#10 童貞は女騎士を貰った
あー、ムラムラすんなー!
前を歩くアンリエッタ姫のドレスのお尻を観ながら、形だけは直したらしい俺が壊した玉座の間へと向かう。
なんでも都市防衛に関する褒賞の授与があるらしく、公式行事のため体裁を調える必要があるそうな。
うん、ぶっちゃけ面倒臭い。
いやね? 褒めてくれるのは嬉しいワケよ。俺だって人間だもの。だけどそれより、今は早く女神のパンツ略してメガパンで一発スッキリしたいなーって思うワケなんですよ、ハイ。
「到着しましたハクヤ様。一度は貴方様に明け渡した玉座ですが、公式には未だ愚王が王位に居りますので、どうかご寛恕を賜りますよう……」
「ああ、良いって良いって。ぶっちゃけあん時玉座奪ったのなんてノリみたいなモンだし」
手をヒラヒラさせつつ返事を返すと、あからさまにホッとした様子で微笑むアンリエッタ。
なんつーか、板挟みの中間管理職みたいだなアンリちゃん……! ご苦労様ですっ!
まあその苦労の一端を担ってる自覚は多少はあるからな。あの国王ならともかく、アンリエッタの言うことはある程度は聞いてやらんでもないな。
「それでは、論功行賞に参りましょう、ハクヤ様」
「へーい」
俺達は並んで、玉座の間へと足を踏み入れたのだった。
「ハクヤ・コクトウ殿。そなたの獅子奮迅の活躍により、我が王国の都市は魔王軍の魔手より脱することができ申した。よってこの功績を称え、報奨金と我が国の伯爵位を与えよう」
「え、金はともかく爵位なんぞ要らねぇんだけど」
「…………え??」
うはは。玉座の間へと集った王国の貴族諸氏よ、そう固まるでないわ。
俺は偉そうに玉座でふんぞり返っていた国王にハッキリと辞退の意志を伝えた。
当然断られるとは思ってなかっただろう国王も、その隣りのアンリエッタ姫も、玉座の雛壇みたいな段差に佇む宰相や大臣達も、どころか俺の両側を挟むように集っている貴族諸侯や警備の騎士達も、みんな揃って目が点になっているな。
「聴こえなかったか? 爵位なんぞ要らんと言ったんだ。いつから国王、お前は俺の上の立場だと錯覚していた? 褒美と言うなら金でいい。余計な気を回すんじゃねぇぞ?」
「かしこまりました、ハクヤ様。それでは爵位を辞退された分を上乗せして、報奨金をお渡ししますわ。それでよろしいでしょうか?」
「ああ、それでいいよアンリエッタ。スマンな、こんな
「いいえ、またも浅はかであったと、我等一同恥じ入るばかりですわ」
即座にアンリエッタがフォローを入れたおかげで、場の混乱は避けられた。
しかしまあ、敵意剥き出しで睨んでくる奴らがたくさん居るなぁー。どうしよう、また暴れちゃおっかなー?
「皆、落ち着きなさい。ハクヤ様に関する全権は、わたくしアンリエッタが国王陛下より全権を委任されております。異議不服は認めません。そもそも我等は、ハクヤ様にお力をお借りしているという事実を忘れてはなりませんよ」
さすがアンリエッタだな。ピリッとスパイスの効いた一喝で、ザワついていた貴族共を一発で黙らせちまった。
国王よ、お前さっさと彼女に王位譲ったら?
「では、続いてフローラ・マクシミリアン卿、前へ!」
「はっ」
俺への論功は終わりみたいで、続いて俺と共に街の奪還のために戦った美人女騎士、フローラが名を読み上げられる。
俺の横を通り過ぎる際にチラリと見えたその顔は、何故かやけに強ばって見えた。
「フローラ・マクシミリアン卿。其の方は国王陛下より賜わりし防衛軍を率い、都市〝ソラリス〟の守護を命じられた。相違無いな?」
「はっ。間違いありません」
玉座の前に進み出て跪いたフローラへと、宰相が確認の文言を投げ掛ける。それに対しフローラは、毅然とした態度でハッキリと答えを返している。
なんか……おかしくねぇか?
「其の方、
「ございません」
いやおい、『ございません』じゃなくてよ、フローラ!?
なんだよこれ……? これじゃまるで、フローラを戦犯に見立てた
ふざけんなよ!? フローラが、コイツがどれだけ悔しい思いをしたと思ってやがる!? どれだけ苦しんで、どれだけ悲しんだと思っていやがるんだ!?
てめぇらは王都でぬくぬくと、死体や兵士の数を数えてただけだろうが!? 現地で、目の前で部下達を失った彼女を、その仇を討ってきたフローラを、どうしててめぇらが責められるんだよ!?
「フローラ・マクシミリアン卿。この度の敗戦の責により、其の方の将軍職の任を解く。今日この日より一介の騎士として扱うものとし、より一層の戦働きを期待するものである」
「謹んでお受けいたします」
そりゃあ、頭では分かってるさ。
戦争に負けたら、誰かが責任を負わなきゃならない。その資格と義務を持つのが、俺が見付けられた唯一の生存者であるフローラであることもなんとなくは理解できるさ。
だけどよ……ッ!
「アンリエッタ、いいか?」
「はい、ハクヤ様。如何なさいましたか?」
無理だ。俺にはこんなことを見過ごせるほどの広い視野も、深い懐も有りはしない。
そうさ。〝童貞〟を揶揄されただけでブチ切れて城を壊すような、短期で心の狭い男だ、俺は。
だから、短慮らしく狭量らしく振る舞おうじゃねぇか。
「さっきの報奨金だがな、上乗せせず本来の額でいい。代わりに欲しいものを見付けた」
「……お聞かせ願えますか?」
薄々は感付いているくせによ。だがいいぜアンリエッタ。公の場で、声高に宣言する事が大事なんだろ!?
「俺はこの先、魔王軍に対して先陣を切って戦い続けることになる。しかし俺にはこの世界の知識も常識も、ましてや魔物共のことや魔王軍についての情報も何もかもが不足している。それを補うために専属の騎士をくれ。身の回りのことから戦いの相棒まで、しっかりとこなせられるような有能な騎士を、この
周りの有象無象共も俺の狙いに気付き始めたのか、ザワザワと騒ぎ始めやがった。
「静まりなさい! ハクヤ様、元より我等グリフィオーネ王国は、魔王軍との戦いにおいてハクヤ様を全面的に支援いたします。ハクヤ様が必要と断じられるのであれば、それにお応えするのが我等の役目でございます。どうぞ、ご指名下さいませ」
一喝して貴族共を黙らせたアンリエッタは、俺を真っ直ぐに見詰めてから、柔らかく微笑を浮かべた。
ありがとな、アンリエッタ。お前が賛同してくれるなら、何よりも心強いわ。
俺は深く息を吸い込んで、腹に力を込める。そして、その名を発するために口を開いた。
「フローラ・マクシミリアン卿。グリフィオーネ王国の所属から離れ、俺に忠誠を預けろ。お前の剣は俺と共に魔王軍を打ち払い、世界を救うために在る。お前の盾は俺と共に魔王軍を阻み、世界を護るために在る。今日この日、この時より、お前は
俺を見詰めるフローラの惚けたような顔が、美人のはずなのにひどく可愛く見えて、とても印象的だった。
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