#11 童貞は方針を固めた



「まったく、なんという無茶を! おかげで寿命の縮む思いだったぞ!?」


「そんなに怒るなよフローラ。おかげで晴れて〝俺の騎士〟になったことだし、これで手柄も挙げ放題だぞ?」



 俺に宛てがわれた貴賓室のソファに腰を下ろして、目の前で耳に心地好い涼やかな声でプリプリするフローラと向き合う。



「怒っているのではない! 心配しているのだ、私は!」



 怒ってる顔も美人で可愛いぜ、フローラたん……! って、心配だぁ?



「何を心配することがあるんだよ?」



 不思議に思い聞き返す。

 完全な降格処分は元より、煩わしい指揮系統から独立できたんだ。感謝されこそすれ、俺が心配されるいわれはないはずなんだがな?



「決まっている! あのような不遜な口を陛下や国の重鎮達に利いておいて、しかも任務にしくじった私のような者を傘下に加えるなど……! ハクヤの立場が危うくなるだけではないか!?」



 細い腰に手を当てて、仁王立ちで俺に説いてくるフローラ。そして何を言うかと思えば……俺の立場だぁ?



「フローラが気にすることじゃねぇよ。そもそも俺は召喚されたその日に、この城の全員に喧嘩売って勝ってるんだからな。表立って俺に逆らう奴なんか居ねぇよ」


「っ……! だが……!」


「そもそもお姫さん……アンリエッタの言葉を聞いただろ? 今は魔王軍との戦さの真っ只中で、その最終判断の全権は今や彼女が握ってるんだ。その彼女がOKっつったんだから、気にするこたぁねぇさ」



 論功行賞の場で、俺が要求したフローラの身柄。

 〝俺専属の騎士〟として所属を国から独立させるという割と無茶な要求に対し、アンリエッタは即答に近い形で首を縦に振った。

 それによってフローラは敗戦の責任を負うことは無くなり、しかもそれ以降は国の如何なる命令も聞かなくて良くなった。

 困ったのはフローラに敗戦の責任を問うていたお偉いさん方だが、それも想定外に出現した〝ブラッドオーガ〟という強力な魔物のせいだと結論付けられ、証拠の死骸もあることから責任追及は有耶無耶となり、国民には改めて発表が成されることとなった。


 まあ俺から言わせれば、最終的な判断として彼女ら防衛軍を配置した、軍師なり司令官なりが責任を負うべきとは思うんだけどな。

 現場で最後の一兵となるまで戦い抜いたフローラに責任を問うなんて、あまりにも可哀想だろ。


 そんなこんなで彼女を手に入れ、そして今に至る訳なんだが。



「しっかしお前さ、なんで鎧姿なんだ?」



 俺の部屋で俺に対してお小言を漏らすフローラに、俺は気になっていたことを訊ねてみる。


 それは彼女の格好についてだ。ここは戦場でも、訓練場でもない部屋の中だというのに、フローラは何故か初めて会った時――あの時は溶かされてたけどな――のような騎士の鎧姿なのだ。



「決まっている。私はハクヤの専属の騎士となったのだからな。いつ如何なる事が起ころうとも、お前を守るためだ」



 燃えるような赤い長髪をアップに纏め、白銀の胸甲とスカートのような腰鎧、そして篭手と脚甲を纏い完全装備といった出で立ちで、『ふんすっ』と鼻息を吐き出しそうなドヤ顔をキメるフローラたん。


 鎧の下は……ほう。黒のピッチリしたインナーとフトモモまでスリットの入ったスカートのような腰垂れだな。

 是非とも鎧を剥いてインナー姿も拝んでみたいモンだぜ……!



「おいおい。こんな城の中で、しかも〝勇者〟として招かれた俺に対して、一体何があるって言うんだよ?」


「お前は甘い」


「あん?」



 女騎士然とした格好を舐めるように眺めていると、厳しい顔をしたフローラにたしなめるようにそう言われる。

 俺が『甘い』? いや、確かにスイートなマスクと女性には優しい紳士であることは認めるが……っと、どうやらそんな冗談を言える雰囲気ではなさそうだぞ?



「ハクヤ、お前は強い。一軍を以てしても敵わぬ、まさに〝勇者〟に相応しい力を持っているだろう。正直に言えば憧れも、嫉妬すら覚える」



 あ、や……! 急にそんな褒められても俺、困っちゃう……!

 これはアレか!? 『お願い抱いて!』的なアレなのか!? おあつらえ向きにココは俺の部屋だし、キングサイズのフカフカベッドもあることだし!


 でもダメなの! 俺は世界を救うまでセッ〇スはできない――――



「だが、敵を作り過ぎだ」


「……敵を?」



 いかんいかん。真面目なフローラたんの真剣な顔を前に、俺はおピンクな妄想を慌てて打ち消して向き直る。


 いやだってしょうがないじゃん!

 昨日は結局フローラのフローラルなシャツでなかったし、代わりに手に入れたメガパン――女神のおパンツだってまだ堪能できてないんだもん!



「王女殿下はまだ良い。あのお方は明確にハクヤに味方なさってくれている。今日の謁見や論功の場でそれは確信した。だが、国王陛下や宰相、大臣達、そして貴族達……。お前の言動で顔に泥を塗られた彼等が、このまま黙っているとは正直思えん」


「へぇ……? 暗殺やら何やら、俺に仕掛けてくるとでも?」


「どのような手段を用いるかまでは分からん。だが、貴族などの上流階級の者達は、ハクヤが思う以上に面目を気にする生き物なのだ」



 うーわー、めんどくさっ!

 今って国家存亡の危機なんだろ? そんな状況でそんなモン気にしてる場合かよ?



「プライドで国が救えるなら、最初から俺なんぞ喚ぶなっつー話なんだがな」


「耳が痛いな。どうか愚かな我らを許してくれ。お前にはこの国に尽くす義理も義務も無いというのに……」



 バカお前、なんでお前が謝るんだよ? お前こそ上の連中にちょっとは文句言っても良いと思うんだけどな。実際に前線で身体張ってるのは、お前ら騎士や兵士達なんだし。


 ……旧態依然とした身分制度か。思ったよりも面倒が多そうだなぁ。



「だからって、お前一人でずっと俺の護衛をするつもりか? 昼も夜も、四六時中鎧に身を包んで、ずっとそうやって気を張り詰めてるつもりなのか?」


「むぅ……、それは……」



 そんなこと、フローラにさせたくねぇな。

 そもそも祝福ギフトのおかげで俺は毒やら何やらもあまり効かないらしいし、護衛そんなことのために彼女を連中から奪い取ったワケじゃねぇ。

 多分に下心もあるっちゃあるが、多くの部下を失いながらもその仇を討った、頑張った彼女に対する褒美も何も無く降格だ左遷だなんて、そんな不当な処分が下されるのが見過ごせなかったからだ。


 それに、こう常に一緒に居られてはし。

 今だって散々俺のパトスを吐き出したくてムラムラ……ごほんっ。ウズウズしてるし。



「よし、城出るか」


「……は?」



 俺は俺だけでなく、フローラも安心して眠れる環境に身を移すことに決めた。

 報奨金とやらで一軒家でも買って、防犯対策もすれば安心して生活できるだろ。


 そうと決まれば、早速アンリエッタに相談だな。フローラも彼女だけは信用してるみたいだし、俺もその意見には賛成だしな。



「いや、何故そうなる!? 急にどうしたんだハクヤ!?」



 何故って? そんなの決まってるだろ?

 こうやって護衛だっつって常にお前が近くに居たら、俺はいつまで経ってもオ〇ニーできねぇからだ!!


 気合い一新。俺は堅苦しい礼服を勢いよく脱ぐ。

 動きにくくてしょうがないし、何よりが、フローラが昨日着ていたシャツが洗濯から返ってきてたからだ。



「バッ!? 何を……なんで脱ぐんだッ!?」



 顔を赤くして慌てて背けるフローラ。


 決まってるだろ! フローラのフローラルは無くなっちゃったけど、お前のたゆんたゆんや綺麗な肌を包み込んだシャツをせめて堪能したいからだ!!




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