マクシミリアン〜
『なッ!? 何者だ!?』
『援軍だよ! 今助けるからじっとしてな!!』
突如現れ、私を辱め汚そうとしたミノタウロスをただの一撃で吹き飛ばした男。
これが、私とハクヤの出会いだった。
『オラァこの犬っころがぁ! キレイな脚ペロペロしてて羨ましいぞコンチクショウがァ!!』
『キャイィイイイイインッッ!!??』
私の両脚を左右で拘束し、不快な唾液で私の
き、綺麗な脚だなどと……!? そ、そうなのか……?
『この豚野郎がぁ! 俺なんか最後に可愛い女の子の手を握ったの推しアイドルの握手会(二年前)だぞゴラァッ!!』
『ブヒィイイイイイイイイッッ!!??』
両手首を掴み上げ、鼻息荒く私の肢体を
か、かわ……ッ!? 何を言っているのだこの男は……! しかしそうか……。二年も、手を繋ぐ相手が居なかったのか……。
『そしてそこのネバネバぁ!! ……お前はもうちょい頑張れ!!』
『なんでだぁッ!!??』
『キュイイイッ!!??』
私の身体に覆い被さり、鎧どころか衣服まで溶かそうとしていたスライムは……何故か応援されていた。
自由になった手でスライムの核を潰し、辛うじて倒したものの、応援が効いたのかは分からんが私の胸は露出し、ハクヤに見られてしまった。
私は羞恥に耐えられず、しかしハクヤに馬乗りとなり散々に殴ったにも関わらず痛痒すら与えられず、それどころか揺れる乳房を堪能される始末。
いやもう、ほんっとーに恥ずかしかった……!!
生まれて初めて肌を……それも上司や同僚達に散々に揶揄されてあまり好きではなかったとはいえ胸を……初めて会った男に晒してしまった。
その後は彼が着ていたシャツを貸してくれたので胸は隠せられたが、街を襲った魔物共を駆逐していく戦いの最中、ハクヤがチラチラと私を見ていて物凄く気になったな。やけに恥ずかしい気がしたし。
そして。
『ミッションコンプリートっ!!』
一軍を起こして立ち向かうほどの強力な魔物、〝ブラッドオーガ〟をすら一撃で打ち倒したハクヤのおかげで、私が部隊を全滅させても守れなかったソラリスの街を奪還することができたのだった。
「――――ローラ。おい、フローラ?」
「ふぁ!? な、なんだハクヤ!?」
「いや、この後は王都の観光に行くから案内頼むって、さっきから何度も声掛けてただろ? 聞いてなかったのか?」
「そ、そうだったか!? すまない、考え事をしていた」
異世界から来たというこの男、ハクヤとの出会いを思い返していたら、当の本人の声で回想から現実に引き戻された。
私達は現在、アンリエッタ王女殿下のご紹介により訪れた不動産屋にて、ハクヤの新たな拠点となる屋敷を購入したところだ。
先のブラッドオーガ討伐と都市の奪還の報奨金を使い、首都で栄えている故に地価も物価も高いこの王都で、平民街とはいえ二階建ての立派な屋敷の代金を一括で支払ったのを見た時には、思わず顔が引き攣ったものだ。
まあハクヤが賜った金を彼がどう使おうが、彼の配下となった私には口を挟むものではないのだがな。
「ったく、頼むぜフローラ。お前が居なきゃ俺ってば、迷子になっちゃう自信しかないんだからな? 王都育ちなんだろ?」
「あ、ああ、任せておけ。子供の頃はよく散策していたし、一介の騎士だった頃には巡回警邏の任もこなしていたからな。王都の中ならば、私の庭のようなものだ」
「そりゃ心強いな。頼りにしてるぜ、
『俺の騎士』……か。
その言葉にあの論功行賞の、謁見の時のことが脳裏に浮かび上がる。
都市を奪還したとはいえ
爵位も追加の報奨金すらも辞退したハクヤが要求したのは、まさにその槍玉に上げられていた
『今日この日、この時より、お前は俺だけの騎士に成れ!』
困惑もしたが、何より嬉しかった。
女だてらに騎士となり、将として一軍を任されて臨んだ防衛戦で。想定以上の敵の物量と〝ブラッドオーガ〟などというこれまた想定外の戦力により蹂躙され、
あわや純潔すら失い、魔物共の慰み者となるしかなかった私を救い、それどころか背中を預け、共に戦い部下達の仇を討たせてくれた強い男が、責めるでなくまた褒めるでもなく、ただ純粋に私を欲してくれた。
国からの評価を大いに落とした私に対して、『共に戦おう』と、『共に世界を守ろう』と手を差し伸べ、必要としてくれた。
「まぁーたボーッとしてんなぁ? オラ、モタモタすんな! 楽しい楽しい、王都の観光デートの始まりだぞ!」
「んなっ!? ででで、
彼の騎士として本分を全うしようと、そう心に決めた私の手を引く、カラカラと笑う傍若無人な異世界の男。
「うるせぇ! 黙って俺について来て案内しやがれぃ!」
ハクヤよ、気付いているか?
お前の滅茶苦茶な言い分や行いで、私の心は本当に救われたんだ。敗戦を喫し部下を失い、歩むべき道を見失いつつあった私に、光を届けてくれたんだ。
私はそんな自分勝手なハクヤに引かれるまま、購入した物件の準備に時間が欲しいと言っていた、不動産屋の建物を後にしたのだ。
◇
「フローラたんフローラたん、俺ってば今度はこれを着てみてほしいなぁ〜っ」
「フローラ〝たん〟はやめろっ!? まったく、これで何着目だ……! 私は着せ替え人形ではないのだぞ……!」
「まーたまたそんなこと言っちゃってぇ。結構楽しんでるくせにっ」
「う、うるさいバカ者っ! いいか、絶対に覗くなよ!?」
溜息を漏らしつつ試着室のカーテンを閉める。
ハクヤによってまず案内させられたのは、品揃えの豊富な服屋だった。
てっきり自分の衣服を揃えるのだと油断していた私は、あれよあれよとハクヤの口車に乗せられ、こうして様々な服の試着を繰り返しているのだ。
「まったく、今度はどんな……って、ドレスぅ!? こんなもの着たことも着る機会などもないというのに……!」
町娘風の、王都で流行りだと言う服装を散々試された私に渡された新たな服。それを開くと、背中も胸元も大胆に開いた、そして体型がモロに出るようなシルエットの細い、夜会にも出られそうな黒いワンピースタイプのドレスだった。
こ、こんなモノを着せてどうするつもりなのだ、ハクヤは……!?
とはいえ彼の指摘の通り、着る物を変えて姿見に写る自身の変貌ぶりを観るのも少し楽しいと、そう思ってしまっている自分も確かに居た訳で。
好奇心に負けた私は、覚悟を決めてそのドレスを身に纏ってみてしまうのだった。
「ど、どうだ……?」
そうして羞恥に耐えながらもカーテンを開いた私に、ハクヤは何故か満面の笑みを浮かべながら。
「えっろ……! すっげぇエロい!! 最高! イイネ!!」
なんだろうか。『エロい』という言葉の意味はイマイチ分からんが、そこはかとなく恥ずかしさが込み上げてくるこの感覚は一体何なのだっ!? よく見たらなんか店員も顔を赤らめて観てきてるし!?
「〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
あまりの恥ずかしさに顔を熱くして、逃げるようにカーテンの中へ飛び込む。
何なのだ!? 『エロい』ってなに!? 最高って……!? イイネってそういうこと……ッ!?
もはや頭の中は熱に浮かされ、混乱の極みだ。
頬が熱い。動悸がうるさい。ハクヤの笑顔が頭から離れない……!
「フローラ、次はコレとコレも着てみてくれ! 絶対似合うしキレイだから!」
うううううるさいっ! キレイとか絶対とか言うなぁッ!? って、なんだこれはぁああああ!!??
もう嫌だ、恥ずかしいと火照りながらも断る文句も思い浮かばず、カーテンの隙間から差し込まれた新たな衣服を受け取ってしまった私は、さらに顔を熱くする。
スカートの丈が短い!? 何このスリットの深さ!? 肩も出るし胸元開きすぎぃ!? おっぱい見えちゃうっ!!??
ちょ、こんなの普段騎士服か鎧しか着てない私にはとても――――
「まだかなぁ〜! 楽しみだなぁ〜!! フローラ美人でスタイルも良いから絶対似合うし、えっろいだろうなぁ〜っ!!」
ううう、うるさいうるさいうるさいいいいいっ!!
美人とか言うなぁッ! 褒めるなぁ!! 断れなくなっちゃうだろうがぁっ!!?
結局その後も押し切られるように試着は続き、ある意味彼に胸を見られた時よりも、数倍……いや数百倍は恥ずかしい思いをし続けたのだった。
その夜のこと。
購入した屋敷の準備が整うまでと部屋を取った高級宿の部屋にて。
「な……っ、なんだこれはぁああああああッ!!??」
ハクヤに押し付けられるように渡された衣服の数々に紛れ込んでいた、小さな包み。
訝しみ開いてみたものの、出てきたのは数種類の下着と一枚の書付だった。
震える手で書付を開いて文字を追った私は、思わずそれを取り落としてしてしまった。
その書付には。
『勝負の時や俺を襲いたくなった時、いつでもこれ等を装着して、そして是非見せてくれ』
な、なななな、なななななぁああああああッ!!??
顔が熱い! なんだコレは!? 透け透けじゃないか!? 布面積が小さ過ぎる!? コレなんてなんで
「あんのっ……! ド変態がぁあーーーーッ!!!」
壁の厚い高級宿で心底よかったと、私は卑猥な下着に囲まれながらベッドで悶えたのだった――――
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