#09 童貞は我慢した
失意に飲まれ
眠い。
眠いけど苛立ちのせいで中々寝られずにいたらいつの間にか朝になっていた。
「……【神託】」
ボソリと呟いた言葉によって、世界は色を失い灰色になる。
ナニをするって?
決まってるだろ! 八つ当たりだ!!
灰色の世界で、俺は
「「え……?」」
重なる二人の声。
混じり合う視線。
俺の目の前には、水に濡れた陶磁器のような肌を晒す、あられもない姿の〝自称・愛の女神〟セレスティアの姿が在った。
「ちょっと待ってくれ。俺も服を脱ぐから――――」
「脱ぐなぁあああああ!! ってそうじゃなくてイヤァアアアーーーッッ!!?? ちょっ、待っ……!? なんでお風呂中に呼び出すのよぉおおおおおお!!??」
そうかそうかお風呂中だったのか。奇遇だな、俺も今ちょうどお風呂に入りたくなって――――
「Don't touch me !!」
「うぶぇばッッ!!??」
ぐおああッ!? 目がっ! 目がぁあああああ!!??
突如爆発的に光を発した
「テメェこの駄女神が……! 何しやがるッ!?」
「アンタこそナニするつもりよッ!? お風呂中の女の子を
「うぐ……ッ!?」
た、確かに……!? まさかお風呂中とは思ってなかったけども!
そう言葉に詰まり、思い直して改めて〝
長い腰まで伸ばした真っ白なストレートヘアに、陶磁器のような真っ白な肌。豊かな双丘にキュッとクビレた腰、そこから膨らむマシュマロのように柔らかそうな臀部。これまた長い白い睫毛が生える
「ストーップ!! &バ〇ス!!!」
「ぐわぁああああああッッ!!?? 目が、目がぁああああああッッ!!??」
おかしい! 灰色の色の無い世界なのに眩しさを感じるなんておかし過ぎるぅううううう!!!
俺は再び両目を押さえて、貴賓室の床を転げ回ったのだった。
「まったく! それで? 何の用で喚んだわけ?!」
ご立腹の駄女神だったが、その一言で俺を問い詰めてくる。
コイツを喚んでから既に五分くらいは経っているだろう。俺は残り半分の時間を無駄にしないよう、簡潔に単純明快に言い放った。
「セレスティア。お前は俺に借りがあるな?」
「な、なによ急に!? 愛の女神様であるこのわたしが、たかが人間のアンタに借りですって!?」
「契約前の説明責任の放棄。神々が抱える問題を俺に押し付けた負い目や良心の呵責は無いのか? 29年間も童貞を捨てられず、挙句死んでしまったこの俺にさらに童貞を守らせることに、罪悪感は感じないのか!?」
「う……ぐぅ……ッ!?」
ふっ。効いてる効いてる。
自称でも〝愛の女神〟と名乗るくらいならその本質は善良なのだろう、という俺の読みは当たっていたようで、その読みの通りに
これならもう一押しでイケるな……!
「だが俺も鬼じゃない。俺の地雷の上でタップダンスを踊りやがったこの国の王でさえも許した慈悲深い男だ。お前の示す誠意次第では、過去のそれらは水に流してやってもいい」
「せ、誠意って何よ……!? それを示せば、アンタはちゃんとこの世界を救うために頑張ってくれるのね……!?」
これはもう落ちたも同然だな! 恐るべし我が交渉術!
「ああ。お前達神々も俺を選んだ理由があるんだろ? 例えばチートに付随するデメリットのせいで、
「……勿体ぶらずに言いなさいよ。わたしが干渉できる範囲でなら、聞いてあげないこともないわ」
言質は頂いたぞ? もう泣いて謝ったって撤回しねぇからな?
俺は息を調え、コイツを喚び出した時から考えていた要求を口にする。
「入浴前までお前が履いていた下着を寄越せ」
「……………………は??」
「聴こえなかったか? 風呂に入る前に脱いだお前のパンツと、あるのならブラジャーも寄越せと言ったんだ」
「……は? え、……は? な、ナニを言ってるの、アンタ……!?」
「実は昨日立てていた俺の計画が瓦解してな。女騎士の着ていたシャツが手に入らなくなった。その代用として、お前が脱いだ下着を所望すると言っているんだ。さあ寄越せ。今寄越せ。さっさと寄越せ」
「〜〜〜〜〜〜っ!? ヘ、ヘンタイ!!」
「そんな在り来りの罵倒など要らん。俺に必要なのはパッションを沸き起こす程の極上の
「ぐぅ……ッ!?」
ほう……? 女神でも頬を赤らめることがあるんだな。
いいぞ……! そのまま羞恥に悶えながら俺にパンツを明け渡すがいい! その仕草すら俺はオカズにしてくれるわ!
「……や、約束よ? 本当に
「ああ。〝愛の女神〟様に誓おう」
「だ、誰にも触らせないでね!? アンタ以外が触れることなんて、絶対許さないんだからね!?」
「ああ。肌身離さず守り抜いて、お前だと思って朝晩に感謝の礼拝も捧げよう」
「……分かったわよ……。ほら……っ」
顔を真っ赤にして、空間に開けた穴のような所に手を突っ込んだセレスティア。そこから引き抜かれたその手には一枚の、材質は不明だが布のような物。
「ブラは無いのか?」
「な、無いわよそんなの! つつ、着けてないもんっ」
の、ノーブラ……だと……!?
いやまあ確かに? 彼女が着ている白い羽衣のような衣装には、ブラジャーなんて物は要らないような気もするが。
「そうか。じゃあそのパンツは有り難く頂戴しよう。大切に
「あ、あんまりパンツとか
「そうか? じゃあ堪能させていただく」
「それもイヤァーーーッ!! もうっ、このヘンタイ!! ここまでして世界の救済をしくじったらタダじゃ置かないんだからねッ!? じゃあねッ!!」
「あっ、おい……!?」
セレスティアは俺に自身が履いていたパンツを投げ付けると、逃げるようにして消えてしまった。
途端に色を取り戻す世界。
うむ。アイツめ、何もかも真っ白だと思ってたら案の定パンツも白だったか。
「……う……!」
俺は床に落とさないよう丁寧にキャッチしたそれを広げる。
間違いない。脚を通す二つの穴に、三角形のフォルム。紛うことなき女性用のパンツだ。しかも着用後の!!
「うおっしゃらァああああああああぁぁぁあ!!!」
俺は勢いよくバスローブを脱ぎ捨て、貴賓用のフカフカのベッドに全裸でダイブする。
ヤるぞ! 俺はヤッてやるぞ!!
世界広しといえど〝女神のパンツ〟をオカズにした奴なんて、俺しか居るまいよ!!
俺は羞恥に頬を染める愛の女神の顔や
「おはようございます、ハクヤ様? ご朝食のお時間になりますのでお迎えに――――」
「え?」
俺の部屋に、まるで時を停めたかのような静寂が訪れる。
俺の視線の先には、今日も可愛らしい顔をして俺を呼びに来てくれたであろうアンリエッタ姫の姿が。
固まった彼女の視線を辿ると、今まさに荒々しく抜き身となっている俺の〝聖剣〟が――――
「イヤァアアアーーーーーーッッ!!?? ですからどうして事ある毎に全裸になってらっしゃるんですのぉおおおおおーーーーッ!!??」
顔を真っ赤にして手で覆い隠し、それでもチラチラ指の隙間から覗き見ている、アンリエッタの絶叫が響き渡る。
ん? ちょっと待て?
アンリエッタが朝食に呼びに来たってことは……、おい待て!? ここまできて
「おはようアンリエッタ。別に観ていても構わないんだが、これから俺は情熱を発散せねばならない。とりあえず扉を閉めてくれ」
「見ッ!? みみ、見ませんわ観てませんわッ!!?? というより早く服をお召しになってくださいませぇッ!! 本日は大切なお話がございますからッ!!」
む、そうなのか? ここまで滾ってるのになぁ……!
だが未来の情事の相手を困らせるのは本意ではないし……、仕方ない。ここは大人な俺が我慢するか。
待ってろよ女神のパンツ!!
今日中にはお前を堪能してやるからな!!
溜息を吐きながら、俺は〝聖剣〟を鞘に納めたのだった。
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